外伝「斑(MADARA)」(田村由美)
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787 名前:1/2 :2008/11/26(水) 16:14:30
- 父王に愛されて育った王女は、幼いながらも類稀なる器量の持ち主だった。
無邪気な王女は、王軍の剣士見習の少年に親しく接していた。
身分差も理解せずに自分を慕ってくる王女に、少年はほのかな恋心を抱いていた。
少年と王女は二人並んで本を読んでいた。
半人半牛の身で生まれてきたミノタウロスという化け物を、迷宮に閉じ込めるという話だった。
閉じ込めなければ禍があるから。恐ろしい話ねと王女は言う。王の意向により、王女は地方の領主のもとに嫁がされることになった。
領主は裕福らしいが、かなり年上で会ったこともなければ、
結婚の話が出るまで存在すら知らなかった相手であり、王女は不安がって泣いていた。
王城を出る日、まだ泣きじゃくっている王女に少年は言った。
自分は修行を積んで立派な剣士になり、王のために生きていく。
王女のことも必ず守る、王女もがんばって生きてくださいと言う。王女は頷いた。領主は穏やかで、王女はすぐに愛情を抱いた。幸せな日々がすぎる。
不穏が噂が流れていた。領主が王に対して謀反を起こそうとしているという、根も葉もないもの。
豊かな領主はそれだけ脅威の対象でもあった。噂は王の耳にも入っているはず。
わたくしを嫁がせたくらいだから王はあなたを信頼していると、
忠義を疑われているのではと不安そうな領主を王女は元気づけた。だが、なんの前触れもなく王軍は領主の土地を攻め立てた。
燃える城の中で、領主と抱き合いながら、わたくしがいるのに何故、と王女はおびえていた。
そこに少年が現れた。彼は、王の命令で王女を救出しにきたという。
そして逆賊の始末も命じられたと言い、王女の目の前で領主を殺した。
狂乱した王女は火の勢いの強い方向へと走り去っていき、燃え落ちた柱に足を潰された。
少年は、更に倒れてくる物たちを背で受け止めて王女を守った。
わたくしをこのまま死なせて、と懇願する王女に、
どうかそれは私が死んだ後にと、と少年は言った。
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788 名前:2/2 :2008/11/26(水) 16:16:54
- 王城に帰されてから、泣き暮らす日々を送る王女。
ある夜に、酔った王が王女の寝室にやってきた。
領主は潔白だったと主張しようとする王女を、王は押し倒す。
王は、その事をわかっていた上で、領主の財産を奪うために利用したのだという。
本当なら強引に攻め込まなくても、王女を与えたことを理由に、貢物を増やさせるだけでも十分だったのだが、
王女の美しさを思い出し惜しくなり、王女を取り返すためにも領主を殺したという。
足を悪くした王女は逃げられずに、王に犯された。
動けない自分がまるで人形のように、覆いかぶさる王が化け物のように王女には思えた。背中一面に火傷を負って寝込んでいた少年は、久しぶりに王女の前に現れた。
訓練すれば王女はまた歩けるようになる。そう言っても、王女は歩こうとはしなかった。
わたくしは人形だから歩けなくていいの、王女はただそう言って無気力でいた。
やがて、王女が妊娠していることに少年は気づいた。領主の忘れ形見かもしれない。
王は殺せというだろうが、密かに生かすこともできると少年は言う。
王女ははじめて高笑いした。
領主はまだ幼い王女が大人になるまで待つと、王女になにもしなかった。
生まれてくるのは化け物の子供だ、どうして火の中で殺してくれなかったのかと王女は泣く。少年に自分を殺すよう言い続けていた王女だったが、出産が近づくにつれて落ち着いていった。
母性に目覚めていったのか、お腹をさすっては微笑むまでになった。
だが、苦しいお産の末に生まれてきた赤子は、一つの泣き声もあげなかった。
死産だった。王女は夜中に部屋を抜け出しては、足を引きずり城内を彷徨うようになった。
連れ戻しに来た少年に王女は言う。
わたくしの子供はどこ、あの子は化け物だから閉じ込めなければ、と。
うわ言のように子供を求める王女。火にまみれて以来、死以外にはじめて王女が願ったことだった。少年は、捨て子を王女に差し出した。
王女はその赤子を育てた。優しく笑いかけて慈しんでいたかと思うと、
いきなり床に投げ捨てる、そんなことを王女は繰り返していた。
可愛い人間の赤子に見える時もあれば、醜い化け物に見えることもあるから。
子供は明らかに歪んだ人間へと育って行っていたが、王女はもう死を願わなくなっていた。