虫と歌(市川春子)

217 名前:「虫と歌」1/3  投稿日:2006/09/22(金) 12:35:21
今月のアフタヌーンに載ってた四季賞(新人賞みたいなもん)の「虫と歌」という漫画。

長兄、次兄の「うた」、妹の「ハナ」の3人がひとつの家で暮らしている。両親はいないらしい。
長兄は家で仕事をしていて次兄と妹は高校生。

長兄の仕事はちょっと変わっている。
まず大きな、子どもが乗れるくらいの昆虫の模型を作る。それを「プレゼンに使う」らしい。
しばらくすると長兄の作った昆虫と同じ虫が新種として発見される。
兄の仕事はどうやらそうした新しい虫を創ることらしい。
「友さん」という女性のクライアントがいるため兄本人に創る能力があるわけではないらしいが
おそらくその友さんが兄のデザインを使って虫を創るのだろう。
次兄の「うた」はプレゼン模型作りをよく手伝っていて今ではとても手馴れたものだが
どうせ誰に言っても信じないし、と友人たちには兄の仕事を「デザイン製造業」とごまかしている。

ある夏の日、3人のもとに羽と触覚の生えた青年がやってくる。
青年は兄に襲いかかるがうたがケリを入れて撃退する。触覚を折られた虫青年はそのまま逃走する。

彼は昔兄が作った「失敗作」だった。兄はうたとハナには内緒にしていたのだった。
環境の破壊が進む世の中で将来虫の棲む場所がなくなる事態を想定し
人間に擬態できる虫を作ったことがあった。
途中まではうまくいったのだがサナギになるのを止められず、羽化したときには羽が生えていた。
これではとても人間界で生きられない。
兄はクライアントと相談し、彼が生きられる時代になるまで海の底に半永久的な冬眠状態で保存した。
異常気象か地殻変動かはわからないが、予期せぬ事態があり予定より早く目覚めてしまったようだ。

兄とうたは青年を探しにでかける。すべての虫には帰巣本能がプログラムされている。
見つけた青年は再度兄に襲いかかろうとするが傷を負っていて力が出ない。
兄とうたは青年を保護し一緒に暮らすことになる。


218 名前:「虫と歌」2/3  投稿日:2006/09/22(金) 12:36:01
うたと青年は背格好もほぼ同じくらい。うたは弟のように青年の面倒を見る。
最初は虫のような音しか発せなかった青年は少しずつ片言だが言葉も話せるようになる。
青年はシロウと名づけられる。最初に私が見つけたんだから、と妹のハナが名づけた。

うたは兄の仕事を手伝う勉強のため大学に進むつもりだ。
陸上部の友人が足の速いうたに何度もスカウトに来るが受験と仕事の手伝いを理由に断っている。
勉強のしすぎかすっかり目も悪くなってしまいメガネをかけるはめになった。
そんな中シロウが倒れる。

昆虫は細胞が再生しない。触覚が折れた傷から体は確実に弱っていたのだった。
シロウはそれをわかっていたはずだが一度もうたを責めたことはない。
なんでこんなにもろく作ったんだ、と思ううた。
翌朝早朝にクライアントの友さんがやってくる。
「お母さんよ。迎えに来たの」
兄はまだ寝ている。うたは友さんにすがるがその願いは聞き入れてもらえない。
そうしてシロウは息を引き取り、いなくなった。

シロウがいなくなった後うたはどんどん目が悪くなる。今は輪郭くらいしかわからない。
勉強のしすぎで体調を崩したうた。兄が体温計を見ようとするが、電池が切れているのか動かない。
「わかってるんだ、寿命だろ」と言ううた。
うたもハナもシロウと同じだったのだ。ただし成功例の。うたが現時点で最も長寿の成功例だった。
兄は美しい羽音を持つバッタの一種として「うた」と名づけ
それだけでは心元ないと思い強い脚力を残した。ハナはハナカマキリという種別。
シロウもたぶん知っていた。
シロウがいたころ、うたはシロウにどっちが早いか競争しようと持ちかけたことがあった。
お前虫なんだから早いだろ、と。シロウは競争もせずに「うただ」と即答し、理由も言わなかった。
うたは野生のカンでわかるのかと思っていたが、
今思えば理由を言わなかったのはシロウなりに気を使ったのだろう。


219 名前:「虫と歌」3/3  投稿日:2006/09/22(金) 12:37:10
大学に行って兄貴の手伝いしたかったけど無理そうだ、
ハナは気が強いからこんなもんじゃすまないぞ、覚悟しろよ、
シロウに春を見せたかった、いくら食べても枯れない花を、とうたは言う。
シロウは一度もうたを責めなかったが今ではその気持ちがわかる。
家族として兄と妹と暮らせて、生まれてきてよかったと言う。

それから少しの時間が経ったと思われるシーン。
兄は報告書を書いている。「甲と乙、2種の観察を終了」というようなことが書いてある。
2冊のアルバムのようなものをブリーフケースにしまう兄。
電話がかかってくる。おそらくクライアントの友さんからの電話。兄は考える。
もう終わりにしないか、お前にとってはただの仕事かもしれないが
俺はそのために今まで弟を18回、妹を12回、息子を18回娘を12回失った。
(※弟であり息子、妹であり娘という意味だと思う)
みろ、おとなしい子は静かに、気の強い子は暴れて消えていく。
俺はそのたびにその崇高な目的を彼らに説明する。それをあと何回?

電話は鳴り続けている。兄はもう電話を取ることができない。

美しくて静かで泣けるすごくいい話なんだが
途中にあるほのぼのしたシーンがすべて伏線になっている構成のために
楽しそうなシーンであればあるほど鬱になるので読み返すのがつらい。
(焼肉してるシーンではうたはベジタリアンでハナは肉食、という設定だったり
 シロウがうたのメガネをかけるととたんによく見えるようになり3人の顔を見て笑ったり)
細かいところとか違うとこあると思うけどスマソ。


220 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/09/22(金) 12:44:26
( ;∀;)イイハナシダナー

221 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/09/22(金) 12:45:21
次兄が高校生設定ってことは長兄は年食っててもせいぜい見た目30前後だよな?
10年くらいでそんなたくさん実験できたのか?
「うた」ってのはいくつから一緒に暮らしてるってことになってんだろ

227 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/09/22(金) 14:25:46
>221
たぶん兄は人間じゃないんじゃないかと思う
仕事内容からいって神の眷属みたいなもんかも
子どもの頃から一緒に暮らしてたっぽいけど
外見上は「兄貴昔から全然変わらないよな」みたいなセリフがあったので
おそらく若いときは老けて見えて歳取ると若く見える年齢不詳タイプな外見ではないかと推測
(絵柄がすごいあっさりしてるのでわりとどうとでも取れる)

シロウはうたより先だけどほぼ同時期に作られたっぽかったような
うたやハナができるまではすごい短い寿命のものしか生まれなくてその回数、とかじゃないのかなと思う


230 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/09/22(金) 15:42:34
>>227
まだアフタヌーン売ってたのでちと見てきたけど、うたの17年が一番長く出来たっていってるよね。
シロウはうたと一時期いっしょにいたっていう描写もあるし、結構一度に何人も実験してるのかもしれず。

 

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)
虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)