弁護士のエッセイ

715本当にあった怖い名無し:2013/08/08(木) 11:47:23.61
弁護士の木村晋介氏のエッセイ。

氏は昔(エッセイの執筆時点で十数年前)、国選弁護人としてある殺人事件を扱った。
わずか数千円の金を奪うために女性を絞殺した事件だった。
どうしてそんな少額のために人を殺したのか、何度もいろいろな角度から尋ねたが
当の本人が頭を抱えて「よくわからない。」と繰り返すばかりだった。

ある面会日、捜査記録(関係者調書)のコピーを被告人に渡した。
それを読んだ彼は「母親の調書に書かれていることは本当ですか」
と思い詰めた顔で尋ねてきた。その調書に書かれていたのは、
彼の父親は若いときにわずかの金欲しさに人を殺し刑務所で死亡したと書かれていた。
「本当のことだと思うよ。」と答えたところ、彼はぶるぶると震え、泣き崩れた。
彼は、母親から「父親は若くして病気で死んだ。」と聞かされていたという…。

早いうちに父親の真実を知らされていたら、
彼の人生は変わったろうか、それとも変わらなかっただろうか。
変わっても変わらなくても後味が悪いと思った。