妄想鬼(松本零士)
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98 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/07/04(火) 16:19:01
- じゃオイラは
O・ヘンリーと並ぶ短編の名手サキの作品から、「スレドニ・ヴァシュタール」。
と言っても折れは、松本零士がマンガ化したやつを最初に読んで衝撃的だったので、
そっちの印象であらすじ。マンガタイトルは「妄想鬼」。舞台は、少し昔のヨーロッパ。
どす黒い夜の山道。自動車を運転していた若い看護婦が、
何者かに襲われ殺された。犯人は死体の首を持ち去る。正体は不明である。その頃、彼女を雇っていた老いた医師は、
病気の少年コンランディの屋敷で彼女を待っていた。遅い到着をいぶかしむ医者。
だが好都合でもあった。少年の後見人の美人の叔母といちゃつけるからである。
医者は、叔母の入れる紅茶が大好きだった。
少年のほうはまだ10歳。しかし医者は、あと5年生きられれば良いと言う。
少年は、自分ではどこが悪いのかさっぱり解らない。
だが、最近は手足が節くれ立ち、骨が曲がって顔立ちも悪くなってきた。
家からは出してもらえず、いつしか友達もよりつかなくなってしまった。
叔母は両親の死後に来た後見人。だが少年とはソリが合わない。
少年にとっては叔母は世話を焼きすぎてウルサイし、料理も不味かった。
少年は、いつも部屋を抜け出しては庭の隅の小屋に入り浸った。
真っ暗なそこは、少年の宇宙。
そこで彼は大好きな飼い鳥と遊んだり、空想の友人と語り合ったりした。
友人の名は「スレドニ・ヴァシュタール」……。
少年は、オリに何かの動物を飼い、人間に対するように話しているようなのだが……。
少年の去った後、オリからカリカリと何か食べるような音がしている。
僅かな明かりで見えるそれは、半分頭蓋骨がのぞく看護婦の頭部だった。
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99 名前:98 投稿日:2006/07/04(火) 16:20:17
- 翌日、看護婦の首無し死体が見つかった。
医者と叔母は驚きつつ、自分たちの関係を知る者がいなくなったと喜ぶ。
引き続きいちゃつく叔母と医者をのぞき見て、彼らを軽蔑する少年。
だが翌朝目覚めると、愛鳥がいなくなっていた。
叔母が、汚い鳥と遊んでいるから病気になるのだと、肉屋に売ってしまったのだ。
更に、叔母は少年の唯一の隠れ場所の小屋も、取り壊す手順を整えていた。
全て少年のためだという。小屋に逃げ込み、涙を流す少年。
少年は憎しみを込めて、友人に訴える。
「あの女を殺してくれ!生き血を吸って首をちぎって、腹を引き裂いて
ハラワタを引きずり出してくれ! あの女の肉にしてくれ!」
オリの中の「友人」の、目と牙が見え、「友人」は応える。
「やるよ。偉大な四次元のイタチにはなんでも出来る……」
その日、少年の作戦に引っかかり小屋に一人で来た叔母の前に、
人のような姿、イタチのような顔立ちのものが立ちはだかる。
そのシルエットは、夜道で看護婦をおそったモノと同じ。
しかも小屋の中は、惑星やメーター(笑)やどくろの浮かぶ、
あり得ないような歪んだ空間になっていた。
閉じこめられ健康を奪われ、この小屋しか遊び場を与えられなかった少年。
その空想の世界が逃げ場を失い、この小屋の中で実体化してしまったのだ。
更に、ヴァシュタールは叔母の本体を淡々と暴く。
叔母は医者とグルになり、毎日少しずつ少年に毒を飲ませていたのだ。
少年に残された、莫大な財産を手に入れるために……。
逃げられない叔母の喉、にヴァシュタールの牙が食い込んだ。
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101 名前:98 投稿日:2006/07/04(火) 16:29:04
- その頃、叔母を捜していた医者は、使用人に教えられ、小屋に向かった。
歩きながら、医者はつぶやく。
「まだ元気らしいな。ガキとあの女と、両方に飲ませてるんだがな……」
何と医者の方も財産を狙って、2人に毒を盛ってきたのだ。
明日から毒の量を増やそうと決め、小屋に入った瞬間、
医者の目に飛び込んできたのは彼女の首の無い死体だった。腰を抜かし、
「死人だ…首だ…ハラワタだ」と叫びながら屋敷に戻る医者。
急いで温かい紅茶を注いでくれる使用人。だがそれを一気に飲み干した瞬間、
医者は目を剥いて血を吐き、苦悶の表情で絶命した。
使用人は、少年が小屋で死んだのだと思ったのだ。使用人は、いつも叔母から、
少年が死んだら医者にいっぺんに飲ませるようにと、毒を預かっていたのだ。全ての陰謀から解放されて、さっぱりして屋敷に戻る少年。
叔母には、ずっと不味いオートミールしか与えてもらえなかった。
「これで僕は自由だ!まったくの自由だ!」
大喜びで、テーブルの上のほかほかのトーストにかぶりつく少年。
使用人が止めた。だが遅かった。
それは、やはり医者用に用意された、毒入りのトーストだったのだ。
トーストを頬張ったまま、床に倒れ、少年は息絶えた。
その目は血走り、非常に醜かった。ラストのコマは、最初に看護婦が殺された森の中。
叔母の生首をくわえ、ニヤリと笑っているヴァシュタール。自分の空想で人を殺す者は、いつかその空想に自分も殺される、
という因果応報なのか…それにしたところで、
たった10歳の少年があまりに報われなさすぎ。後味悪い。