正月十一日、鏡殺し(歌野晶午)

933 名前:1/5 :2008/10/21(火) 21:05:55
歌野晶午の小説『正月十一日、鏡殺し』

主人公は主婦。夫と小学生の娘、姑の4人暮らし。
姑は活動的な人で、薄くなってきた髪を気にして、
かつらをいくつも作ったり老人会だお茶だカラオケだと飛び回っていたが
おとなしい性格の主人公ともうまくやっていた。

だが嫁姑の良好な関係は、春先の夫の事故死によって終了する。
夫の死からなかなか立ち直れない主人公は、
四十九日が明けていっそう活動的になった姑をみてふと思った。
「どうして私は姑の面倒をみているんだろう?
 夫がいない今、姑は赤の他人でしかないのに」
そう思うようになると、姑の言動にどんどん嫌悪感が募るようになっていった。

亡くなった夫にはアメリカで暮らす兄(独身)がいるのだから、
他人の自分に厄介になるより、実の息子と暮らすのはどうかと勧めると
「あなたこの年でアメリカへ行けっていうの!
 英語なんて分からないしお茶やお花もできないじゃない!
 あたしは子どもを2人育てあげて、夫や舅姑の世話をして看取ったんだから
 そろそろ隠居したっていいじゃないの!あたしに死ねっていうのね!」と
姑はまくしたてた。
それをぼんやり聞いていた主人公は、突然姑に湯飲みのお茶を掛けて罵声をあびせる。
その行動に自分でも驚きながら、すっきりした気分になる主人公。
その日を境にたびたび切れて、
姑が老人会の集まりに行くだけで皮肉や嫌味を言うようになってしまう。


934 名前:2/5 :2008/10/21(火) 21:07:10
年末。夫の保険金で生活には困っていなかったが、
このままではお互いにいけない、外へ出て気分を変えようと主人公はパートを始める。
しかしそれは逆効果でしかなかった。
重労働で疲れて帰ってきても、
姑は「あなたの味付けがあるんでしょ」「今の機械は難しくて使えないわ」と
家事を一切手伝ってくれず、相変わらず毎日外で遊んでいる。

一方、小学生の娘は母と祖母の仲が悪いことに心を痛めていた。
疲れている母親は、もうすぐ迎えるお正月の準備も忘れている。
亡くなった父親が以前、「鏡餅は神様にお供えする大切なもの」と言っていたのを思い出して
娘はお小遣いをはたき、大きな鏡餅と小さな鏡餅をひとつずつ買った。
小さな鏡餅は玄関に。
大きな鏡餅は祖母の部屋において、二人が仲良くなりますようにと願った。

その日、主人公がパートを終えて帰宅すると台所からいいにおいがする。
娘が買った玄関の鏡餅に気づき、
「忙しくてお正月の準備をするのを忘れていた、姑が用意してくれたんだ」と思う。
姑は台所でおせちを作っていた。
「お義母さん、ありがとうございます」と主人公が久しぶりに感謝すると
「これはアメリカの長男に食べてもらうんだから、つまみ食いしちゃだめよ」
その言葉でまた切れた主人公は、娘の泣き声で我に返る。
床にはめちゃくちゃになったおせちが散乱していた。


936 名前:3/5 :2008/10/21(火) 21:08:09
年明け。姑の部屋を掃除していた主人公は、立派な鏡餅を見つける。
それは娘が買った大きな鏡餅だったが、姑が買ったものだと思っている主人公は
「家にはしょぼい鏡餅しか置かないくせに、
 自分の部屋にはこんな立派なものを!」と腹を立てて、
餅の上に載っていた橙をつぶしてしまう。

その後、祖母の部屋に入った娘は、橙がなくなっていることに気づいた。
「橙には家族が長生きしますようにという願い事がこめられている」と
お父さんは言っていたのに…と、娘は途方にくれた。

1月11日、鏡開きの日。
主人公は朝から小豆を煮ていた。
鏡餅を割ってぜんざいにして食べるつもりだったのに、
娘は友人の家に遊びに行くのでいらないといって出かけた。
姑は部屋で寝ている。
主人公がいい顔をしないので、姑は最近はあまり外出しないが
家にいても何をするわけでもなく寝てばかりだ。

そこへ、夫の兄から国際電話がかかってくる。
きみは夫を亡くして相当まいっているようなので
一度カウンセリングをうけてみないか、というものだった。
きっと姑が「嫁にいびられている」と泣きついたんだろう、と確信した主人公は
電話を叩き切って姑の部屋へ向かった。


937 名前:4/5 :2008/10/21(火) 21:08:51
姑の部屋のドアを開けると、姑が背を向けて布団に横になっていた。
わざとらしい寝息。
電話のやりとりを聞いて、自分に都合が悪そうなので
寝た振りをしているんだ、と悟った主人公はまた腹を立てる。
何度声を掛けても反応がなく、ついに切れた主人公は
持っていた鏡餅で姑を殴打してしまう。
ふと気づくと、あのわざとらしい寝息はもう聞こえなかった。
鏡餅も粉々に砕けていた。

リビングでぼんやりする主人公。砕けた鏡餅は食べてしまった。
不思議と罪悪感はない。
突然、がたんという物音がした。
娘が帰ってきたのか?いや、玄関のドアが開く音はしなかった。
そこへ姑が四つんばいになって、よろよろとリビングに入ってきた。
口からよだれを垂らし、ああ、ううとうめいている。
さっき、主人公は姑の絶命を確認しなかった。
死んだと思ったが、息を吹き返してこちらに来たのか。
主人公は悲鳴を上げて、残った鏡餅で今度こそ確実に姑を殺した。

我に返った主人公は、娘の今後を思う。
母が祖母を殺し、父はすでに無く、今後娘はどうなるのか。
娘のためには自分がつかまるわけにいかないと、
家事中の不慮の事故で死んだように見せかけて通報した。


939 名前:5/5 :2008/10/21(火) 21:12:44
事故死として扱われるかと期待していたが、警察はもちろん殺人と断定。
主人公に姑の部屋を見せた。
そこには先ほど姑が横になっていた布団。
布団の中には姑のかつらをつけた娘が絶命していた。

姑は外出したいが、そのまま行くと主人公がいい顔をしない。
祖母の提案で、娘は姑に小遣いをもらう代わりに、
ときどきかつらをつけて布団に横になり、姑の外出中は身代わりとして過ごしていた。
今日も一度玄関から出て、窓から姑の部屋に入り、
姑と入れ替わって寝たふりをしていた。

帰ってきた姑は窓から入り、娘の死体を見つけて
動転して腰を抜かし、だから這ってリビングに来たんだろう。
では最初に姑の部屋で自分が手に掛けたのは…と気づき、主人公は発狂した。

——————

殺し損ねたと思ってもう一度殺したら、
実はそれは自分の大切な人だったというのはよくあるパターンだけど
やっぱり後味悪い。
母と祖母の板ばさみになって、殺された娘カワイソス・゚・(つД`)・゚・ 

 

新装版 正月十一日、鏡殺し (講談社文庫)
新装版 正月十一日、鏡殺し (講談社文庫)