女神の花嫁(須賀しのぶ)

592 名前:1/5 :2011/11/05(土) 01:43:13.65
須賀しのぶ「女神の花嫁」

元々、流血女神伝てシリーズになってる本編があるんたけどそれの外伝。
重いっつーか切ないっつーか。仕方ないんだろうけど、なにか別の道が
なかったもんかね…ともやもやするタイプの話。

主人公の少女ラクリゼはザカリアって女神を信奉してる部族の生まれ。
原始宗教な感じで、部族は生贄をささげたり性に奔放な感覚だったりするもんで、
よその国ではザカリアは邪神扱いされてて、部族の血を引く人間
(見た目が独特なんですぐ分かる)や女神の信徒は迫害されたりしてる。

でも迫害されればされるほど部族の人間たちは女神にすがり、
力を与えてもらう代わりにその下僕となってザカリア復活のため尽くしていた。
女神の「千人目の部族長が世界の王となる」という言葉を信じながら。

そのため部族の長は代々、女神が選んだ依り代の「女神の娘」
(必ず部族以外の女性)を探しだして妻にし、生まれた息子(必ず息子が
生まれる決まりだった)を次の長にするというのを繰り返していた。
千人目の長が生まれる時、女神もまた復活を遂げるのだと。

ラクリゼの父は999番目の長を里にもたらすべく、自分の妻となる
「女神の娘」を探しだした。その女性は寡婦ですでに二人の子もちだった。
素敵な女性でラクリゼの父はすぐに彼女に惹かれ、少しずつ女性も
心を開き、二人は恋に落ちた。

子供たちもラクリゼの父になつき、このままここで四人で暮らせれば
どんなに幸せか、と思うのだが「女神の娘」を連れ帰らなければならない
長としての使命の間でラクリゼの父は葛藤する。
今までの「女神の娘」は皆、気が触れおかしくなって死んでいたからだ。


593 名前:2/5 :2011/11/05(土) 01:44:39.84
迷うものの、部族千年の悲願を自分一人の望みの為に潰えさすわけにはいかず、
ラクリゼの父親は全てを伏せて彼女を騙す形で里に連れ帰る。
何も知らない彼女は夫の故郷だと思っていた里で、自分が「女神の娘」で
ある事を告げられ、覚醒のためにと目の前で二人の子供たちを殺され
発狂してしまった。普段は人形のように何も見ず口を利かず、
ラクリゼの父親に対してだけ獣のように猛り憎悪を向ける。
だが、そうまでして生まれたラクリゼは長にはなれない女児であった。

ラクリゼの父親はその事に激しい衝撃を受け、現実を直視できなかった。
事実を隠蔽しラクリゼを息子として育てながら、彼女を無視し続けたのだ。
成長したラクリゼは父親に自分を認めて欲しいがため、完璧を目指して
鍛練を重ね、皮肉にも周りからは歴代で一番優れた長になるのではと
期待され、女である事に気が付く者はいなかった。

だが、秘密を知られてしまうことを誰より恐れるラクリゼは自分の女性性を
激しく嫌悪し、誰も寄せ付けない険のある人間になってしまっていた。

だがある時、村に引き取られたという少年サルベーンに初対面で
おもむろに「君は女か?」と問われ、ラクリゼは愕然とする。
侮辱されたとその場は力ずくで黙らせことなきを得るが、
「あまりに綺麗だから女の子だと思った」などというサルベーンに
ラクリゼは苛立ちと困惑を隠せない。

サルベーンは半分ザカール人の血を引くハーフだった。
両親は里の外でザカリア女神を奉ったために迫害されて死んだ。
彼だけがなんとか村までたどり着いたのだった。

長としての父に頼まれ、しょうがなくサルベーンの面倒を見ていた
ラクリゼだが、身体のことから未来に希望が持てず、サルベーンの
語る「外の世界」にだんだんと惹かれていく。サルベーンもまた
閉塞的な里には心からは馴染めず、二人は共に里を飛び出るのだった。


594 名前:3/5 :2011/11/05(土) 01:45:42.88
「強さ」に信を置くサルベーンは噂で聞いた傭兵団にラクリゼを誘った。
実力次第でのしあがれる傭兵団は自分とラクリゼにぴったりだと。
最初は乗り気だったラクリゼだが、予知夢でサルベーンが傭兵団で
殺戮に心を麻痺させ、生きた屍のようになってしまうというのを見てしまい
一転反対する。それは言い争いに発展し、また、やはりラクリゼが女なのだと
知ったサルベーンが彼女を「庇護者」と見なすことに、ラクリゼが不満を
持っていた事もあって子供っぽい諍いは喧嘩別れにまで発展してしまった。

一人になったラクリゼは色々あった挙句、元々持っていたザカリア女神の
加護をも失い、行き倒れてしまう。そんな彼女を助けてくれたのは親切な
猟師一家だった。最初こそ疑い反発していたラクリゼだが、その無償の
愛にいつしか彼女自身大きく変わっていく。優しさに包まれ、笑いあい
「女の子」として愛されて育つことで初めて、女として生まれてきてしまった
自分を肯定的にみる事ができるようになったのだ。

そんな折、ラクリゼは別れてしまったサルベーンの噂をきいた。
彼はまるで別人のように変わってしまっていた。サルベーンは
ラクリゼと別れてから、人に裏切られて暴行を受けたり過酷な体験を
したため荒んでしまい、ますます力に信を置くようになっていたのだ。
ラクリゼは意を決してサルベーンに会いに行き、事情は知らねど荒んだ彼をみて
責任を感じてしまう。子供みたいに我を張って喧嘩別れなどせず、自分が
側にいれば変えられた未来なのではないかと。その思いはサルベーンを
支えたいという気持ちに変わり、ラクリゼは彼を愛していると自覚する。

サルベーンもまた、ラクリゼとの再会にショックを受けていた。
誰より強く潔癖で女神の化身のように思えたラクリゼが、ただの人間に、
というよりうむしろ“美しい女性”になっており、その変化はサルベーンの
与り知らぬ所で起きていたからだ。だが紆余曲折の後に二人は結ばれる。


595 名前:4/5 :2011/11/05(土) 01:46:39.30
ラクリゼに愛され、彼女を愛することでサルベーンは傭兵団の仲間が驚くほど
穏やかになった。精神的に救われたサルベーンは笑顔を見せるようにもなり、
ラクリゼが女神の化身などではなく、ただの人間であることを心から喜んでいた。
だからこそ愛し合えるのだからと。ラクリゼもまたサルベーンのために、
女に生まれてきて良かった、幸せだと感じていた。

ほどなくラクリゼは懐妊し、サルベーンは家族を持つ喜びの只中にいた。

けれどサルベーン達のいる傭兵団に恨みを持つ者の襲撃を受け、
ラクリゼは子供を喪ってしまう。恨みを持つ者たちは傭兵団の男たちの
不在の隙をつき、女子供だけしかいない駐屯村を襲ったのだ。

必死に抵抗する女たちだが狼藉者に陵辱を受けたり殺されたりと駐屯村では
地獄絵図が繰り広げられていた。
ラクリゼはつかの間の幸せに浸りきり、鍛錬を怠ったことを激しく悔やむ。
女神の加護を得ていた頃の自分なら、あんな奴らすぐに皆殺しにできたものをと。

そんな時にラクリゼはザカリア女神の声を聞いたのだ。
(お前の大切なものを引き換えにするなら、力を与えてやる)と。
迷う暇はなく、ラクリゼは腹の子と引き換えに女神の力を取り戻した。

戦地から帰ってきたサルベーンは事情を知り、泣きながら許しを請う
ラクリゼを必死に慰める。失ったものは大きいけれど、お互いさえいれば
きっとやり直せると二人は信じていた。
だが、少しずつ気持ちはズレていき、離れていってしまう。

ラクリゼはかつてのように女神の力を体現する存在になっており、
サルベーンは彼女を愛しながらも、女神に顧みられないと感じる者として、
女神に選ばれたラクリゼに激しい嫉妬心を抱き始めていたのだ。


596 名前:5/5 :2011/11/05(土) 01:47:41.99
最強と謳われた傭兵団もまた少しずつ変わっていった。多くの人間を束ねていた
傭兵団のリーダーは、家族である女たちを失ったショックに老いが重なって気力を失い、
その存在意義を薄れさせていった。そんな中で傭兵団は、ギウタ国に請われて義勇軍として協力する。

ギウタは他国から侵略を受けており、誇り高さゆえに真っ向から対決姿勢を取っていたが
敗色は濃厚だった。傭兵団は最後の誇りを全うするためにと訪れていたのだ。

この頃にはもうサルベーンとラクリゼの仲は完全に冷め切っていたが
それでもラクリゼはサルベーンと共に誇りのため戦える事を嬉しく思っていた。

だが、サルベーンはそんなラクリゼの気持ちも傭兵団の仲間の気持ちをも
裏切り、戦場であるギウタから一人逃げ出したのだった。
預けられた分隊の人間を皆殺しにしての逃亡であった。

その裏切りはラクリゼにとって決定的であった。今まで愛していた気持ちと
同じくらいの強さでラクリゼは裏切り者サルベーンを憎んだ。

憎しみを怒りに変えてラクリゼは戦った。死ぬ覚悟だったが、ラクリゼは
ギウタの王妃に頼まれて、いまだ幼い王国の皇女の身柄を預けられる。
「娘だけでも逃がして欲しい」と懇願され、ラクリゼは突破不可能と
思われた戦陣を人間離れした業で駆け抜けて生き延び、皇女を逃がしたのだった。

その後、本編に引き続く。この時ラクリゼが助けた皇女が本編の主人公。
でもってこの皇女は、ラクリゼが男で部族の長だったら妻にするはずだった
「女神の娘」。逃げ出したサルベーンはその後も色々な場所で裏切りを
続けながら生き延びて放浪し、この本編の主人公を「女神の娘」として
覚醒させるため色々画策している。

逆にラクリゼは本編の主人公を「女神の娘」としての運命に負けないよう
導き、彼女を傷つけようとする者から守っている。

かつて心から愛したサルベーンの生き方を軽蔑し、彼を激しく憎みながら。

 

女神の花嫁 前編 (流血女神伝シリーズ) (コバルト文庫)
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