義を見てせざるは勇なきあり

854 名前:1/3 投稿日:2005/09/13(火) 04:05:07
昔読んだ小説なんで色々間違ってるかもしれないんでスマソ。

主人公の家政婦は、短期契約である大企業の社長夫妻の家に住み込みで働く事になった。
その家の一人娘のA子さんの結婚式が近々控えており、嫁入り準備の人手が足りないという理由からである。
奉公先の社長夫妻は金持ちにありがちな高慢なタイプではなく、むしろ礼儀正しく誠実な人達で
願ってもない雇い主なのだが、社長令嬢のA子さんの様子はどこかおかしいのだ。
もうすぐ自身の結婚式というのに、まるで他人事のように一日中自室でボーっとしているだけで、
母親から新居へ送る荷物の整理や新婚旅行の準備について叱られても、心ここにあらずと言った感じである。
しかし主人公は雇い主のプライバシーに関わるまいと無理やり納得して日々の仕事に没頭していった。

さて、ついに結婚式の前日の事である。居間で一家が最後の家族団らんを楽しんでいると
不意に呼び鈴が鳴った。 こんな遅くに誰だろうと主人公が玄関に出ると、
社長婦人と同年代くらいの中年女性がプレゼントの包みを抱えて立っていた。


855 名前:2/3 投稿日:2005/09/13(火) 04:07:34
主人公がてっきり結婚祝いに来た親族なのだろうかと確認をとろうかと思ったその時である。
血相を変えた社長婦人が後ろに立っており、
件の中年女性に「お引取り下さい!」とヒステリックに叫んだのだ。 
いつも上品な婦人の慌てように主人公が呆然としてると、A子さんもいつの間にか後ろに立っているのである。

すると中年女性はやにわA子さんの方に駆け寄ると
「A子ちゃん結婚おめでとうね。呼んでくれなくて残念だわ。
 そうそうこれね、B子の使っていた手袋よ。
あなたにピッタリだと思うわ、ぜひ使ってね」
と捲くし立て、プレゼントをA子さんに押し付けた。
「帰ってください!警察呼びますよ!」と社長婦人が声を荒げると、中年女性は笑顔のまま家を後にした。
興奮冷めやらない様子の婦人は、A子さんが貰ったプレゼントを
「捨ててしまいなさいそんなもの!」と取り上げようとしたが、
A子さんは貰った手袋を手にはめて「ウフフ、B子ちゃんの手袋、B子ちゃんの手の皮をつけてるみたい~」と
気持ち悪い事を言いながらさっさと部屋に引っ込んでしまう。

翌日、結婚式が終了してひと段落ついた社長夫妻がくつろいでいると、新婚旅行中の花婿さんから国際電話がかかる。
どうもA子さんの様子がおかしい。自分がどこにいるかわからないようで飛行機の中で暴れだした。
今は鎮静剤を飲ませて宿泊先のホテルで休ませてる、明日連れ帰るからこれからの事を話し合いたいと言う。
受話器を置いた後、ご主人は「全部あいつらのせいだ!」と声を荒げ、
社長夫人は床崩れ落ちて泣き出した後、
誰かに吐き出さずにはいられないと事の真相を語りだした。


856 名前:3/3 投稿日:2005/09/13(火) 04:09:33
一年前、A子さんは女子大の卒業旅行にと親友のB子さん達と一緒に湖畔のペンションに泊まりに行った。
彼女達が湖でボート遊びを楽しんでいると、突然バランスを崩したボートは転覆し湖に投げ出された。
この辺あやふやなのだが、とにかく溺れたA子さんを助けようとしたB子さんは結果的に命を落としてしまう。
B子さんの家は熱心なクリスチャンであった。
B子さんのお葬式の日、大切な娘さんの命を犠牲にしてしまったと恐縮する社長夫妻に、
B子の両親は泣きながら「B子は人一倍正義感の強い子でした。
大事な親友の命を救えてあの子も天国で満足しているでしょう」と言った。そしてB子の母はこう続ける。
「あのう、これからA子ちゃんをB子の変わりと思ってもよろしいかしら。
 あの子が救った子ですもの。他人とは思えなくて・・・。」

それから事ある事にB子母はA子の元を訪れるようになった。ある時は遺品を携えて、
ある時はあの子の誕生日だから、とプレゼントを持って。
事件後すっかり塞ぎこむようになったA子は、この頃から決定的におかしくなってしまったのだそうだ。
「義を見てせざるは勇なきあり」という言葉があるが、
B子さんはその通り、良心に従い親友を助けようと自らの命を投げ出した。
しかしそれは結果的にB子さんの両親の心に深い悲しみを生み、
A子さん一家を巻き込んで不幸にしてしまったのである。
B子さんの母親がA子さんを狂気に追い詰める為にそのような行動をしたのか、
それとも本当に亡くなった娘の姿をA子さんに重ねあわそうとしたのかそれはわからない。
ただ言える事はB子さんは亡くなったが、社長夫妻もA子さんをなくしたのと同じ気持ちということだ。

長文失礼。