駝鳥(筒井康隆)

813 名前:駝鳥1 投稿日:03/01/12 23:40
筒井康隆のショート「駝鳥」

旅行者が砂漠を歩いていた。旅行者は一羽のダチョウを連れていた。
ダチョウは旅行者によくなついていた。旅行者はダチョウに食事を分け与え、
夜はダチョウの羽根の中で眠った。
旅行を続けているうちに、食糧が残り少なくなってきた。
旅行者は自分が生き延びるため、ダチョウにえさを与えるのをやめた。
ダチョウはえさを自分からねだることは無かった。
そのうち食糧が底をつき、男は荷物の中から何か無いかと探すと、
懐中時計が無いことに気付いた。
男はダチョウが時計を飲み込んだと思い、その見返りとしてダチョウの腿の
肉を切り取って食べた。
ダチョウは少しびっこを引きながら、それでも旅行者についてきた。
歩いても歩いても町は見えなかった。
旅行者は腹が減っては、高価な懐中時計の見返りとしてダチョウの肉を食べた。
ダチョウはあちこちの骨を露出しながら、それでも旅行者についてきた。
歩いても歩いても町は見えなかった。
ダチョウはついに骨だけになっていたがそれでも旅行者についてきた。
ただ、むき出しになった肋骨の中で懐中時計がコチコチとなっていた。


814 名前:駝鳥2 投稿日:03/01/12 23:42
やがて町が見えてきた。旅行者はこれで助かったと喜んだ。
無一文だった旅行者は懐中時計を売れば金になると考えた。
旅行者がダチョウの肋骨に手を入れたとき、ダチョウが初めて口をきいた。
「お前はその時計をとるのか」
旅行者はためらった。確かに時計と引き換えに彼はダチョウの肉を食べたからである。
時計はすでに彼のものではないはずであった。
しかし背に腹は変えられず、彼は肋骨から時計を抜き取った。
「そうか」
ダチョウはうなずいた。
「それならこの眼球は私のものだ」
ダチョウは旅行者の眼球をほじくり出し、飲み込んだ。
「この肩の肉も私のものだ。この尻の肉も私のものだ」
旅行者は次第に骨だけになっていった。

やがて町の人は砂漠から入ってきた一羽のダチョウを見ておどろいた。
そのダチョウは一体の骸骨を背中に乗せていたのである。
骸骨は金ぐさりのついた懐中時計をにぎりしめていた。

 

笑うな (新潮文庫)
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秒読み―筒井康隆コレクション (ボクラノSF)
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