首代引受人(平田弘史)

492 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/10/22(日) 22:29:54
 時代劇漫画だが、平田弘史「首代引受人」がなかなか後味悪い。 

「首代」とは合戦時に、命を助けて貰う代わりに敵にお金を払う約束手形を発行すること。
しかし首代は不名誉な上に百両もの大金であるため、いざこざが起きやすい。
そのためこの漫画の主人公である半四郎のような凄腕剣士が取り立てを代行する、という物語。
その中の一編。

とある合戦で出会った侍二人が戦い、負けた侍(仮に甲とする)が上記の経緯で命乞いをする。
そして勝者(仮に乙とする)に発行される首代手形。その後二人の侍は長く出会うこともなかったが、
勝者の乙の家が止むに止まれぬ事情で傾き、
乙は今際の際に「甲の家から首代を取り立てるがいい」と家族に申し渡して事切れる。
乙家中の男衆は甲の家を訪ねるが、甲の家は非常に富み栄えており
首代を支払うくらいは容易く思われた。胸を撫で下ろす乙家の男達。
しかし、昔の恥を露呈する形になる甲本人及び甲家の者達は、孫娘に良家との縁談が進んでいる
こともあり、臭いものには蓋とばかりに乙家の人々総勢八名を騙まし討ちにし、惨殺する。
その際、唯一生き延びた乙家の男が瀕死で出会ったのが首代引受人である半四郎であり、
乙家から首代の取立てを請け負った半四郎は、甲家の孫娘の祝言の席に乗り込んでゆく。


493 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/10/22(日) 22:30:42
悠然と祝いの場に踏み込んだ半四郎は、居並ぶ人々の前で甲家の非道と乙家の悲惨とを滔々と語り
「あまりの悲惨ゆえ、百両に五十両上乗せして(甲家の)遺族に渡してやってくれ」と告げる。
面目を丸潰れにされて激昂する甲達。しかしその時、甲に対して花嫁である孫娘の声が響く。
「おじい様、どうか首代を払ってくださいませ。その家の方々の霊を弔うためにも」
純白の打掛を纏った孫娘の必死の訴えだったが、頑迷な祖父達は聞く耳を持たない。
はらはらと涙を零した孫娘は「……八人様に、お詫び申し上げます」と呟くなり、
懐剣で自らの喉を突いて自害する。
呆然とする人々の中、孫娘の婿になるはずだった若者は憤怒の表情で甲を睨みつけながら
「銭がそれほど! 孫娘を、多くの者を死なせるほどに大事だと言うのか!こんな家に婿入りなど出来るか!」
「八重どの(孫娘の名)……そなた一人を死なせはせぬぞ。黄泉の旅路は二人連れじゃ」
周囲の者が止める間もなく割腹し、間もなく事切れる。
華やかな祝いの席が血の海となり、狂乱した甲達は次々に刃を抜いて半四郎に斬りかかるが
全て切り伏せられ、最早抗う気力も無くした甲家の一人が差し出した百五十両を受け取った半四郎は
馬に乗って去ってゆく、という結末。

心優しい孫娘と若者らしい潔癖さを持った婿の二人が、金欲にまみれた祖父たちの因果で
本来は晴れて夫婦となるはずだっためでたい日に、真っ先に死ぬというこの理不尽。
なんともやるせない話だった。


495 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/10/22(日) 22:41:32
そうやって、首代をとりたてて、帰り着いてみたら、
これもまた首代を支払えなくて一家心中してた、という話もありましたな。

 

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