ホーム » スレ別 » 後味の悪い話 その26 » ひばり鳴く朝(美内すずえ)

181 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/05/07(土) 13:47:34
美内すずえが70年代に描いた「ひばり鳴く朝」って短編、 
老科学者の生体実験で、赤ん坊の頃からたったひとりで
密室で幽閉されて育てられた少女の切ない物語なんですが
ここでは、ガイシュツでしょうか?

197 名前:185 投稿日:2005/05/07(土) 18:54:47
「ひばり鳴く朝」美内すずえ

人名とか確認してから書こうと思ったら、
今この作品、文庫化とか全然されてないんですね。びっくり

主人公は、心やさしい青年科学者。
恩師の老学者を尊敬しており、その娘とは婚約中。
ある日、青年は老学者の研究所へ呼ばれる。
見せたいものがあるというのだ。

なんと研究所には、密閉された隠された部屋があったのだ。
モニターに映し出されたのは、真っ白で何もない四角い部屋。
あるのは便器と、壁についた小さな四角い窓のようなもの。
そこには、12歳くらいの少女がひとりぼっちでおり、
寂しげな表情でツメをかんで座り込んでいた。驚く青年。

老学者は、かねてから、他の人間から隔離したところで、
たった一人で人を放っておいたらどのように育つかに興味を持っていた。
知り合いの若夫婦が事故で亡くなった現場に居合わせ、
その生まれたばかりの幼児が自分の手にころがりこんで来たとき、
この老学者は、どうしても誘惑に勝てなくなってしまったのだ。


198 名前:185 投稿日:2005/05/07(土) 18:55:49
つづき

青年は、少女の成長してきた記録フィルムを見せられる。
何もない部屋で目覚めて、泣きわめく赤子。泣き疲れては眠り、
やがて衰弱していく。一度は中止を考える老学者。
だが生きようとする本能が、次第にミルクを飲み、
ものを食べ、排泄をする習慣を身につけさせていった。
部屋の小さな窓からは、食事や着物が折りを見て与えられる。
時々、天井が開いて、日光浴の時間をとる。
言葉もなく、愛もなく、音楽もない部屋で、
少女はただ食べ、排泄し、育つ…。
老学者は彼女を「モルモット」と呼び、いっさい会うことはなく。
モニターでのみ、見守ってきた。それをいずれは、
青年に引き継いでもらいたいと言うのだ。
「モルモットだって? あの子は人間なんですよ!!」
「あの子は自分を人間とは思っておらん」
衝撃を受ける青年。
その日、青年はもうひとつフィルムを見た。
それは、生前の両親に遊んでもらっている赤ちゃんの姿。
日の当たる美しい屋外で、高い高いをされながら、
声を立てて笑う赤ちゃん。空いっぱいのひばりの声……

やがて、老学者が倒れる。青年はいやでも、研究を引き継ぐことになった。


199 名前:185 投稿日:2005/05/07(土) 18:56:44
つづき

だが青年は、少女の前に直接姿を見せる。老学者がどう言おうと、
青年は少女を、人間に戻す決心をしたのだ。
この子だって、本当なら今頃は、友達と楽しくしゃべったり
おしゃれをしていていい年齢なんだ……。
教育は大変だった。食器を使って食事をすること。
鏡をみせる事。少しずつ言葉を与えること。
少女は青年に笑顔を見せ、反応するようになる。
ある夜、嵐が来た。
そのとき、青年は、婚約者の老博士の娘とデート中だった。
大変だ、研究所が停電したら…! 引き留める婚約者をふりきって、
車を飛ばす青年。はたして部屋は全て真っ暗になっていた。
少女は暗闇で、おびえきっていた。現れる青年。抱きつく少女。
青年は、今こそ少女に求められたのだ。
ところが、青年が少女を抱きしめている所に、明かりをつけて
婚約者が入ってくる。
「とんだラブシーンね。説明してもらえない?」
彼女はどちらかと言うと、ハイソで冷たい雰囲気の人であった。
隠せないと思った青年は、父親である博士のしてきた事を全て話す。
驚く婚約者。だが同時に、こんなにも青年の心を占めている
少女に、強い嫉妬を感じる。


200 名前:185 投稿日:2005/05/07(土) 18:59:03
つづき

やがて、天啓のように青年は気づいた。
少女の失われた幸せな記憶、それが全て、ひばりの声とともにあることに。
ひばりの声を聞かせてみよう。
楽しい気持ち、笑い声、それを取り戻すのだ。
ひばりを買いに、青年は町に車をとばした。
ついに婚約者は、この少女がもしいなくなれば…と考える。
その手がスイッチを押し、天井が開き始めた。
少女は、初めて星空を見た。このチカチカ光ってるものはなんだろう?
少女は壁をよじのぼり、屋上にでる。足場はほとんどない。
ひばりと共に引き返してきた青年は、危険な高さで立ちつくす
少女を見る。救助隊も到着するが、
少女は青年でなければ助けられないはず。青年はみずから
リフトに乗って、少女に動かないように呼びかけながら近づく。
そのとき、騒ぎでひばりが籠から飛び立った。
高く美しい声が、空いっぱいに響いた。
少女が気がつく。みるみる内に、その表情に変化があらわれた。
それに気がつく青年。
少女の喉から、声が発せられる。瞳に光りが宿った。
少女はふと、手を差し伸べて近づいてくる青年に気がつく。
大きく青年を名を呼び、青年のもとに、少女は跳んだ。
全てを思い出した、
今こそ、輝かしい明日と、自由と幸せに向かって……。


201 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/05/07(土) 19:01:43
つづき

だが、二人の手は、ほんのわずか…届かなかった。
呆然とする青年の前をすり抜け、
少女は暗闇を落下して行ったのだった。
少女は死んだ。これから何もかも始まるという時に。

研究所から、病院の老学者に連絡を入れる青年。
「あなたのモルモットは死んだのですよ」
青年は、真っ暗な部屋でフィルムを回す。
ひばりの声の中で笑いつづける赤ちゃんを見続ける。
「幸せに…してやりたかったな…」
止まらない涙。
スクリーンいっぱいの赤ちゃんの笑顔……。

おしまい。

よくこの作品と比較される名作として、西谷祥子の
「行ってしまった小鳥」というのがあるのですが、
こっちの作品については良く知りません。
もしご存じの方いらっしゃいましたらお教えください。


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