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202 名前:1/4 投稿日:2006/05/19(金) 11:29:41
タイトルなんだっけな、短編SF。

救援物資を運ぶ緊急宇宙船。
できる限りの物資を運んで最大速度で辿り着くために、常にギリギリの状態で飛んでいる。
乗員は一名、燃料は片道ギリギリ、行きだけ保てばよい船だ。

ある惑星に向かって緊急宇宙船が発進する。
安心した飛行士の元に、警報が響く。船内に誰かいるのだ。
飛行士は舌打ちしそうな気持ちを堪える。
たまにある事だ。密航目的や逃亡目的で紛れ込む犯罪者まがいの者がいる。


203 名前:2/4 投稿日:2006/05/19(金) 11:30:26
アラームが知らせる船倉へ行き、男は考え違いに動揺する。
そこにいたのは若い女性だった。
流行の装いに身を包んだ、20才にも満たなそうな女だ。

彼女は動揺した風もなく言う。
「ごめんなさい。私は罪を犯したわ。で、罰金を払えばいいの?お幾ら?」
そう言う問題ではない。この船は一人しか乗れないのだ。
黙り込んだ飛行士を見て、女の顔が不安になる。
「怒られるとは思っていたけど、大した事じゃないでしょう。
罰金はちゃんと払うわ。私は料理も出来るし掃除も得意よ。何でも手伝うから」
彼女は何も理解していない。


204 名前:3/4 投稿日:2006/05/19(金) 11:30:58
お金の問題ではない。燃料が足りない。
女性一人、50kgの重量が加わる事でこの船は目的地へたどり着けなくなる。
この船は、一人分の燃料しか積んでいない。
緊急宇宙船の飛行士は、何よりも物資を運ぶ事が優先される。
物資が届かない事で死ぬ数十名と、密航した女一人の命は天秤にかけられない。
飛行士は、ただちに密航者を船外へ追放しなければいけない。

飛行士は事実を告げる事が出来ない。
最後通牒を出来るだけ引き延ばそうとする。
なぜこの船に潜り込んだのか。
「兄に会いたかったの。兄はずっと辺境に出稼ぎに行ってるの。
父母が暮らせて、私が進学できたのも兄のおかげなの。会いたかったの」


205 名前:4/6 投稿日:2006/05/19(金) 11:31:30
飛行士は本線に連絡を取る。
近くに船はないのか、密航者を引き取ってくれる誰かがいないのか。
本線からは絶望的な返事が返ってくるだけだ。

女も段々と理解してくる。この船は、一人だけが乗れる片道輸送船なのだ。
「私を船外へ放り出すの?その意味がわかってる?私は殺されるの?」
震えた声を出す。

段々と事態を理解した女は、自分の事を語り始める。
兄はずっと辺境で働いている。そのおかげで卒業できた。
今年から働き口も見つかった。
就職先に行く途中で、この船を見つけた。
仕事が始まってしまえば、また兄に会えなくなる。
この船にもぐりこんだら兄に会う事が出来る。
兄に会いたかっただけなのに。


206 名前:5/6 投稿日:2006/05/19(金) 11:32:09
飛行士は気づく。
女は流行の装いを身につけているが、よく見ればどれも安っぽいまがい物だ。
辺境の惑星に兄が出稼ぎに行くくらいだ、裕福ではないのだろう。
それでも精一杯のお洒落をしたくて、流行品の偽物を買ったのだろう。

なぜよりによって、この船に乗ったのか。
なぜ「危険!入るな」の看板を無視したのか。
なぜこの船の出入り口は、もっと厳重に監視されていなかったのか。

女は知らなかったのだろう。
平和に暮らすほどんどの人が知らない事だ。
緊急宇宙船が片道切符だとは。


207 名前:6/6 投稿日:2006/05/19(金) 11:32:59
女は手紙を書き始める。父母に当てた手紙だ。
兄に会い、そのまま帰ってくるはずの娘だった。
しかし娘は帰れない。
震えながら、泣きながら手紙を書き続ける。

船は目的の惑星に近づいてきた。
彼女の兄がいるという基地に向かって、無線を飛ばす。
兄は妹が緊急宇宙船に乗っている事に絶望する。
辺境で暮らして、緊急宇宙船がどういう意味を持つか知らない者はいない。
兄は一瞬で事態を悟った。
狼狽して打開策を講じる兄に向かって、女は静かに言う。
「飛行士の方が出来る限り手を尽くしてくれたわ。でも無理なの。
この人を恨まないでね。この人は一生懸命やってくれたの。ごめんなさい」

そして避けられない時間が来る。
女はエアロックへと向かった。
飛行士は、彼女を船外へと追放するレバーを下げた。


209 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/05/19(金) 11:49:51
>>202
『冷たい方程式』だね。

212 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/05/19(金) 12:47:05
物資じゃなくて血清じゃなかったっけ?
目的の惑星が疫病に侵されてて、そこにいる兄に会いたくて…
とかだったような気がする。 

215 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/05/19(金) 13:32:46
どっかの小説にフリーズドライで解決するのが有ったwww
手足切断して質量を減らす.ってのも有ったなぁ...

燃料に付いては、減速、着陸用の燃料が不足する為では...


216 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/05/19(金) 13:37:14
>>215
フリーズドライwwwww

219 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/05/19(金) 14:46:20
そういや、全く関係ない話だがなんかのアニメで「暖かめの冷たい方程式」という話があったな。
流れは「冷たい方程式」と同じなんだけど、誰も死なないってやつ。

221 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/05/19(金) 14:59:17
>>219
多分『ナデシコ』。

224 名前:213 投稿日:2006/05/19(金) 17:11:40
>>214-218
加減速に燃料が要って他は要らないのはその通りなんですが、周囲に何も手掛かり足掛かりの
無いところで推進力を得るので、宇宙船の燃料というのは自動車や船の燃料とは意味が違います。

宇宙船は燃料を進みたい方向と反対方向に投げ出すことによってのみ推進力を得ますので、
投げ出す速さと投げる燃料の質量によって、最終的な速度は完全に決まってしまうのです。

つまり、燃料を投げられる速さ(エンジン性能)と積んでいる燃料の質量が決まってしまえば、
どうにもならず、エコノミー飛行とか何とかは出来ないのが宇宙船なんです。

もちろんこのことは作中でも説明されていて、操縦士はギリギリまで減速開始を延ばして
慣性飛行を続けますが、ペイロードを減らす以外には終速度を変える(予定通りに戻す)術は
ありません。この運動量保存則を「方程式」と表現したのでしょう。

>>215
人工冬眠は筒井康孝の「タヌキの方程式」かと。

 

冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)
冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)


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