鬼虫(柏木ハルコ)

683 名前:鬼虫1 投稿日:2006/08/16(水) 23:36:36
柏木ハルコの『鬼虫』

昔、日本人が仏を拝みはじめた頃の時代が舞台。
海流の関係で島民が外界へ出ることのできない「鬼島」という島があった。
80人弱の一族が進んでいるとは到底言えないながらも力強い生活を送っていた。
米はなく麦を食べ、魚を銛で獲り、刃物はなまくら。山の神を崇めていた。
男女ともに上半身裸の半裸で生活し、女も男に負けない体躯を持つ者が多かった。

主人公トラゴ(女)は幼なじみのククリと夫婦になったが子供がまだできなかった。
二人が幼い頃、トラゴの姉が三人で海辺で遊んでいた際に沖へ流されて消息不明になる事故があった。
ある日、トラゴは漂流者が打ち上げられているのを見つける。
眉を落とし、着物を身につけた若い女だった。どことなく、トラゴの姉に似ていた。
トラゴはその女、マナメを匿う。島の長で絶対者である巫女クウロウ伯母が外部の者を不吉としていたからだった。
マナメはもちろんトラゴの行方不明の姉とは別人で、都から追われた女だった。
自分を「姉え」と慕うトラゴを利用し、トラゴと共に自分を匿うククリを誘惑しようとしたりする。

そんな中、島は地震、不作、火山噴火などの天変地異に次々に襲われ、島民はやがて来る冬を越すことを不安に思う。
クウロウ伯母の息子モモエはトラゴの匿うマナメの存在を偶然知り、
最初は不吉なものと恐れるが島の女にはない色香を持つマナメに誘惑されて彼女を匿うようになる。
味方を増やしたマナメはトラゴをうっとうしく思うようになり、どんどん傲慢に振舞った。
それでも姉の面影を持つマナメを憎むことができないトラゴ。
そしてついにモモエを始めとした若い男数人が、島の集落から離れたところに新たな集落を作る。
あるとき島に漂着した新たなる船はマナメのいた都の文明をもたらした。刀、米、そして、船そのもの。
マナメは船を作り、この島を脱出し都に戻ろうとたくらみ、造船技術を持つククリを集落に取り込む。
ククリはマナメに惹かれつつも誠実にトラゴを愛しており、島が滅びることを危惧していた。
マナメのためだけではなく、島民が助かるために船を作ることを選ぶ。


684 名前:鬼虫2 投稿日:2006/08/16(水) 23:37:07
クウロウ伯母の集落では、自分の男たちを取られた女たちがマナメへの憎悪を募らせていた。
マナメを匿った罪をモモエによってすべて被せられたトラゴはひどい罰を受けさせられおり、
ククリも連れて行かれた今、他の女たち同様の思いを持ちつつあった。
そしてついに、トラゴたちはマナメの集落を襲撃する。
しかしそこでは集落内での殺し合いが起こっていた。
食べ物が減り、不信感が募った者たちが争いを起こしていたのだ。
そしてそこにいたマナメは、以前見たときよりはるかに太っていた。みな飢饉でやせ衰える中、ただ一人。
トラゴはマナメを追い詰め、ついに首に手をかける。
姉えじゃなくても、マナメと一緒に仲良く暮らしたかったとトラゴは泣いた。
それから、生き残った島民(当初の約半数)は船を完成させる。しかし数人は船の定員上、残らざるを得なかった。
トラゴは残ると言い、火山が噴火する中、船を海へと押し出した。
しかしクウロウ伯母がトラゴを船に乗せ、自分は降りた。この島の長だから、と言って。

それから五年後、トラゴたち十数人が再び船で鬼島を訪れた。
五年前、はるか対岸に見えた島に行き着いた鬼島島民たちだが、そこでは決して歓迎されることはなかった。
トラゴはククリとの間に設けた息子を連れ、島に上陸する。
火山灰に覆われてはいたが、緑が芽吹き始め、みな島がまた元に戻ろうとしていると感じた。
トラゴは洞窟の中に人の生活している痕跡を見つけた。そこには作りかけの船もあった。
停泊していた船で待っていた子供たちが叫んだ。「誰かが船を動かしている!」
大人たちが泳いで船に追いつき、侵入者を捕まえようとするが、侵入者は衣を脱ぎ捨て海へ逃げた。
残された衣は、かつてクウロウ伯母が着ていた巫女の衣だった。
そして、海岸へあがった全裸の女は、5年前に死んだはずのマナメだった。
悔しそうに舌打ちをするマナメ。その傍らには、トラゴの息子タロウがいた。
船に戻ったトラゴは青ざめる。息子がまだ島に残っている、そしてマナメがそこにいる。
マナメはタロウの手を取り、島の中へと消えていく。
侵入者によって碇を切られた船は島へ戻れず、そのまままた別の地へと流されていった。
そして、鬼島では女が一人の男児と交わり一族を成し、繁栄したという。


752 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/08/18(金) 02:37:26
>>683-684
これ、スピリッツで連載してた頃から好きだったんだけど、
評判悪かったなあ。柏木ハルコスレでも不評だし。
原始の世界に外の世界から文明がやって来て
災いをもたらすってのがすごく日本的で、私にはツボだったのに。
文明や文化(女が綺麗とかね)を災いとして忌み嫌いながらも、
便利だから(綺麗だし)とまどうとか。
オカルト板の人で部落関係の話とか民俗学に興味ある人は
面白く読めるんじゃないだろうか。

 

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