22XX(清水玲子)
-
410 名前:1/4 投稿日:2006/08/28(月) 08:17:08
- 清水玲子の漫画「22xx」は後味悪い。
舞台は、星々の交流盛んな未来。主人公ジャックは高性能ロボットである。
人間に限りなく近いジャックは、外見だけでなく五感や感情も備えている。
ジャックの職業は賞金稼ぎ。今回ジャックは仕事のためにある惑星を訪れる。
それはある国の王女がテロ組織に拉致監禁されているのを救出するというものであった。
到着したジャックは、町の市場へと向かう。
するとそこで知り合いの賞金稼ぎフレディと偶然出会う。彼もまたジャックと同じ目的であった。
挨拶もそこそこにジャックはフレディと別れる。二人にはある因縁があったのだ。かつてジャックは、フレディの兄・ロジャーと仕事をしたことがあった。
しかし失敗し牢獄に閉じ込められる二人。親友の二人は残された食料を等しく分け合う。
実は当時ジャックは、自身がロボットであることを知らなかった。
ロボットでありながら腹はすくが、ものを食べてもそれは血肉にはならない。
しばらくすると食料もつき、ロジャーは餓死。
激しい空腹に襲われながらも死ぬことが無いジャックは、その後救出される。
以上の経緯を全てロジャーの弟・フレディは知っており、ジャックを恨んでいる。
『ジャックの分の食料を全て兄に回していれば、兄は助かったかもしれない…』
ジャックはそれを負い目に思っていると同時に、無意味な食欲にさいなまれ
食べることをやめられない自身に辟易しているのだった。町を離れ密林に入ったジャックは、ルビィという少女に出会う。
この星に住み着くフォトゥリス人の少女だ。狩猟民族フォトゥリス人は人肉をも喰らう。
しかし強いジャックに心惹かれるルビィ。「お前の子供を生む」と付きまとうようになる。
ロボットであるジャックは彼女の願いを叶えることは出来ないが、ひたむきな彼女を愛しく思う。
どうやら彼女は見たこともない遊園地に憧れているようなのだ。ジャックはいつか連れて行くと約束する。
王女が監禁されているアジトを捜索しつつ、ルビィと時を過ごすジャック。
-
411 名前:2/4 投稿日:2006/08/28(月) 08:19:19
- 密林に詳しいルビィの手伝いもあって、ジャックは他の賞金稼ぎに先立ってアジトを発見する。
アジトはかつてこの星で繁栄した文明の遺跡。ジャックは、アジトを爆破しようと爆弾を設置する。
だが何者かに背後から捕まるジャック。
テロリストかと思ったそれは、ジャックの動向を窺っていたフレディだった。
フレディにより遺跡の地下に監禁されるジャック。
彼はジャックに食料を与えず、飢餓させる復讐を実行したのだった。
何日もたち、意識が朦朧としつつも死の訪れない苦しみにジャックは襲われ続ける。
そして同時に、意味を成さない自分の食欲を呪う。
ジャックはここ数日、ルビィの生き方を見てきた。
食べることを神聖な行為としてとらえる彼女達の宗教観を知った。
食べるとは命をつなぐこと。食べて自らの血肉とすることを尊いとすること。
中でも彼女達にとって人間を食べるとは最も崇高なことだ。
そして誰に食べられることもなく朽ちていくことは最も恐ろしいことだった。
そんな信仰を持つルビィの姿が、ジャックには憧れであり、また、
無意味な食欲を持つ自らを、さらに激しく呪う要因にもなっていたのだ。しかしその頃、ジャックが仕掛けた爆弾が起動し、爆発が起こる。
崩壊する遺跡。ジャックが閉じ込められていた地下牢も崩壊し、ジャックは自由となったが、
瓦礫に足を挟まれて動けない。せっかく牢が破壊されてもこれじゃあ元も子もない。
この崩壊で他の賞金稼ぎが気づき、王女を救出するだろう。運が良ければ自分も助けてもらえるだろう。
しかしそこにジャックを心配したルビィがやってくる。驚くジャック。
このままではこれから起こるだろう戦闘にルビィが巻き込まれてしまう。
そう思ったジャックは適当な理由をつけてルビィを遺跡から早く遠ざけようとする。
渋っていたルビィはようやく納得すると、離れる前にある行動にでた。
-
412 名前:3/4 投稿日:2006/08/28(月) 08:20:21
- 「助けを呼んでくるから待ってて。狩をする時間は無いけど、でもお前に何か食わせないと」
ルビィは布で腕を縛り服を噛むと、瓦礫で自分の右手を挟み、切り落とした。
「待ってる間にそれを食え」
走り去るルビィ。ジャックは、自分の目の前に落ちた彼女の右手を呆然と眺める。
他にどう言えば良かったのか。自分が食べても何の意味も無い。栄養になることもなく捨てられてしまう。
嘔吐するジャック。しかし彼女の手はもう落とされてしまった。
ジャックは考えるのをやめ、眠り続けた。彼女の手が目に入ることのないよう、目を閉じ続けた。時間がたち、周りの騒がしさに目覚めるジャック。
テロリスト達は他のものに掃討されつつあり、ジャックは運良く発見されたのだ。
瓦礫の中、救助されヘリに乗り込む王女。
自分の救出に働き傷付いたものたちをねぎらうことなく、王女は黙って去っていく。
ジャックも救出隊に促され、別のヘリに乗り込む。彼女の右手は何故か見つからなかった。
密林に火の手が上がる。テロリスト達の残党を狩っているのだ。
密林の中、煙に苦しむルビィを眼下に見つけ、ジャックは救助隊にはしごを下ろしてもらう。
ルビィは左手のみでなんとかはしごに掴まった。ルビィを励ますジャック。
やがてヘリは大きな谷の上を通過し始めた。その谷はフォトゥリス人にとって不吉な場所。
罪人が誰に食べられることもなく打ち捨てられる恐怖の墓所だ。
深い谷におびえて泣き出すルビィ。掴まっている左手が震え、谷に落ちてしまいそうだ。
やがて、すがるような目でジャックに問い始めた。
「ジャック、私の手、食べた? 食べてくれた?」
言葉を失うジャック。全てを察したのか、ルビィは絶望にも似た悲しげな目をする。
その目にジャックはようやく悟る。狩猟民族であるフォトゥリス人が、利き手を失うということの意味。
どんな思いで、覚悟で、ジャックに右手を残していったのか。
ジャックが思わず彼女の名を叫んだ時、ルビィはついに耐え切れず、手を離した。
真っ黒な谷の底に吸い込まれていくルビィ。ジャックは泣きながら彼女の名を叫び続けた。
-
413 名前:4/4 投稿日:2006/08/28(月) 08:21:53
- 数ヵ月後、王女の帰還を祝う宴が催され、そこにジャックの姿はあった。遊園地を借し切ったパーティ。
ジャックは何か食べるよう勧められるが、断る。食欲の機能を取ってもらったのだ。
食べることは出来るが、もう何かを食べたいとは思わない。
無意味な食欲の呪縛から解放されたジャック。嫌いな食べ物を無下に捨てる子供を横目に、バルコニーに出る。
かつてルビィが来たいと言った遊園地。遊具を眺めながら、ルビィを想い涙を流す。
今ジャックが食べたいと思うものは、もうたった一つ。
あのときのルビィの右手だけ。何故食べてやらなかったのか。彼女の思いを受け取ってやらなかったのか。
激しい後悔に嗚咽しながら、ジャックは思う。ルビィ、俺はもう一生、ものを美味しく食べることなんて出来ない。
終わり
-
415 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/08/28(月) 08:39:26
- >>410-413
乙。せつない話だな・・・
-
416 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/08/28(月) 09:19:15
- ロジャーが死んだ時点で
食欲機能取ってもらえば良かったのでは…
所詮友情なんてそんなものか…