ホーム » スレ別 » 後味の悪い話 その19 » N君のいかだ(島秀生)

549 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:04/08/09 20:35
お母さんは電話をしていた。いつもの長電話だった。
お母さんはふと思い出した。
お風呂が二時間も焚きっぱなしになっている
やってしまったと思いながら
N君にガスのリモコンを止めに行かせた。
お母さんはまた電話の話を続けた。
N君は少し知恵遅れだったが、今年無事に小学校に上がることになっていた。
N君はお母さんのお手伝いをするのが大好きで
喜んでお風呂場のガスのリモコンを止めに行った。
お風呂場は湯気がもうもうと立ち昇っていた。
N君はリモコンに横から手を伸ばすのではなく
閉めてある風呂のふたの上に腹這いに乗っかって
真正面からリモコンを回すのが彼のいつもの止め方だった。
彼の止めるスタイルのことをお母さんは知らなかった。

550 名前:続き 投稿日:04/08/09 20:36
その日二時間煮えたぎった風呂の
プラスチックのふたは熱せられてすっかり柔らかくなっていて
N君が腹這いに乗っかった途端、重みで湾曲してまん中が
煮えたぎった湯舟に沈んだ。N君は悲鳴を上げた。
あるいはあまりの熱さに声を失ったのかもしれない。
風呂のふたはN君の胸と腹を煮えた湯舟に沈めて、そこで止まった。
知恵遅れのN君は熱くて必死にもがいたのだけれど
どうしても自分で起き上がることができなかった。
顔を湯舟につけないように支えるのが精一杯だった。
なおもリモコンを止めようとしていたのかもしれない。
いつもお母さんに迷惑ばかりかけるので
ごめんごめん と言うのがN君の口癖だった。
リモコンを止めるのに失敗したのでN君は
ごめんごめん と謝りながら熱湯に身を浸していた。
お母さんの電話はまだ続いていた。
つけっぱなしのテレビの声も騒がしかった。N君の身体はもう内臓まで煮えていた。
N君は風呂のふたをいかだにしてそのまま黄泉の国へと海を渡った。
お母さんにごめんごめん と謝りながら。
さっきまでN君がいた部屋
テレビはちょうどN君の大好きな曲をやっていた。

 

N君のいかだ―詩集
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