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648 名前:1/3 投稿日:2006/08/01(火) 09:46:43
さっき読み終えたばかりの石持浅海著「月の扉」

聡美は思春期の不安定な時期に自閉的になり、
勧められて問題のある子供向けのキャンプに行かされた。
沖縄で行われるそのキャンプは特になにかを強制されるわけでも
計画を立てなければいけないものでもなく、
ただ主催者の石嶺と話したり、海で遊んだり、
月や星を眺めていればいいといった、自由気ままなものだ。
ただそれだけだが聡美は癒された。
石嶺は読者が「何かトリックあるんだろ?」
と最後まで疑い続けちゃうぐらい異様に皆に慕われるカリスマなキャラで、
多くの子供たちは石嶺の存在を神のように感じるようになり、
自殺未遂を繰り返してたような子ですらも、数日一緒にすごしただけで立ち直ったりする。
だが怪しい宗教だろの誹りを受けたり、その声を鵜呑みにした保護者により
途中で連れ帰られた子供が結果的に自殺したりという事もあったりした。

聡美は無事に成長し、教育学部を経て教師を目指したが、
現代の教育構造に反感を覚えてやめる。
そしてかつて自分が救われたように、
自分も子供を救いたいと石嶺のキャンプでボランティア活動をする事にした。
だが石嶺が不当に逮捕されてしまう。容疑は児童誘拐だった。
両親の離婚によって傷ついた大地という少年が
かつてキャンプに訪れ復活して帰って行ったのだが、
大地の母親が「あれは誘拐されてたのよ」と騒いだためだった(キャンプは父が独断で行かせた)。
大地の母方の祖父は沖縄の警察の偉い人で、
明らかに不当ではあるが一時的に石嶺は拘束を余儀なくされた。

聡美は焦る。あの日にやらなければいけない事があるのに…と。
そして他のボランティア仲間たちと共に知恵を絞り、
沖縄空港の飛行機をハイジャックし、幼子を人質に石嶺の身柄を解放してもらおうと考えた。


649 名前:2/3 投稿日:2006/08/01(火) 09:51:14
実行メンバーは迷惑がかからないようにと家庭を持っていない、聡美を含めた三人にした。

真壁はかつて家族を米軍に轢き殺されたあげく、
祖国にとんぼ返りされてしまったので裁きすら与えられず、
私刑を下そうと空手を習い腕を磨いたが、
石嶺にあいボランティア活動をする事で恨みを消して行った。

柿崎はかつては家庭を持っていたが、いじめに気付かぬまま息子を自殺で亡くした。
その事が原因で妻とも別れた。真壁と同じように、孤独を石嶺に癒されボランティアをするようになった。
彼らはもし警察側が言う事を聞かなければ見せしめに人質を一人ずつ殺していくつもりだった。

石嶺は実は公安にマークされていた。行動は白も白だが、いつ危険になるかわからないからだ。
彼のキャンプを出た子供たちは、東大を卒業して官僚になった者や、
歌手として多くの人々を惹きつける者や、甲子園で活躍している者など、
ほぼ全ての者たちが有名であれ無名であれ、様々な分野で才能を開花していた。
石嶺は宗教的な野望を持っていないが、その気になればキャンプ出の者たちを使い、
そして自らのカリスマ性で国家を乱す事すら可能だ。
大地の件で石嶺に関わった警察官たちも、目に見えて石嶺のカリスマ性に惹かれ始めていた。

石嶺は確かに野望こそ持っていないが、宗教チックな思想は確かに持っていた。
その基本となるのは輪廻転生。人間はこの世で生きていくうちにどうやっても内に汚れを溜めていく。
そして死んだら『再生の世界』に行き全ての汚れを落とし、また生まれてくる。その繰り返しだという考えだ。
だが世の中には汚れになじめず苦しんでいる者たちがいる。
石嶺にはそんな人々に自然に生きる術のようなものを与える能力があった。
けれど、石嶺自身は汚れを溜めるだけのこの世界を厭い、
ただ浄化だけが行われる「再生の世界」に永遠に存在していたいと思った。

常人にはよく理解できないが、石嶺はその方法を発見した。
最大級の皆既月食が起こる夜に、石嶺が沖縄の広い場所にいること。
そうする事で再生の世界へと生きながらにして辿りつき、永住する事ができる
(死んでから行くと輪廻にくみ込まれるだけらしい


650 名前:3/3 投稿日:2006/08/01(火) 09:54:46
皆既月食の間は「再生の世界」への扉を開け放したままにしておくので、
石嶺の思想に同調した者が共に「再生の世界」に行きたいと願えば行けるのだという。
その結果石嶺がいなくなったら、この世界で石嶺に救いを得ようとする人々は困るかもしれないが、
こんな能力を生まれながらに持っているのはけして一人だけではないだろうから丈夫だろうと石嶺談。

つまり、聡美たちは「再生の世界」に行きたいがために、
皆既月食の起こる瞬間に石嶺を広い場所にやらなければいけないとハイジャックを起こしたのだった。

色々トラブルはあったものの、子供を一人も殺さずにすみ、石嶺を取り戻す事ができた。
広い滑走路から皆既月食を見上げようとした瞬間、柿崎が石嶺を刺した。
激昂した真壁は柿崎を殴り倒す。石嶺はすぐに死に、柿崎も死に行こうとしていた。
柿崎の息子は石嶺の思想で言えば、死んでから「再生の世界」に行った。
そしていじめによって受けた汚れなどを消し去り、いつかはこの世界に帰ってくるはず。
でもその時に救いがなければ、また二の舞になりかねない。
救い手である石嶺が「再生の世界」に留まり続け、
我が子が救われず、生まれ変わってもまた苦しみの末に死んでしまったら。
石嶺から「再生の世界」の話を聞いてから、柿崎はずっと石嶺殺害を計画していた。
再生の世界に行く事はきっと止められないから、それなら石嶺を殺すしかない。
そうすれば石嶺はこの世にいつかまた生まれ変わり、
同じように生まれ変わった息子を救ってくれるかもしれない。

石嶺が死んでしまったら「再生の世界」への扉は開かれず、残された物はただの犯罪者でしかない。
真壁はパニックになり一度は手放した人質の子供に駆け寄ろうとして銃殺された。
そして聡美も。

その日の夜、皆既月食を観察していたのを最後に失踪した者が15人出た。
もしかしたら「再生の世界」というものは確かにあり、石嶺は死の寸前にその扉を開いたのかもしれない。
聡美たちも望みを捨てずにいたらその世界に行けたかもしれない、と探偵役が語る。

同作者の「水の迷宮」や「扉は閉じられたまま」も犯人の動機がものすごく理解し難かったが、
今回は途中まで感情移入してただけにエエエエエーという感じだった。


651 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/08/01(火) 10:03:24

なんか、後味悪いっていうより、浮世離れした話だな

660 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/08/01(火) 13:03:04
>>648-650
乙。面白かったし、要約上手いね。
仄かに幻想的な雰囲気もするし、タイトルも好みなので今度読んでみよう。

しかし、石嶺は生まれ変わっても同じ様な力を持てるのかね?
それに、柿崎の息子とても生まれ変わってなお、現世の汚れに馴染めないだなんて
そんなの柿崎の勝手な妄想じゃないか・・・と思うと悲しい。
石嶺の教えもさぁ、生まれ変わる度にある程度前世の業(カルマ)を解消して
ステップアップして行くみたいな思想だったら良かったのに。


662 名前:660 投稿日:2006/08/01(火) 13:14:19
あぁ、よく読んだら柿崎息子は石嶺に救われる前に自殺しちゃったんか・・・。
それなら来世でもあかんわって思うぽ。

677 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/08/01(火) 18:23:23
>>648
いま読んだので遅レスすまんが、基地害が全員裁かれてよかった、とオモタ
なんなら罪のない幼子頃そうって考えてるしな。
探偵役もそうとう逝ってるな。

693 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/08/01(火) 23:29:11
>>677
キチガイはキチガイなんだけど、実際読んでると彼らの思想はともかく、
感情移入できてしまってなんか可哀相になってしまうんだ。

探偵役はただの乗客で、巻き込まれて推理する事になった一般人。
作中で本名は出ないが、口調や肩書きやら推理力などから
同作者の「水の迷宮」の探偵役と同一人物ではないかと言われている。
水の迷宮は一応ハッピーエンドだが色々ともやもやする話なのでおすすめ

 

月の扉 (光文社文庫)
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