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960 名前:1/2 :2010/02/12(金) 17:48:26
市川春子の短編漫画「虫と歌」
少し抽象的な作風の話なんで、分かりにくかったらごめん。

主人公はごく普通の高校生。
歳の離れた兄と同じく学生の妹と、兄弟三人で暮らしている。
一家の収入を担っているのは当然兄なのだが彼の仕事は少々特殊で、
クライアントから依頼を受けて昆虫の研究・開発を行っていた。
(『世間で新種とされている虫は実は人為的に作られている』って設定らしい。
 作中では在宅でプレゼン用模型を作ったり…要するに兄が虫の形状や色をデザインしてる)

ある夏の夜、三人の家に黒づくめの男が侵入してくる。
男は透明な羽と二本の触覚を持つ異形で、兄の姿を見るなり飛び掛ってきた。
実はこの男、かつて兄が研究の一環として生み出した「人型のカミキリムシ」で、
失敗作として海底に封印されていた筈が、何かのはずみで目覚め、帰巣本能に従って戻って来たらしい。
すんでの所で主人公が割って入ったので兄は無傷で済んだが、乱闘の衝撃で男の方は触覚が折れてしまう。
満足に動けなくなった男に、兄は見捨てた事実を謝罪し、自らの下で保護すると決めた。

はじめ、なぜか妹を怖がっていた男だったがどういう訳か主人公にはよく懐いた。
主人公自身もなんとなく男の世話を焼き、兄や妹に「いつ産んだの?」等と過保護ぶりをからかわれる始末。
季節が過ぎるにつれ言葉も覚え、男はやがて家族の一員として溶け込んでいく。
また、そんな様子にも感化され、主人公は兄と同じ虫に関する職業に就きたいと考え始める。

しかし冬を迎えてすぐ、唐突に男が倒れた。
主人公は付きっ切りで看病したが、その努力もむなしく逝ってしまう。
男の今際には兄のクライアントである一人の女性がやって来て、
死亡時刻を確認すると何の感慨も無く去って行く。


961 名前:2/2 :2010/02/12(金) 17:49:09
男が著しく衰弱した原因は主人公が折った触角にあった。
虫は細胞の入れ換えが行われないため一度出来た傷が癒えることはない。
そのため消耗と冬の寒さが重なり、兄の予想よりも寿命が早まってしまったというのだ。
それでも恨み言一つ言わなかった男の様子を思い出し、苦い思いを募らせる主人公。
だが彼自身もまた、受験勉強の最中に倒れてしまう。

実は三兄弟の中で人間なのは兄だけだった。
主人公はバッタ、妹はハナカマキリの一種で、男と同じ人型の虫だったのだ。
兄は寿命を迎えつつある主人公に、虫は地上で最も繁栄しているにも拘らず酷く短命な事、
人型の虫が人と同じ時間を生きるためには寿命の延伸が必要な事、
そして今の所その記録は主人公の十七年一ヶ月が最長である事を話す。
真実を知った主人公は死を恐れながらも、兄に向けて「生まれてきて良かった」と言い残した。

夏、誰も居なくなった家で兄は報告書を書き上げていた。
すると不意に電話がかかってくる(恐らく相手はクライアントの女性)
兄は受話器を取らず、呼び出し音を聞きながら暗い顔でその心情を独白する。

「もう やめにしないか。
 お前にとってはただの昆虫実験かもしれないが、
 俺は弟を18回、妹を12回、息子を18回、娘を12回亡くした。
 みろ、優しい子は黙って激しい子は暴れ、泣き崩れながら息絶える。
 俺はその前で言葉を尽くして、大いなる目的、崇高な目的を、18回12回……」

で、最後は机に突っ伏している兄の後姿でエンド。
兄はこれからも愛情注いだ家族を失い続けるのかと思うと後味悪いラストだった。


962 名前:本当にあった怖い名無し :2010/02/12(金) 18:04:23
その兄貴やけに長生きだな。

964 名前:本当にあった怖い名無し :2010/02/12(金) 21:39:50
いや、今回の妹たちみたいに、同時進行でに何匹も世話して
しかも1年しないで死んじゃうヤツとかもいたとしたら、
まぁそれくらいたくさん見送るのも可能なんでは?

966 名前:本当にあった怖い名無し :2010/02/13(土) 02:47:12
オスの場合 18回
メスは12回だから
オス=息子でもあり弟でもある
メス=娘でもあり妹でもある

なんじゃないかなあ
生み出したその人にとってはどっちでもある気がする


969 名前:本当にあった怖い名無し :2010/02/13(土) 13:56:44
長生きっつか、クライアントの女性は所謂「神様」っぽいんだよね。
もしかしたら兄も。
作中ではぼかした描写しかないんだけど。

 

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)
虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)


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