左門次走る(笹沢左保)

371 名前:左門次走る1 :2008/10/29(水) 22:37:57
ドラマにもなった、笹沢左保の時代小説

【八丁堀お助け同心秘聞】
基本的なストーリー
高積見廻り役と云う閑職(商家が荷を高く積みすぎないように見廻る役)にある尾形左門次が、
事実無根の罪に問われている人を、捜査時の見落としを発見する等して助ける。
その中の後味が悪いと言うか、もやもやする一遍。

【左門次走る】
岡っ引きの喜三郎が、自宅で白昼若者に斬り殺される。
若者は畳表問屋の奉公人、小太郎十六歳。
小太郎は喜三郎を「父の仇」と言う。
事の起こりは八年前。
小太郎の父
有川十兵衛は主君が亡くなった悲しみから自暴自棄になり、
泥酔をして町中で遊び人三人と喧嘩になる。
そして、抜刀して一人に切りつける。
与力が現れて、喜三郎とその手下に十兵衛の捕獲を命じる。
喜三郎は、十兵衛を止めるために十手で肩や腕を打ちつけた。
武士にとって十手で殴られることは、このうえない恥辱である。
十兵衛はその場で切腹した。
この事件で、有川家は断絶となる。
小太郎は元服前だったため、浪人の扱いにもならず町人となった。
他家に婿入りしていた十兵衛の弟弥五郎も、離婚して浪人となる。
仇討ちは武士だけに許される。
それも、親、兄、師を無法に殺害した悪人を討つ時でなければ成り立たない。
今回の件は、町人の小太郎が、喜三郎を勝手に敵と思って意趣返しをしたに過ぎない。
小太郎は、生前の十兵衛に世話になった水油問屋の武蔵屋太兵衛に匿われていた。
太兵衛は、左門次に小太郎を助けて欲しいと頼む。
小太郎は、自分のやったことが仇討ちにならないことは判っていた。
しかし、母が死のきわに八年前の事件のことを話し、
喜三郎を父の仇として討てと言ったために凶行におよんだらしい。
さらに小太郎は、喜三郎の証言に偽りがあったと言う。
十兵衛は下戸で、酒は一滴も飲めない。
そんな父が泥酔出来るはずがないと。
しかし太兵衛は、その件に関しては首を振る。
左門次は、小太郎との会話の中でいくつか疑問に思うことがあった。
小太郎が四歳(かぞえ歳なので今の三歳)のころと五歳のころに立て続けに大地震が起こっているが、
小太郎はそれを覚えてないと言うのだ。


372 名前:左門次走る2 :2008/10/29(水) 22:38:50
しかし、そのことが小太郎の減刑になる訳でもない。
左門次は小太郎に自首を勧め、小太郎もそれに同意した。
事件は解決したと思いながらも左門次は、小太郎が地震のことを覚えていないことが気になっていた。
太兵衛に話を聞くと、十兵衛はかつて毎日晩酌をしていたと言う。
しかしある夜、十兵衛が熱燗を飲もうとして、誤って小太郎に火傷をおわせてしまい、
以来十兵衛は酒を絶っているとのことだった。
普通、そんな事故があれば、小太郎が父が飲酒する姿を見ていなくても
「父は酒を飲めない」とは思わないはずだ。
地震のことを覚えていないのもおかしい。
真実を知るには、今は熊谷で博徒の用心棒をしている弥五郎に会わなければならない。
ついに左門次は江戸と熊谷の間往復(約120km)を一晩で行なって、弥五郎から真実を聞き出してくる。
十四年前、十兵衛の妻千加の祖母が病に倒れ、死ぬ前に一度千加に会いたいとの手紙が届いた。
千加の実家は出羽の新庄。
小太郎を連れて新庄に着いた千加は、妊娠していることに気付いた。
翌年、千加の祖母が亡くなる。
そして、小太郎も同じ日に千加の弟貞五郎の乗る馬に蹴り殺されていた。
千加の実家では、
同じ日に二つの不幸が重なれば、世間の評判が悪い。
貞五郎の将来に汚点をつけてはならない。
などの理由から、千加が懐妊中の子が男子ならその子を小太郎とし、
その偽りが通用する年齢に達するまで江戸には帰さない。
と決めた。
今の小太郎は、二人目の小太郎で十四歳だったのだ。
幕府法は、十六歳を成人としている。
小太郎は十四歳。
罪ははるかに軽くなる。
しかも父の仇討ちを遂げたつもりで自首していた。
それは殊勝にして神妙であると云うことで、無罪放免となった。

小太郎が助かったので、お助け同心としては良いのかもしれない。
しかし、ただ職務を果たしただけなのに、勘違いの逆恨みで殺された喜三郎がかわいそう。

 

お助け同心巡廻簿
お助け同心巡廻簿