ホーム » スレ別 » 後味の悪い話 その60 » 老夫婦(高橋葉介)

929 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/12/14(木) 21:16:18
夢幻紳氏シリーズの話

夢幻という、不思議な能力を使う青年がいた。
彼のところにある男から依頼がくる。
「どうか私の妻になるはずだった女に夢を見せてくれ」
男の恋人は早くに両親を亡くし、それから辛く厳しい生活を送っていた。
だが彼女はそんな日々を送りながらも、けして心を曲げたりしない強く美しい人だった。
同情などではなく、いつしか男は心から彼女を愛するようになった。
そしてもうすぐ結婚するというところで、彼女は事故に遭ってしまった。
悲しい思いばかりしてきた彼女に、幸せな日々を送らせたいと思っていたのに…
彼女はもう助かりそうにない。ならば最後に、本来なら二人で送るはずだった
幸福に満ちた未来を見せてやってくれと男は言う。

夢幻は女性に夢を見せる。女性は男と結婚し、子供をもうけた。
父親似であまり器量に恵まれなかったが、健康で賢い青年に育った。
調理師になり海の向こうの国へと呼ばれ、その国の女性と結婚し、子供も生まれた。
夫妻は互いの老いた姿に今まで重ねてきた日々を思い、
もうすぐ帰国してくる息子と孫の帰りを待ちわびる。
「あなたは幸せだ、あなたの人生はとても幸せだ……」
意識のないままの女性が笑顔を浮かべた。

その話を夢幻から聞きながら、美談だねえと言う老人。
だが夢幻は否定する。女性は奇跡的に命を取り留めたのだった。
生死の狭間で見せられた夢はなによりも強烈なもので、
女性は夢幻に見せられた夢こそが現実だと思い込んでしまった。
若く美しい姿のままで、老人のように話し、老人のように腰を曲げて歩き、
まるで長年連れ添った夫婦のように男性の事を「あなた」と呼ぶ。
夢幻でもどうしようもなかった。男性は途方に暮れた。
「それからどうなったと思います?」


930 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/12/14(木) 21:17:09
ある時、荒れ果てた姿で男性は再び夢幻の前に現れた。
「彼女がもう一生あの夢の中でしか生きられないというのなら、私もその夢の中に行かせてくれ!」
夢幻はその通りにした。

夢幻は老人と共に、港まで歩いていく。
そこには、老人のような佇まいの若いカップルがいた。
二人は穏やかに笑いあいながら、海の彼方に向かって指をさす。
二人はこれから先もずっと、夢の中の思い出を語り合い、
生まれなかった息子と生まれるはずもない孫の帰国を待ちつづけるのだった。


932 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/12/14(木) 21:23:03
切ないねえ…

933 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/12/14(木) 21:36:49
辛い現実を知ることなく、一生幸せに二人で生きられるんだから
よかったじゃん?

934 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/12/14(木) 21:37:52
宗教の世界で幸せになってる人を見るのと
同じような後味の悪さを感じる……

 

夢幻紳士 (怪奇篇) (ハヤカワコミック文庫 (JA889))
夢幻紳士 (怪奇篇)
(ハヤカワコミック文庫)


後味悪い
(後味悪ければクリック)
読み込み中 ... 読み込み中 ...