シンデレラ(レディコミ版)

437 名前:本当にあった怖い名無し :2012/09/01(土) 18:28:23.72
童話や昔話をアレンジして、悲劇や後味悪い話にすることの多いレディコミ雑誌に掲載されていた話。
今月号は結構面白いのが載っていたので書いてみる

とある未亡人と二人の娘が、森の奥深くにある屋敷に向かっていた。辻馬車を雇って向かおうとしたのだが、
どの御者も行く先が森の屋敷と聞くと断り、二倍の料金を払ってようやく馬車を調達することができた。
屋敷に到着すると、出迎えたのはその屋敷の娘が一人だけ。
名前をエラと言った。そして母親は先日亡くなったのだという。
エラの父親はというと、実はこの未亡人の夫であり、こちらも先日亡くなっている。
その夫は未亡人宅で息を引き取ったのだが、今わの際によそに家庭を持ち娘がいたことを告白して、
その家と関わってはいけないと警告して亡くなった。

警告されたからといって、はいそうですかと納得できるほど、未亡人は心穏やかではいられなかった。
夫は行商人で家にいることが少なかったとはいえ、よき夫でありよき父であると信じていたのに、
よそに女を囲い娘までいたとは裏切られた思いであった。
森の屋敷の娘・エラに取っては未亡人は義理の母であり、未亡人の娘たちは異母姉ということになる。
よき夫であり父を奪った間女は既に亡くなっていて、彼女達の裏切られた思いは残されたエラに向かった。
森の屋敷のたたずまいが立派であることも未亡人と娘たちの怒りを掻き立てた。

立派な屋敷も調度品も、亡くなった夫が間女とその娘に与えたものだろうと思い、
未亡人と娘たちは怒りにまかせてそれらを奪い取ることにした。
最初からエラの家に代々受け継がれてきた正当な財産であるかもしれないという可能性を考える事すらしない。
未亡人と娘たちは立派な衣装も調度品も自分達だけで独占し、エラには粗末な衣装を着せて台所に追いやった。
かまどの灰だらけになったエラを嘲笑し「灰かぶりのエラ」という意味で「シンデレラ」と呼び蔑んだ。


438 名前:本当にあった怖い名無し :2012/09/01(土) 18:31:47.03
かつてはよき妻であり母であり、穏やかな笑顔を絶やさない美しい女性であったはずの未亡人は、
裏切られた怒りと嫉妬をシンデレラにぶつけ、いつもイライラしている醜い中年女に堕し、
娘達もまた、かつては家の仕事を手伝う素直なよい娘たちであったのに、
信じていた父親に裏切られた怒りからシンデレラに辛く当り、家事一切を彼女に押し付けた。

当のシンデレラはというと、それらの怒りすら届かないような呆とした風情で全てを受け流し、
ただ命じられるままに下働きの仕事を続けている。そのこたえる様子が無いところが
さらに未亡人親子の苛立ちを掻き立てるのだった。

そんなある日、お約束の王子様の花嫁選びのダンスパーティーがお城で開かれることになった。
それを知った未亡人は、王子の花嫁に自分の娘たちのどちらかが選ばれれば、
夫に裏切られたと知って以来続くこの胸の苛立ちも晴れるだろうかと乗り気になる。

そして未亡人とその娘たちは着飾って城に出かけ、シンデレラには留守番をさせた。
もちろん抜けだしてこないように、大量の仕事を言いつけて。
しかしシンデレラは森の小鳥たちに頼んで仕事をあっという間に片づけると、
自らも着飾って悠々と城に現れた。

美しいシンデレラに王子は一目で心を奪われ、あとから来た娘に王子をかっさらわれた他の娘たちは、
あれは誰だと騒然となった。
未亡人とその娘たちもやってきたシンデレラを穴が開くほど見つめたが、しかし不思議な事に、
魔法にでもかかったかのようにそれがシンデレラだと認識することができずにいた。
結局12時の鐘の音を合図にシンデレラはガラスの靴を片方残して城を去り、
それが逆に王子の心に彼女を深く焼き付ける。


439 名前:本当にあった怖い名無し :2012/09/01(土) 18:35:48.21
そしてさらにお約束の靴による娘探しが始まった。しかしその靴はあまりにサイズが小さすぎて
誰の足も収まらない。そんな街の評判を聞いて未亡人の娘たちは靴を履く前から悔しがっていたが、
そこにシンデレラがまるで暗示のようにぽつりとつぶやく。
「合わないなら足の方を合わせればいいのに」

やがてガラスの靴を持った王子とその従者が森の屋敷にも現れる。
未亡人は万が一にもシンデレラに合ってしまったら大変と彼女を小部屋に閉じ込め、
そして駄目元で娘たちに靴を合わさせてみるがやっぱり足が入らなかった。

他に娘はいないのかという王子の言葉に、未亡人は頭の片隅にシンデレラの事を思い浮かべたが、
なおさら彼女に王子の妃の地位を渡してなるものかと未亡人は意固地になり、
別室に娘たちと引きこもると「合わないのなら足の方を合わせよう」と娘たちの足を切り刻む。
もはやシンデレラ憎しの焦りから、彼女の暗示どおりの事をしている自覚すらなかった。

しかしそんなことをしてただですむわけもない。未亡人の娘たちは足の痛みに絶叫し、
その悲鳴を聞きつけて部屋に駆けつけた王子と従者は、惨状を目の当たりにして彼女達の意図に気付き、
そしてその浅ましさに声を失った。

その間隙をついて、押し込められていた部屋から森の小鳥の助けを得て抜けだしたシンデレラが現れる。
ガラスの靴は当然彼女にピッタリと合い、王子は一目見てシンデレラがあの時の娘だと悟ると、
目の前でのたうつ未亡人の娘たちのことなどもはや頭から完全に抜けおちて、
シンデレラを連れてさっさと森の屋敷を去っていった。

残された未亡人は、娘を王子の妃にしてシンデレラを見返すどころか、
目の前でシンデレラが王子に迎えられる様を見せつけられ、
娘たちの足を自分の手で切り刻んでしまった事実に打ちのめされていた。


440 名前:本当にあった怖い名無し :2012/09/01(土) 18:37:57.26
そこに最初にこの屋敷に来た日に、未亡人達を送ってきてくれた辻馬車の男が駆けつけてこう言った
「やっぱり、こういう事になってしまったのか…」と。
実はこの森の屋敷は森の奥深くにあるから人が来ないのではなく、
シンデレラの亡くなった母を魔女と恐れて人が近づかないのだった。
辻馬車の男も二倍の料金に釣られて未亡人親子を送っていったものの、ずっと気にはなっていたのだと言う。

かつても、そんな事情を何も知らない行商人の男が森の屋敷に滞在していたことがあったが、
魔女の正体に感づいたのだろう、逃げるように去っていった。
しかし男は魔女との間に娘を作っていた。それがシンデレラである。あの子は魔女の娘で、
森の小鳥達はその使い魔なのだと辻馬車の男は告げた。

その言葉を言い終わらないうちに、未亡人とその娘達に向かって使い魔の小鳥達が襲いかかってきた。
足を切り刻まれている娘達は逃げる事すらできない。森の屋敷に悲鳴が木霊した。
その惨劇を知るよしもない王子はシンデレラと見つめ合い、馬車を城に向かって走らせていた。
王子の表情は魔に魅入られたかのように、ただ一心にシンデレラだけを見つめていた…。

以上です。
大筋は本家シンデレラの話どおりなのに、視点を継母サイドに切り替えたら
彼らにも理があった風に描くこともできるとは思わなかった。
とりあえず行商人の父親は余計な事を言わずに死んどきゃよかったのにね、とは思う。
それだと話が始まらないけどさ。