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124 名前:スキュラの恐怖 1/5 投稿日:2006/11/01(水) 23:49:57
クトゥルフ神話を題材とした短編「スキュラの恐怖」

舞台は20世紀前半のアメリカ。
主人公がある朝目覚めると、ベランダに首のない女性の体があった。
不思議なことに、その傷口からは血が流れておらず、まるで作り物のようであった。
だが、作り物にしては生々しく、本物であるかのような質感を備えている。
これが悪質な悪戯にせよ、本物の事件にせよ、そのようなことをする人物に心当たりがあった。
主人公は興味半分から、あるオカルトサークルに所属していたのだが、
そのサークルの魔女を自称する女性から言い寄られていたのだった。
恋人がいた主人公はそれを理由に魔女を拒絶するが、そのために彼女のプライドをいたく傷つけてしまった。
魔女は彼とその恋人に手ひどい呪いをかけてやると宣言して、姿をくらましてしまう。
オカルトサークルに所属していながらも、
そういったものを信じていない主人公はそれきり、彼女のことを気に止めなかった。
だが、彼女であればこういった狂気じみた嫌がらせをしてもおかしくはない。
そう思った主人公は、恋人が心配となり、慌てて彼女の元へと向かう。

はたして、恋人は無事であった。だが、酷い悪夢に悩まされたという。
その夢は生々しく、かつ現実的で起きた後も彼女を苦しめていた。
ひどく怯え、取り乱す恋人を落ち着かせながら、彼はその悪夢の内容に耳を傾けた。


125 名前:スキュラの恐怖 2/5 投稿日:2006/11/01(水) 23:50:28
彼女の語った悪夢の内容はこうだった。

昨夜、彼女の元に魔女が訪れ、何がしかの呪文を唱えた。
それに意識を失い、ふと気がつくと彼女は首だけとなって、どこかを果てしなく落下していた。
恐怖に凍りつく彼女だったが、不意に何者かにつかまれて落下が止まった。
その彼女を捕まえた何者かは、もう一つ男性の首を抱えていた。
「危ないところだった」と、その男性は話した。
眼下では人間の知覚を絶したなにかに、人間を含めた様々な生き物の頭が接続され、苦悶の声を上げている。
首だけの男性が話すことには、あれは人間をはるかに超えた、しかし異質な思考の持ち主なのだという。
魔術師の呪い等によってこの空間に送り込まれた生き物の頭は
あの存在に接続され、その思考のために脳を使われる。
その思考があまりにも異様なために、犠牲者たちは常に狂気に責め立てられているのだ。
男もその犠牲者の一人で、呪いによって首だけがここに飛ばされてきたのだ。
だが彼自身もまた強力な魔術師であり、事前に用意していた使い魔に首を抱えさせて助かったのだという。
そして、それ以来死ぬこともなく過ごしてきたが、
目の前を若い女性の首が落ちていくのを見て、とっさに助けたのだった。

恋人は異常な光景に、半ば狂気に陥りながらも、自分は恋人がいること。
何とかして元の身体に戻り、自分の部屋に帰りたいことなどを訴えた。
彼女の必死の訴えに、魔術師は方法はあると答えた。
だがそれは非常に危険な方法であった。
この宇宙の中心ともいうべき場所で、全能にして白痴な神のいる場所でならば
彼女の思ったことを現実化できると言うのだ。
そこで彼女の身体を復活させ、そして地球に戻ればよい。
だが、その場所は非常に危険な場所で、人間の神経が耐えられる場所ではない。
なので、その間彼女はずっと目を閉じていなければならない。
もし、一目でもその場所を見てしまったら、即座に狂気に蝕まれるだろう。


126 名前:スキュラの恐怖 3/5 投稿日:2006/11/01(水) 23:51:06
それらの危険性を承知した上で彼女は身体の復活を望んだ。
それを受け、使い魔は二人をすぐさま白痴の神の元へと運んでいく。
そこで彼女は、男の指導の下、ゆっくりと身体を再生していく。
と、上半身が出来上がったときにふと不安がよぎった。
「目を閉じながらの作業だから、本当にちゃんとした体が出来ているか、わからない。
 もし、肌の色がとんでもない色になっていたらどうしよう。
 もし、腕や足の長さが左右でバラバラだったらどうしよう」
一度浮かんだ不安は、なかなか消えない。
「少しだけなら、薄目でちらっと見るだけなら、きっと大丈夫。
 確認したらすぐに閉じれば良いだけ……」
その不安に打ち勝てず、彼女はちらっと自分の身体を見てしまった。

それは想像を絶する光景だった。
ちらっと見ただけで、彼女の精神は平衡を失い、狂気が襲い掛かる。
そして再生を続けていた彼女の下半身は、その精神の影響をもろに受け、でたらめに何本もの手足が生え始めた。
狂気と恐怖の狭間で彼女は叫んだ。
「これは全部夢よ。
 私は今、自分の部屋のベッドで寝ているの」
と、そこで彼女は目を覚ましたのだ。


127 名前:スキュラの恐怖 4/5 投稿日:2006/11/01(水) 23:51:46
彼女はオカルトサークルに所属していなかった。
だが彼女の語る夢の内容は、オカルト的な知識に符合するものが多い。
とは言うものの、例えば彼の部屋にあったその手の本を読んでいた可能性もある。
ともあれ、魔女が今回の件に関係している可能性は高い。
二人は魔女と直接対決すべく、彼女が引きこもっている山中の別送へと向かった。

が、そこはもぬけの殻であった。
だが、何かの惨劇があったことを示すように無数の血痕が部屋に残されていた。
ここで一体何があったのか。
その手がかりは魔女がつけていた日記に残されていた。
日記によると、彼女はオカルト的な何かに頭脳を捧げる研究をしていたらしい。
そして、その日記を読み進めていくと、恋人の悪夢の内容と妙に符合することが多いことが判明していく。
そして最後の部分では、術が何物かに邪魔されたこと。
危険な存在となった何かが迫りきていることが綴られていた。


128 名前:スキュラの恐怖 5/5 投稿日:2006/11/01(水) 23:52:17
偶然にしては出来すぎている符合に、気分が悪くなった二人は、別荘を出て近くの湖畔で休憩した。
と。その湖から恋人が姿を現したのだ。
ただし、恋人の姿をしているのは上半身のみで、下半身は無秩序に何本も生えた手足がまるで蛇のようについている。
その姿はまるで、ギリシャ神話に出てくるスキュラのようであった。
二人は理解した。
恋人が語った悪夢は、夢ではなく現実に起きたことなのだ。
今、主人公の隣にいる恋人は、白痴の神の力で作られたコピーであり、本物の恋人は目の前にいる化け物なのだと。
主人公のベランダにあった首無しの女性の身体は、彼女の元の身体だったのだ。
自分が現実逃避の叫びの産物であったことを理解してしまった恋人のコピーは、それに耐え切れず発狂する。
そして、既に狂気に犯され破壊衝動の塊となった本当の恋人は、彼らを殺害するために向かってきた。
もはや理性を失ってしまった彼女に、主人公はやむを得ず拳銃の弾を撃ち込む。
そのうちの一発が脳天に命中して、彼女は絶命した。

そして主人公は忌まわしい証拠を全て始末した。
魔女は行方不明-おそらくはスキュラ化した恋人に殺害されたのだろう。
恋人のコピーは治る見込みのないまま、重度の狂気を患い、精神病院に入院。
主人公自身も自分が目撃したもののもたらす狂気に怯え続ける、と言うところでEND


138 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/11/02(木) 00:26:31
>>131
山本弘の短編だったよね。
随分昔に読んだことあるけど、旨くまとまってると思う。

 

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