ホーム » 小説 » 小説/さ行 » 神家没落(恒川光太郎)

622 名前:1 :2011/01/17(月) 18:53:50
現代奇譚。タイトル忘れたけど、小説。
ある日の夜、主人公は道に迷い、やがて奇妙な家屋に辿り着く。
水を求めて誰何すると、面を被った老人が姿を見せた。
老人は言う、とうとう代わりの方が現れてくれた、と。
そして主人公の肩を叩くと、老人はすっと音もなく消えてしまう。
残された面を拾い上げ、呆然とする主人公。
気を取り直して井戸水を飲み、兎に角もこの場を離れようとするが、
なんとしたものか、家屋から一定以上離れようとすると足が前へ進まない。
──閉じ込められたのだ。

主人公はこののち、数年のときをこの家屋で過ごす。
その間に、室内に残されていた書物などから様々なことが判明した。
・この家屋は、神に連なる古い一族の「神家」。
 一族から一人を選び住まわせ、家ごと諸国を巡らせる。
 居間には掛け軸のように日本地図が掛けられており、各地に日付が添えられている。
 その日付になると、家屋内は暗転し、忽然と新しい地にその身を移す。
・家屋の存在に、通常の人間は気付くことすら出来ない。
 ただし少ない割合で知覚できる者もおり、かつてはその数も多かった。
 各地のそうした人間達からこの家屋は崇められ、貢物を供される。
 そうして数年の後、それらを携えて一族の地に戻るのだ。
・だがその一族はある時、何らかの理由により滅び去った。
 その際の勤め人が、面を被った老人であった。
 彼は帰る里を失い、長い時を家屋の中で過ごしていた。
 寿命が尽き霊となっても開放されず、ただ身代わりを待ち望んでいたのである。


623 名前:2 :2011/01/17(月) 18:54:41
こうして閉じ込められた主人公であったが、生活に不都合はなかった。
庭には仙人の実のような果実が生っていたし、井戸水は殊の外美味しい。
時折、「神家」を知る/気付く人間が訪れて話し相手にもなってくれるし、
外へはゆけないまでも、各地を巡る楽しみも芽生えていた。
だが、それでも彼には元の生活を求めた。
ために、訪れる人間を身代わりにしようと画策する。
目立つ位置に喫茶店の看板を据えて人を呼び込むことまでする。
それでも生来の優しさゆえに、最後の一歩を踏み出せずにいたのだが、
ある日、無人島に憧れる青年が現れたことで転機を迎える。
青年は奇妙なほど快活な笑顔で「人がいない場所もいいね」と口にした。
主人公は心で詫びつつも、青年の「肩を叩いた」。
こうして交代が成ったのだった。

日常生活に戻った主人公。
とうに職は失い、かつての恋人も結婚していたが、気落ちすることはなかった。
幸い数年の蓄えもあるし、これからゆっくりと立て直してゆけばよい。
そう考えていた主人公だったが、たまたま耳にしたニュースが彼を凍りつかせた。
自分が青年と交代した山あいの地。その山中で女性の遺体が発見されたのだ。
第一容疑者は数日前より逃走中らしき女性の夫。その顔写真は、青年のものだった。
主人公はあの時の青年の笑顔を思い出す。
あれは、仲違いした妻を殺して埋めた直後の達成感から来ていたものだったのでは?
とするならば、自分は犯罪者の逃走の手伝いをしてしまったことになるのではないか。
罪の意識に駆られ、青年の動向を追い求め始める主人公。
「家」の移動先で何か事件が起こっていないか、新聞などで調べるのだ。
結果、二つの事件に行き当たる。
一つ目は、失踪していた女性が遥か離れた地で遺体となって発見されたというもの。
誘拐され、連れ回された末の遺棄だとしたら、特段おかしな点のない事件だ。
だが主人公は、失踪した日と発見された日、そしてそれぞれの場所に覚えがあった。
完全に、「あの家」の移動時期と一致していたのだ。
また2つ目の事件として、最近の移動場所でも別の女性が失踪していた。
これは、あの男が女性を家屋に拉致し、飽きて捨てたことを意味するのではないか。
そして今はまた、次の女性を攫ったのではないか。


624 名前:3 :2011/01/17(月) 18:56:34
主人公は青年の罪を確信する。そして正義感からの義憤より先に、一つの感情を自覚する。
それは、あの家を汚されたという嫉妬にも似た不快感だった。
「神の家」を邪悪な心根の者が利用している。女性を拉致し弄んでいる。
自身でわかっていなかった。自分はあの家での暮らしを気に入っていたのだ。
それに思い至った主人公は、今後の一生をかの家で暮らす準備を整えた。
そして「家」の現在の移動先に向かい、青年を呼び出す。
現れた青年の背後、障子の隙間からは、鎖で繋がれた女性の足が見えた。
女性を監禁し、家の「主」としておけば、青年自身は外に出ることが出来る。
そうやってこの青年は、現代社会の生活を満喫しつつ、この隔離された家で
警察にも追われることのない安全な時を過ごしてきたのだろう。

だが、奥の女性は血だまりに沈んでいるように見える。青年はまたもや人を殺したのだ。
ということは、今の家の主は青年自身。次の女性を見つけるまで出ることは叶わないし、
容易にそうした犠牲者が迷い込んでくるとは思えない。少なくとも数日はかかるだろう。
そう見て取った主人公は、青年を脅す。
「自分と交代しろ。君が出て行った後は知らない。好きに暮らせばいい。
 だが断るなら、街に戻って十分に準備をし、君を殺しに来る。こちらはそれでもいいんだ」
追い詰められたと知った青年は、渋々承諾する。ただ、出る準備として数時間の猶予を求めてきた。


625 名前:4 :2011/01/17(月) 18:59:15
数時間後、再度「家」を訪れる主人公。青年は笑顔で縁側まで出迎える。
その笑顔に主人公は不審を覚える。この短い時間で何か出来るとは思えない。しかしあの笑みは?
疑心に駆られた主人公は、一刻も早く青年から「家」を取り戻したいという衝動も手伝って、
念のため隠し持っていたナイフで青年の胸を突いた。心臓、致命傷である。
だが青年は自身の死を悟るや、脇に置いていた灯油缶を倒し、ライターで火をつけた。
物の少ない家屋での、彼なりの反撃手段。青年は主人公を焼き殺そうとしていたのだ。
そしてそれが叶わぬと知るや、家屋を焼き払うことにしたのである。
古い木造の屋敷だ。一旦広がった火勢は衰えようもない。
主人公はなすすべもなく家から離れる。
遠く響く青年の哄笑。彼も彼なりにこの家を愛し、明け渡すことを拒んだのだろう。

このようにして「神の家」は燃えて失せた。
主人公は時折、一抹の希望を抱いて家が現れる地点に赴くが、その望みが果たされることは無かった。

以上。
神宿る家屋に対してロマンと哀切を感じるのが正しい読みな気はするけれど、
主人公がだんだん自分勝手になっていくので、なんだかなあ、と。
こいつが青年と交代したことで犠牲になった二人の女性が浮かばれない。


667 名前:本当にあった怖い名無し :2011/01/19(水) 19:21:27
>>622
恒川光太郎さんの「神家没落」だね

 

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)
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