子供の王国(諸星大二郎)

863 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/13(火) 16:57:06
ジャンプつながりで、諸星大二郎のコミック「子供の王国」。

時代は近未来。日本では、人は10歳過ぎくらいから成長停止剤を飲み、
子供の姿のまま過ごすのが一般的になっていた。
大人の身体が必要な肉体労働は、あらかた機械がやってくれるし、
寿命が延びる、成人病が防げるなどの噂もあった。
町で乱暴な遊びや、悪質なイタズラに明け暮れている子供は、
もっぱらその、「リリパティアン」と呼ばれる成長拒否者たち。
本当の歳の子供たちは、学校や塾通いで生気がない。
そのストレスを取り戻すかのように、30歳や40歳の大人たちが
社会を掌握する一方、純粋な魂をもつニセ子供として町に充満していた。

主人公の青年・狩場は、そんな社会の中で普通の大人として成長した会社員。
彼の父親が、この異常な風潮に反対だったためだ。
今や会社もキャバレーも、部屋や家具まで子供サイズが当たり前となっており、
上司も同僚も皆、子供すがた。正常人である狩場は会社の中でも肩身が狭く、
立場も不利だった。実際、世の中の管理職の80%は成長拒否者。
正常人は、どんなに真面目に務めても出世は望めない。
狩場はこの不条理な世相に常に反感を持ち、肉体労働で良いから、
もっと大人の身体が必要とされる、やりがいある仕事がしたいと思っていた。


864 名前:863 投稿日:2006/06/13(火) 16:59:44
そんなある日、狩場は恋人の真理子とケンカをしてしまう。
真理子は、同じく正常に成長した美しい娘。彼女の親は狩場との結婚に反対で、
エリートのリリパットとお見合いするように勧めているという。
リリパットの男には、大人の女が好みの者もいる。
美しい真理子は、そんな連中には貴重な存在なのだ。激しい嫌悪を感じる狩場。
「子供みたいに遊び回って、セックスは成熟した女とか!」
気分を害した真理子は怒って帰ってしまい、ヤケになった狩場は普段は入らない飲み屋に入る。
客も女もニセ子供。薄暗い照明の下の、幼稚なインテリアの中で、奇妙な子供たちの酒盛りが行われている。
ドん暗くなっている狩谷に、ずる賢そうなニセ子供が、大人の口調で近づいてくる。
彼は社会のシステムをなげく狩場に、ある事をささやいた。
成長した者でも、今から子供の姿に戻る方法が一つだけあると言う。
特殊な整形手術である。ただし、これだともう大人にはなれないが…。
「聞いて下さいよ、悪い話じゃないから」
振り切って店を出る狩場。正常に成長した事への負い目を見透かされ、
ますます暗く、捨て鉢になった狩場は、初めて町で女を買う。
リリパティアンの「幼女娼婦」である。下半身を任せながら、
お金を貯めて「子供の城」に行きたいという彼女を、狩場はぼんやりと見つめる。

865 名前:863 投稿日:2006/06/13(火) 17:00:51
「子供の城」とは、大富豪の故・津軽大造の大邸宅である。
津軽財団は、成長制止剤の特許を持つ大財閥。
もともと、初めて自分の子供たちに薬を使ったのが大造だった。
いつまでも自分の手元に置きたかったかららしいのだが、
その子供たちは、大人の年齢になっても成長する事を拒んだ。
もとより金には不自由しない立場。彼らは広大な邸宅を「城」と称して、
子供の姿のまま働く事もなく、生涯遊び暮らしたという。
その生き方に憧れた者達が集まり始め、今の異様な流行の元になっていた。
医学の発達で、リリパティアンも子供を作ることはできるので、
現在の津軽氏は三代目。金持ちの同士と共に、遊び暮らしているらしい。
中枢の実態を知りたいと思った狩場は、
会社から「城」へ荷物を搬出するトラックに乗り込み、潜入を試みる。
相棒は、同じ正常人の運転手。
同じ会社の落ちこぼれ組として、狩場とは普段から親しくしていた男である。
だがその途中、狩場は、豪華なレストランに入る真理子を見てしまう。
彼女は身なりの良いニセ子供と一緒だった。
心乱れる狩場を乗せ、トラックは一路「子供の城」に向かう。

866 名前:863 投稿日:2006/06/13(火) 17:02:26
それは、今や全くおとぎ話に出てくるような西洋の城風に作られていた。
広い庭には、城のシンボルなのか、巨大な横たわったガリバー像があった。
その像に縄をかけ、登ったり滑ったりして遊ぶ無数のニセ子供たち。
だがその子供たちは、トラックを見ると、一斉に石を投げつけて来た。
無邪気そうな笑顔である。だがガラスに当たり、ひどく危ない。
やむなく、そこを避けて横庭に入るトラック。
そこは、巨大な機械仕掛けの恐竜や、架空の動物の動き回る夢のような庭園だった。
と、森の中からインディアンの姿のニセ子供たちが現れ、
今度は楽しげに矢を射かけて来た。どかそうとした運転手の腕に、
深々と矢が刺さる。オモチャではない。見る見る運転手の服が血に染まっていく。
尚もいかけ続けられる矢の雨。トラックは恐竜に阻まれ、進めない。
森の中を逃げる狩場と運転手は、廷内の川を下ってくる海賊船に遭遇。
海賊の姿の子供の手には、本物の拳銃が握られていた。

運転手は胸を撃たれ、信じられないという顔で死んでいった。
森を走る狩場は、軍服姿や探検隊の姿で銃を持ち、
「遊んで」いるニセ子供たちを見る。彼らは「ごっこ」で人を狩っているのだ。
廷内には、「拷問ごっこ」で死んでいる者もいた。
それは、彼らと同じ仲間のはずの、ニセ子供であった。
「狂ってる…あいつら、狂ってやがる……」廷内をさまよう狩場。
そうこうする内、狩場は「子供の城」城主三代目津軽の部屋にたどりつく。
三代目は、成長制止剤と整形を繰り返しているらしく、変に歪んだ外見の
太ったニセ子供だった。部屋では今しも「白雪姫ごっこ」が行われていた。
テーブルの上にハダカの大人の女が運ばれ、最初に城主が、次に側近たちが、
次々と彼女を犯す。女は眠らされているのか、ぐったりしたままである。
だが、女の顔が見えた瞬間、狩場は飛び出した。それはあの真理子であった。


867 名前:863 投稿日:2006/06/13(火) 17:03:46
「おとなだ!醜い大人だ!」
「汚れた大人が侵入したぞ!」
群がるニセ子供たちを片っ端から吹っ飛ばし、狩場は叫ぶ。
「きさま達は、子供でも童心に返った大人でもない!ただの異常者だ!」
ハダカでわめく三代目津軽をタコ殴りにし、真理子を背負って走る狩場。
実弾を発射しながら追ってくる、「戦争ごっこ」のニセ子供たち。
猟奇的なロウ人形館に逃げ込むと、拷問道具や死体はどれも本物だった。
戦慄し、脱出だけを考える狩場。だが、一瞬の油断でみのがした幼女に
真理子を撃たれてしまう。狩場の腕の中で、真理子はそのまま息絶えた。 ブチ切れる狩場。
やがて狩場を追ってきたニセ子供たちの見たものは、
全身に武器をまとい(コスプレ部屋にあった。ただし本物)、
バズーカや機関銃を撃ちまくる狩場の姿であった。
「殺してやる!きさまら、みんな殺してやる!!」
部屋を駆け回り、ダンスや乱交中のニセ子供を虐殺していく狩場。
楽しげに実弾を浴びせてくる城じゅうのニセ子供たち。
自らも血まみれになりながら、狩場は恐竜を、海賊船を爆破する。
と、庭の巨大ガリバー像が起きあがり始める。腕を振り上げ襲いかかる像に、
狩場はマシンガンを撃ち続けた。足が、腕が崩れ、
醜い機械の内部をサラして、ガリバー像はゆっくりと崩れ落ちて行った。

868 名前:863 投稿日:2006/06/13(火) 17:04:43
王国は崩壊した。その後、奇妙な風潮は熱が引くようにおさまった。
「年齢にふさわしい顔と身体を」という運動が起き、
リリパティアンは本来の年齢の姿となった。
成長停止剤の使用は批判され、ニセ子供向けの奇妙な施設や
遊び場は次々取り壊され、社会は正常に戻っていった。

だがそんな中、町をさまよう一人の子供の姿が見られた。
彼は人を見ると「遊ぼうよ…ねえ、一緒に遊ぼうよ」と誘った。
廃止になったゲームセンターや遊園地を訪ねては、追い返されていた。
人々は、「まだあんなのがいるんだな」とささやいた。
「ありゃ手術だな。よっぽとヘタなもぐり医者に引っかかったんだ」
明かに、無理矢理縮められた手足。傾いた歩き方。
骨を削りとられたような顎。だかその顔は……まぎれもなく狩場であった。
彼は断られても、断られても歩き続ける。
道行く人の袖をひき、ほうけたように繰り返すのであった。
「遊ぼうよ…ねえ、遊ぼうよ…」


871 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/13(火) 17:15:11
>>863
面白かった!
でも何で最後、狩場は子供になったの?

872 名前:863 投稿日:2006/06/13(火) 17:22:12
恋人は死んじゃうし、ジェノサイドはしちゃうしで、
大人としての苦しみから逃れたいと思ってしまったのではないか。
ブチ切れて雄々しく闘ってる狩場はなかなかカッコ良いので、
このラストは本当に後味悪いです。

875 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/13(火) 17:41:13
乙です。
自分は、こういう「社会が異常な時は自分は正常で、社会が正常な時は自分は異常」みたいなシチュ好きだな。
藤子先生の漫画でもそんなのがあったけど。

887 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/13(火) 21:10:40
中一の時読んで、マジで吐き気がした<「子供の王国」

ニセ子供が主人公の彼女を犯すのは、側近達が「初夜だ初夜だ、王子様と白雪姫の初夜だ」と
はやしたてて、「(笑いながら)へんだなあ、起きないぞ」→側近「では今度は
私めがやってみましょう」と、大変胸糞悪くなるシーンだった。

でも諸星大二郎は面白いよ。863さんの筆力で、同じような後味悪い系の
「アダムの肋骨」「地獄の戦士」「鎮守の森」を紹介して欲しい(他力本願)


929 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/14(水) 11:06:14
小人の王国、最後の小人は主人公じゃないと思うよ。
顔の描き方が違うし…。

あれは大人に戻る手術をしてない(金がなくてできない?)
取り残された小人じゃないかと
以前漫画板の諸星スレで結論が出てた。


930 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/14(水) 11:28:17
>>929
自分も「子供の王国」読んだけどそう思った。
あれ、主人公は死んでるよね?

934 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/06/14(水) 12:33:26
>>929 930
でも、最後の手術リリパットが主人公じゃないと
オチとして弱くね?
俺はずっと主人公だと思ってたが。

ま、真実は諸星の頭の中か。

 

子供の王国―諸星大二郎珠玉短編集 (ジャンプ・コミックスデラックス)
子供の王国
諸星大二郎珠玉短編集
(ジャンプ・コミックスデラックス)