ホーム » 小説 » 小説/さ行 » 最後の言い訳(曽根圭介)

976 名前:1/3 :2012/03/03(土) 08:12:28.52
曽根圭介の短編「最後の言い訳」が後味悪かった。
ガイシュツだったらすみません。かなり長いので幾つかに分けて投下します。

舞台は日本。気が弱い上にでっぷりと太っている主人公は、
小学校のクラスメイト達に馬鹿にされ、ことあるごとに苛められていた。
彼を対等な存在として認めてくれていたのは勝ち気でボーイッシュな性格の少女・Aだけ。
意地悪なクラスメイトは主人公がAと一緒にいるのをみかけるたびに2人をひやかしたが、
萎縮して黙り込むことしか出来ない主人公とは対照的に、
Aはどんなにひどいことをされても決してそれに屈したりはしなかった。

主人公はそんな彼女の強さと明るさに惹かれ、いつしかAに淡い恋心を抱くようになるが、
「こんな自分に好かれても……」と告白しない言い訳を重ねているうちに、Aが隣町へ引っ越してしまうことを知る。
彼女から引っ越しの話を聞いたときもクラスでお別れ会を開いたときも、
主人公は当たり障りのないことしか言えなかった。Aからも特別な言葉はなかった。
その後、Aにクラスの文集を手渡す役目を与えられた主人公は勇気を出して彼女の引っ越し先まで会いに行くが、
そこでも気持ちは伝えられず、そのまま別れてしまう。
自分に意気地がないことを嘆く主人公。
けれど彼は言い訳を重ねながら嘆くだけで、最後まで気弱な性格は変わらないままだった。


977 名前:2/3 :2012/03/03(土) 08:21:22.36
その主人公の住む世界では死人がゾンビ化して生き返るという謎の現象がおこっており、
生き返った人達は「蘇生者」と名付けられている。
蘇生者は肌が灰色になりゾンビ化した年齢で老化が止まるが、思考回路は生前と変わらず、人肉以外のものも食べられる。
蘇生者が出現しだしたばかりの頃(主人公がAと仲良くしていた時期と平行している)彼らは人間と共存していたが、
「人肉が食べたい」という本能に負けた蘇生者が人を食べてしまう事件が目立ち始めてから、
蘇生者は蘇生者だけを集めた保護施設に隔離されるようになった。
主人公もAが引っ越してから日が経たないうちに蘇生者と化し、太った子供の姿で保護施設に送られた。

時が流れ、死なない蘇生者と捕食される側の人間の人口比率が入れ替わると、
蘇生者は施設から解放され今度は人間が食料として養殖されるようになる。
その頃にはもう、蘇生者は誰一人「人間を食べるのは悪だ」と言わなくなっていた。
主人公もまた、子供の姿のまま(蘇生者の為の)市役所に勤めながら養殖の人間を食べる生活に馴染んでいた。


978 名前:3/3 :2012/03/03(土) 08:25:54.44
ある日、市役所で仕事をする主人公の元に苦情の電話が入る。
それは団地に住む町内会長からのもので、町内にあるゴミ屋敷のゴミと悪臭を何とかして欲しいというものだった。
町内会長の先導のもと課の同僚達と件のゴミ屋敷に向かった主人公は、そのあまりの汚さに唖然とする。
さっそく設置されているインターフォンから家主に撤去を求めるが、家主である老婆は
「私の家をどうしようが私の勝手だ」と言い張り、家から顔すら出そうとしない。

主人公達は、行政の権利を行使して仕方なくゴミ山の強制撤去を始めるが、
朽ち果てた屋敷の奥に隠れ住んでいた老婆の姿を目にした途端、辺りは俄かに色めきたつ。
老婆は人間だった。彼女はゴミの臭いで人間の匂いを隠しながら生き長らえていたのだ。
天然の人間は絶滅危惧種のようなもので、めったと口に出来るものではない。
他の蘇生者に見つかる前に彼女を食べようと口にする仲間達と
諦めた顔で大人しくしている老婆を横目に、主人公は屋敷の中を見て回った。
子供の姿のまま蘇生者になった主人公は相変わらず気弱なデブのままで仕事も出来ず、
市役所でも馬鹿にされていた。彼に発言権はなかった。
ところが、何気なく足を踏み入れた部屋で古びた写真と文集を見つけ出した主人公は、
老婆に見えるあの家主が実はまだ若い女性で、かつて自分が想いを寄せていたあのAだということを知る。
朽ち果てていたため気付かなかったが、
このゴミ屋敷は主人公が文集を持って訪れたことのある、Aの引っ越し先だったのだ。
主人公が文集を開くと、そこにはかつての自分の手でこう書かれていた。
【僕の二十年後:弱い人や大切な人を守れる強い男になりたい】
主人公はハッとしてAを見る。そして今度こそ言い訳ばかりする自分を変えようと決意する。

場面が変わって宴会場。鍋に舌鼓を打ちながら談笑する仲間達の横で、
同じように箸を持つ主人公。彼の頭の中にはこんな考えが渦巻いていた。
「Aを守りたいと思う気持ちに嘘はないが、天然の人間の匂いを前にして我慢できる蘇生者はいないだろう。
僕の意志は固まっていたのだけれど、あの美味しそうな匂いを我慢できる蘇生者なんていないのだから……」


979 名前:本当にあった怖い名無し :2012/03/03(土) 09:04:39.36
もうそこまで社会が進行しちゃったらどうしようもないな

980 名前:本当にあった怖い名無し :2012/03/03(土) 09:39:19.14
>>976
これは正統派の後味の悪さ。
まぁ、駄目な奴は何をやっても駄目ってことか。

981 名前:本当にあった怖い名無し :2012/03/03(土) 09:54:35.77
>僕の意志は固まっていたのだけど~
って言い訳がましいところがまたw
その土壇場でどうにか出来るようなら就職しても少しは成長してるだろうし
どうにかしようとあがいても、やっぱり仲間に袋だたきにされてどうにもならんのだろうな
そこへ主人公の性格が拍車をかけて、どうしようもねえ、というw

985 名前:本当にあった怖い名無し :2012/03/03(土) 12:35:53.68
>>976
蘇生者は不老不死なの?
食わないと生きられないの?
生殖活動はするの?
質問ばかりですまんが気になったもんで

988 名前:976 :2012/03/03(土) 15:14:10.11
>>985
生殖・不老不死については詳しく描写されていませんでした。
多分、肌の色・食人欲求・老化の停止(不老不死?)の三点以外は人間と変わらないと書かれていたと思います。
よくある設定ですが、蘇生者に噛まれたり蘇生者の肉を食べたりしても感染して蘇生者化するそうです。

食わないと生きられないのか、という質問ですが、作品内では

蘇生者が出現し始めたばかりの頃は、蘇生者=無条件で酷い差別の対象となっていたものの、
人肉を食べたいという欲求は道徳心で抑えられる(記憶や思考は人間の頃のままなので、理性が本能に勝つ)
という考えが蘇生者化した老学者の口から提言されたりするうちに、
社会全体が「我慢できずに人間を捕食した蘇生者は異常者でごく一部、だから蘇生者差別はやめよう」
という流れに向かっていったようです。
蘇生者が施設に隔離されるようになったエピソードとして、主人公の住む町で少数の蘇生者による反乱が起こり、
それまで欲求を抑えて暮らしていた蘇生者達の理性も引きずられるようにしてタガが外れて、そこから大きな暴動に発展
(蘇生者に対する差別を嫌い、人間と蘇生者は共存できると主張していた主人公の父親も
 ここで親しくしていた蘇生者の餌食になる)
父親の機転で難を逃れた主人公は人肉にかぶりつく蘇生者の群れを目撃してしまいますが、
マスコミの偏向報道と融和団体の圧力で蘇生者の暴動はもみ消され、
本格的に人間と蘇生者の勢力が入れ替わる頃にはもう何もかも手遅れ、という感じでした。
イメージ的には麻薬の禁断症状に近いかもしれません。普通に生活していてもきっかけが一つあればそこから……という。

言い訳ばかりの主人公もそうですが、性善説を信じて共存を目指した結果が人間の養殖だと思うと……


989 名前:本当にあった怖い名無し :2012/03/03(土) 15:38:07.55
蘇生者の肉が食える物ならどうせ蘇るんだしそっち食ってりゃいいような気もするけど、やっぱ味とか違うんだろうな

 

熱帯夜 (角川ホラー文庫)
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