銀壺・金鎖(山岸涼子)

561 名前:1/2 投稿日:2007/04/12(木) 09:34:13
山岸涼子の「金壷・銀壷」
不倫する親とその三人の子供たちの話。
Aの父と母は父A母A、Bの母は母Bという感じに表記します。
(ちょっとややこしくてすまん)

Aは画家の父Aと美女の母Aを親に持つ父似の女の子。
母Aはお嬢様の家の出で、いつも散財しまくり。
子供ながら財政を心配して(そこそこ金持ちだが)その事を注意すると
「だってお父様は贅沢をさせてやるといって私にプロポーズしたんですもの」と
行動を改めない。父Aはそんな高飛車な母Aをほほえましく見ているだけ。
Aは父Aと苗字が違う。「父Aの名前は画家としてのペンネームだから」と言われて納得していたが、
実は父Aがよその家に母A以外の妻を持っていた事を知った。
それに母Aも実は違う家に夫がいたのだった。互いに戸籍の上では他人だった。
不倫者同士の夫婦だという事実に驚きながらも、Aはまあ平凡に成長していった。

父Aは元の家庭に息子Bを置いて家を出た。
決着のつかない別れ話を何度も聞きながらBは成長して行った。
父Aは養育費を送るだけの存在となり、母Bは頑ななに離婚届に判を押さない。
母Bはストレスで人の倍も老けていき、Bが中学生になる頃には白髪まみれの老婆のようだった。
ある日、母Bが泣きながらこっそりと雑誌を切り刻んでいるのを見かける。
気になってBが本屋でその雑誌を読んでみると、そこには人気の画家として紹介される、
父Aとその現在の事実上の家族たちの姿が。Bには見せない笑顔の父Aと、見知らぬその妻と子。
それはBの存在も、母Bの存在も完全に抹消された世界だった。
やがてBは高校を卒業し、もう子が一人前になったからいいと、
母Bは離婚届にやっと判を押し、やがて急逝した。

母Aは元の家庭に娘Cを置いて家を出た。
いつものように家を出て、それきりCは母と会う事がなかった。
Cは母Aにあまりにも似た美しい少女で、父Cはその姿を見る度に母Aを思い出してしまうので、
出きるかぎりCを避け、Cは母に捨てられた上に父にも避けられるさみしい日々を送る。


562 名前:2/2 投稿日:2007/04/12(木) 09:36:22
おまけに祖母は、母Aと似すぎているCを露骨に嫌う。
首をかしげればしなをつくったと言われ、化粧をせずとも真っ赤な唇なので男を誘っていると叩かれた。
「夫を捨てて他の男に走った母を持つ娘」という意識を植え付けられ、
Cは自分の美しさを憎み、他者が全て自分の容姿しか見てないように思われ、
一人きりの不毛な青春期をすごす事になった。
大学時代に一度だけ恋をしたが、そんな育ちからくる恐怖心で土壇場で逃げてしまった。

父Aが死んだ一年後の同じ日に母Aも死んだ。死に方にすら縁を感じるようだった。
葬式に集まった既に30代に入り大人になっているABC
Aは父A似でふくよかで美人ではないがいかにも幸せそうなおばちゃん。
Bは母Bと似たどこか幸薄そうな渋いイケメン。
Cはまだ20代前半にしか見えないような母A似のものすごい美女となっている。
過去の事などなかったかのように世間話をするAとBを見ながらCは悩んでいた。
Cは大学時代のあの彼氏と再会し、もう既に家庭のある彼と愛し合ってしまった。
彼が自分を連れて逃げてくれないだろうか、でもそれは母と同じ立場になる事だと苦悩していた。

Aは父Aと母Aの行動を非難しつつも、二人の間の愛だけはうらやましかったと話す。
母Aは散財がすごいしツンツンしてたが、なんだかんだいって父Aを一心に愛していたと。
「母Aは愚かな人だけど、でも同じように全てを捨てて愚かでいてくれる父Aがいたからこそ、愚かでいられた」
Aのその言葉に、捨てられた側であるBは複雑な面持ちながらも同意する。

二人と別れた後のCはAの言葉を思い出す。そして自分が何故母と同じように踏みきれないのかを悟った。
「私には母Aと同じように、愚かでも自分だけを受け入れてくれる腕がなかった」
所詮自分の不倫相手は、父Aのように家庭を捨てきれるほどの人物ではなかったのだ。
「もしその腕があれば私は母Aよりも愚かな者になってみせたのに
 ああ、私は母Aを娘として憎悪し、女として嫉妬する!」
そして不倫相手と決別する事を決意したのだった。

そもそも両親の不倫さえなければCも不倫とかしなかっただろうし、
Bも幸せな幼少期を送れたのかなーと思うと後味が悪かった。
Aの幸せっぷりを見る限りは、父Aと母Aも完全な悪人ではないのだが……


565 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/04/12(木) 12:04:39
>561-562
最後はハッピーエンドじゃん

566 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/04/12(木) 12:29:37
いやー、Cの不幸ぶりが嫌だねー。
すごい美女と不幸の隣り合わせ。普通に育っていればどんな男でも
OKなのに。意外と美女と不幸ってよくあることだけど。

567 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/04/12(木) 12:31:06
いや実際にはそうそうネーダロ

568 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/04/12(木) 12:51:15
>>561-562
昔読んだ覚えがある。私もこれはなんかちょっと後味悪かったなあ。
Aは母の容姿に憧れながらも可愛がられて育って、平凡ながら幸せになったし、
Bは母の苦悩を間近に見てつらい少年期を過ごしたけど、大人になってからは妻子持ちで幸せだし、
Cだけが最初から最後まで不幸で救いがないのが納得いかない…ていうか可哀相だった。

569 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2007/04/12(木) 13:19:54
山岸凉子好きで、ほとんど持ってる。後味の悪い話も多いよね。
金壷・銀壷も読後感が微妙だったし、上に出てる喘息の男の子の話も・・・。
厳しすぎる父親に育てられて、最後は女の子が発狂してる「天人唐草」も悲惨だった。

会社の飲み会で「送ってやろうか?」っていうおっさんを断ったら
照れ隠しに豹変されて「ケッ!誰がお前なんかに手を出すんだよ!自惚れてんじゃねーよ!」
って怒鳴られるシーンとか、下種な人物を描くのも上手いんだよねw

 

ブルー・ロージス―自選作品集 (文春文庫―ビジュアル版)
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