通りすぎた奴(眉村卓)
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78 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/11/18(土) 03:54:50
- ずいぶん前に読んだ小説。
時は近未来で、都会には高層ビルが建ちまくり、人々は仕事と生活に追われる日々。
主人公は、確かビルの中でも、一番巨大な建物の会社で働くサラリーマン。
ある日、エレベーターが部分的に使えないか何かで、
普段使わない階段に向かった主人公は、黙々と階段を上る風来坊っぽい男と知り合う。
彼はこの管理社会の中で特定の職も持たず、気ままに旅を続ける自由人だった。
話をする内、彼はただ一番高いビルの頂上まで足で行ってみたくなり、
ひたすら昇り続けているのだと聞かされる。
建物の中は要所要所にトイレも売店もあるので、生活そのものには困らないらしい。
彼に興味を持ち、羨ましくも思う主人公。
その内、ビルの中で、この風来坊の旅が静かに噂になり始める。
何人かが彼と会い、感銘を受け、知人に話すうち、話はどんどんふくらんでいく。
旅する芸術家だとか、サトリを開いた仙人だとか、偉い哲学者だとかささやかれた後、
彼は実は神の仮の姿なのだ。昇りつめて、やがて天に帰るのだという話が定着してしまう。
熱狂的な信者も生まれ、証言が集まり、彼が最上階に到達する日時が割り出される。
予定の日、最上階には主人公も含め、ひとめ彼を見送ろうという人々がつめかけた。
皆の熱い視線の中、ついに最後の階段から彼が上がってくる。
だが彼は集まった人々の意図が分からす゛ポカンとしている。皆は「いよいよ飛ばれるぞ!」と大声援。
おろおろと見回す彼に、誰かが「窓だ!窓を捜しておられるのだ!」
最上階の空しか見えない窓辺に、引っ張っていかれる風来坊。外は強風。
ただ階段を昇りたかっただけと必死に説明する風来坊だが、
皆の怒りと落胆の視線に追いつめられとうとう耐えられなくなって窓から身を躍らせる。
「飛んだ!」割れるような拍手と声援。
満足して、その場を去っていく人々。その中には、もちろん主人公もいた。
心に何かひっかかるものを感じながらも、主人公はこれで良いのだと思う。
夢を与えられた人々は、それを心の支えに、また退屈な日常に戻っていくのだから。
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91 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/11/18(土) 10:33:23
- >>78
あの小説の世界観が描かれてないぞ。エレベーターは各駅、急行があり、屋上へ行くには
急行エレベーターで「エレ弁」をつまみつつ「何時間」も乗り、終点で各駅に乗換え、
さらに各駅の終点を降りてから階段を登るとやっと到着できる最上階。
外にもこのような建物が無数に存在し、この世界の人は
その中のたったひとつのビル中で生涯を過ごしていくような世界だ。旅人はその建物を、半年あるいはそれ以上の日程で歩いて登っていく。
一日数十階程度のノルマで、時にはしばらくその階に留まり、日銭を稼いでは旅を続けている。