ザシキワラシ(かずはしとも)

438 名前:ザシキワラシ/かずはしとも 1 投稿日:2006/09/10(日) 20:46:13
とある東北(と思われる)農家に、座敷童子が住んでいた。
その家の最後の当主は、ザシキワラシに今までのことを感謝し亡くなった。

家なき子となったザシキワラシは街に出て、捨て猫に話しかけていた1人の少女と出会う。
少女はザシキワラシに自分の家を前の通り幸せにして欲しいと頼んだ。
エリートだった父が職を失って荒んでしまい、妻と娘に暴力を振るっていたのだ。
娘を連れて出て行くという母親との口論の末、彼女の首を絞めようとする
父親にザシキワラシは枕を投げつけた。父親はそのまま倒れこんで眠ってしまう。
「これでこの人の悪い夢が吸い取れるといいが…」ザシキワラシは呟く。

気が付けば父親は、江戸時代?の貧乏子沢山の農家の長男になっていた。
弟妹の世話をし、家族を助ける長男を両親は褒める。
妹の1人はどこか娘に似ていた。「兄ちゃんは良く働くから」と自分のおやつの
饅頭を渡してくれる。

夜、布団の中で「褒められるのは久しぶりだ」と長男(父親)は心を和ませる。
だがその夜、両親は口減らしのために饅頭をくれた妹の顔に濡れた紙をかぶせ始めた。
驚いて止めに入った長男に、両親は飢饉が酷く、こうしなければ
暮らしていけないのだと言う。あの饅頭は、殺される子供への手向けだったのだ。
「親だからって子供を殺す権利は無い!!」
そう叫んだところで、父親は現実に戻ってきた。

娘もその夢を見ていたのか、「あれは本当にあった話?」と涙ぐむ。
ザシキワラシはああして殺された子供がなるんだ、とザシキワラシは言う。
仕方ないことだ、ネコだって育てていけないと判断したら子供を食ってしまうんだ、
昔の話しだし…というザシキワラシに娘は「ザシキワラシが可哀想」と涙をこぼす。


439 名前:ザシキワラシ/かずはしとも 2 投稿日:2006/09/10(日) 20:46:55
悪い夢を吸い取られた父親は改心した。娘も良かった、これで幸せになると笑う。
だがザシキワラシは、いまだに良くないモノを感じていた。
父親が母親に謝ろうと部屋へ行くと、母親は「好きな人が出来たので離婚してくれ」と迫る。
子供はどうするんだ、と父親が子供部屋を訪ねようとすると母親が必死の形相で止めた。
ザシキワラシはようやく違和感のもとに気付く。さっきまで一緒にいた娘がいない。

こんな父親の元においては置けない、さりとて10歳も年下の恋人の下にも連れて行けない。
…娘は一週間も前に、母親によって殺されていたのだった。

少女とであった場所に、まだ捨て猫はいた。
「親に食われるのがいいか、それとも出て行くのが良いか?」
ザシキワラシが箱をひっくり返すと、ネコたちはそれぞれ散っていった。

 

ホラー M (ミステリー) 2006年 10月号 [雑誌]
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