COUNTRY ROAD

430 名前:1 投稿日:2008/02/26(火) 21:54:24
米英仏短編映画の一編。
タイトルは失念。確か『COUNTRY ROAD』とか『道』みたいな感じのタイトル。

主人公はバックパッカー青年。大きなリュックを背負い、気ままな一人旅を楽しんでいる。
旅の道連れはロックミュージックが収録されたウォークマンだ。
ヘッドフォンから流れる音楽に身体を揺らしながら、今日も風の吹くまま気の向くまま歩く。

森に囲まれた草原に長々と横たわる、舗装もされていないぬかるんだ細い道。
暗い冬の空が寂寥感をいやがうえにも煽る。
人通りもなく、いつまで進んでも景色に変化すらない。
気が滅入る。そろそろ車を捕まえて町まで乗せてもらおうか。
いつもの様に『町まで乗せて』と書いたスケッチブックを取り出し、
車が通りかかるのをゆっくり歩きながら待つ。

白い息を吐きながらダウンジャケットの襟に首を埋めた時、
背後に一台の小型トラックが泥を撥ねながら現われた。
全く速度を緩めず、止まってくれるどころか、まるで青年を轢き殺さんばかりの勢いで迫ってくる。
すんでのところでトラックをかわし、青年は走り去る車に罵詈雑言を叫んだ。
その直後、自分の足首が路肩の穴に嵌まり込んでいるのに気付いた。
穴は小さく、いくら引き抜こうとしてもビクともしない。
散々足掻いた挙句、彼は助けを待とうと腰を下ろした。
しばらくして、大型のトラックがやってきた。
青年は『HELP ME! PLEASE!!』と書いたスケッチブックを見せて助けを乞う。
トラックは一旦止まったものの、助手席に納まった女は彼を嘲笑い、運転手は一瞥だにしない。
そのまま走り去るトラックの排気ガスに咳き込みながら、彼はうなだれるしかなかった。


431 名前:2 投稿日:2008/02/26(火) 21:55:05
やがて陽は落ち、夜。
通りかかった車が青年に気付き、停車した。
煌煌と眩いライトの照らす中、中年の男が彼に歩み寄る。
男は辺りの様子を窺う様に周りを見渡しながら、青年に話しかけた。
「どうしたんだ?」
やっと助けてもらえる。青年は必死に経緯を語るが、男はあまり関心なさそうだ。
「動けないのか?」
「ああ、足が穴に嵌ってしまって・・・。すみませんが助けて下さい」
「独りなのか?」
「・・・? ああ、一人旅で・・・」
言葉の途中で男はいきなり青年の荷物を取り上げた。
「一体何を!?」
驚愕する彼の顔面を殴りつけ、ダウンジャケットを脱がせる。
持ち物を物色し終えた男は、興味なさげにウォークマンを地に臥した青年に向かって放り投げ、
他の荷物を車に積み込むとそのまま走り去った。

あまりの出来事にショックを受け、殴られた痛みと寒さに震える青年。
己が身を抱き、凍えながらも唯一残ったウォークマンから流れる曲で気を紛らわせる。
やがて陽が昇り、辺りが明るくなってきた。
相変わらずの曇天だが、いくらか寒さもマシになった。
どこかの農家から迷い込んで来たのだろうか、一頭の牝牛が彼の傍へと寄ってくる。
青年は懸命に牝牛の乳を搾り、噴き出すミルクを口で受けた。
殆ど口には入らなかったが、それでも人心地ついた気がする。
その時、何かが唸る様な微かな音が空中を旋回しているのに気付いた。
それは一機のラジコン飛行機だった。
操縦者の姿は見えず、飛行機は不安定に飛び回っている。
やがて、飛行機が彼に向かって急降下し始めた。
あっと思う間もなく、飛行機の翼が彼の頭を直撃する。
衝撃に弾かれ倒れる青年を余所に飛行機は再び上昇し、そのまま飛び去った。

殴られた時の鼻血は止まっていたが、切れた額から流れる血が新たに青年の顔を彩る。
彼に残された行動は、ただ嗚咽を洩らす事だけだった。


432 名前:3 投稿日:2008/02/26(火) 21:55:41
ただただ惨めさに震える青年。
やがて道の向こうから初老の黒人紳士がやってきた。
彼は青年の姿を見つけ、傍に寄る。
また殴られるのか、と身を竦める青年に紳士は優しく声をかけ、タバコを取り出して吸わせた。
青年は今度こそ本当に救いの手が差し伸べられた事に歓喜し、
泣きながら紳士に経緯を話そうとするが、嗚咽で声にもならない。
紳士は微笑みながら優しく彼を抱きしめ、「もう大丈夫だ」と言い聞かせる。
その時だった。
青年の脚がズルッ、と穴に引き込まれた。
驚愕する青年と紳士。
途端に青年は大声で喚き始めた。
「何かが、何かが脚を咬んでる!」
激痛に絶叫する青年。
脚は既に大腿まで埋まっていた。
只事ではないと紳士も焦燥の色を浮かべる。
そこに通りかかる一台の小型トラック。
紳士は両手を振りながら車を止めようと道に飛び出した。
次の刹那、紳士の身体は車に撥ね飛ばされ、道を挟んで青年の向かいに落下した。
トラックは全く速度を緩めないまま通り過ぎていく。

再び静寂が降りる小道。
道を挟んで紳士の死体と、激痛に気絶した青年だけが存在している。
再び青年が目覚めた時、終末は訪れた。
『穴の中のなにか』が本格的に彼の脚を食み始めたのだ。
恐怖と激痛に青年の表情は最早虚ろだった。
ゆっくり、ゆっくりと青年の身体は穴に引き込まれていく・・・。


433 名前:おわり 投稿日:2008/02/26(火) 21:56:11
道の向こうからブラブラと身なりの汚い老人がやってくる。
擦り切れた革靴にボロ布の様な服。
伸び放題の髭に垢こけた皮膚。
老人は黒人紳士の死体に気付くが、フンと鼻を鳴らしただけだった。
その対面に、地面から生えた『脚』が見えた。
天を向いた靴底に自らの足を当て、サイズが合うと見た老人は
『脚』からスニーカーを脱がせると、ボロ革靴を投げ捨てた。

片方だけのスニーカーを履いた老人は、ゆっくりと『穴』に沈んでゆく『脚』を眺めていた。
やがて『脚』が完全に地に没した頃、老人は夜露に濡れたウォークマンに気付いた。
それを拾い上げ、もうこの場は用済みとばかりに歩き出す老人。
ヘッドフォンを耳に当て、流れるロックに顔をしかめるとカセットを抜き出して放り捨てた。
代わりに懐から一本のカセットテープを取り出し、セットする。
陽気なリズムのオールディーズが流れ始めた。
老人は微笑みながら、鼻歌交じりに歩んでいく・・・。

この老人が聴いているのであろう、流れ始めた陽気なオールディーズが
そのままエンディング曲になっているのが実に流麗で素敵な終わり方。
バカっぽい上に他力本願なヒッチハイカーである主人公が受ける悲劇は取り立てて後味悪くない。
が、最後に出てきた黒人紳士が本当に優しげで、それなのにあっさり殺されるわ、
レゲエじじいにも鼻で笑われるわで『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を
彷彿とさせる後味悪さが残りましたとさ。
あと最初に出てくる小型トラックと、ラストの小型トラックが同じなところも微妙に気持ち悪い。
ついでに『穴の中の何か』にも一切伏線や解説が無い辺りも、
イマジネイティヴを掻き立てると同時にモヤっと感を残すのでありました。


434 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/02/26(火) 22:21:43
>>430
乙。

作者が病気としか思えんなw


435 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/02/26(火) 23:26:56
何となくランズデールっぽい
原作じゃないだろうけど

436 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2008/02/26(火) 23:29:04
>>430
いくらバカなヒッチハイカーでも境遇ひどすぎ(´・ω・)
でもその映画見てみたくなった。
久しぶりに面白く読めたよ。ありがと~