蜂(わたなべまさこ)

141 名前:1/3 :2012/08/21(火) 22:50:51.92
わたなべまさこの短編「蜂」

雑誌編集者の領子は、若手高級官僚の司郎と不倫中。
司郎とは、雑誌の企画で取材してからの関係だ。

昼間のホテルでの逢瀬だが、多忙な司郎は先に帰るのが常だった。
司郎を見送った領子は、部屋に迷い込んでいた蜂を叩き落とした。
蜂の頭がちぎれたが、体はまだもがいている。
(私ったら、罪もない虫を殺してしまった…逃がしてやればよかったのに)
(私も司郎さんと引き離されたら、こんなに苦しむのかしら)

民間企業に重役待遇で天下りすることが決まった司郎は、妻に領子との関係を打ち明け離婚を申し出る。
妻の佐保は、少女の愛らしさを持つ美しい若妻だ。
佐保は、
あなたがそうおっしゃるのなら仕方がない、浮気は薄々感づいていた、私は子供が生めない体だから…
と、あくまでしおらしい。そして、
「あなたをそこまで夢中にさせたその人に一度会ってみたい」
と言う。


143 名前:2/3 :2012/08/21(火) 22:57:13.78
領子は司郎宅を訪ねる。
佐保は領子が想像したより、若く美しく快活だった。
佐保は語る。

人生は短い、限られた時間を無駄にすることはない。
愛する人には幸せになってほしい。
貴女が素敵なひとで良かった、子供が生めない私のかわりにあの人の子供を生んでほしい。

司郎は離婚を切り出してから、佐保と寝室を別にしていた。
ある夜、佐保が足が冷えて眠れない、と司郎のベッドに潜り込む。
領子を知る前は、佐保の小さな足をよく暖めてやったものだ。
縋り付く佐保を、司郎はいじらしく思い、優しく抱きしめた。

その数日前、佐保はテニスクラブのコーチと浮気していた。
「ただの浮気ならかまわないわ、本気の浮気は許せない」
と息巻く佐保に、コーチは入れ知恵する。

「子供を生めばいいんですよ、跡取りを生んでくれる本妻を捨てる亭主なんてそうそういない」
「子供が嫌いだからってこっそりピルを飲んで、不妊症だと嘘をつくのはおよしなさい」
「奥さんは金持ちだ、誰か雇って丸投げすればいいでしょ」


144 名前:3/3 :2012/08/21(火) 22:59:45.76
一ヶ月後、領子は妊娠した事に気づいた。
出張中の司郎が東京に戻ったら真っ先に伝えよう、と思った矢先、佐保に呼び出される。
佐保は領子に妊娠を告げた。
「自分でもびっくりしましたわ、不妊症だと思っておりましたのに」
「何か不思議なことでも?私たち、まだ夫婦ですのよ」

出張から帰った司郎を、司郎母・佐保母が出迎える(どちらも別居)
佐保は妊娠を告げ、
あなたと領子さんのために離婚する、子供は母に助けてもらって育てる、私も領子さんのように働く。
と健気を装って主張する。
(コーチの言う通り…男って本当に単純ね…!)

司郎は佐保の目論み通り、領子に別れを告げる。
(私を抱いた後で佐保さんを抱いていたのね…!)
妊娠していた領子は中絶手術を受ける。
麻酔が効くのを待ちながら、領子は頭をもがれても動いていた蜂を思い出していた。
(私も司郎さんを忘れられなくて、あんな風に苦しむんだわ…)


145 名前:追加 :2012/08/21(火) 23:05:45.21
>>143
コーチの最後の台詞は、
「子育ては誰か雇って丸投げすればいいでしょ」
の意味でした。

>>144
司郎母と佐保母が揃って司郎を迎えたのは、佐保が妊娠を打ち明けて招待したからでした。

 

隣のベッド (わたなべまさこ名作集―悪女シリーズ)
隣のベッド
(わたなべまさこ名作集―悪女シリーズ)