死刑囚042(小手川ゆあ)
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280 名前:1/3 :2009/02/11(水) 02:45:46
- 死刑囚042
日本が舞台だが近未来らしく、設定はかなりファンタジー主人公の田島こと死刑囚042号は、7人を殺して21歳の時に逮捕された。
彼が獄中で30歳になった時、死刑制度を廃止しようとの動きが外では活発になっていた。
そして死刑に代替するための制度が挙げられ、その施行のための実験台として042は選ばれた。新たに施行されようとしている法案は、死刑に相当する罪を犯した囚人の脳に爆弾を埋め込み、
殺人などの犯罪を起こそうとするほどに興奮が高まったら自動的に爆発するようにして、
生涯を通して公共施設で働かせるというトンデモなもの。
その実験の責任者兼042のカウンセラーに選ばれた椎名博士は、
世論が許すはずがない、施行は不可能だと、
頓挫するのを前提にした上で、その中で自分の手腕だけは買ってもらえればそれで良いと考えていた。実験は公立高校で行われ、042は用務員として花壇の世話や掃除に励むことになった。
生徒や近隣住民から不安を訴えられたり、042や実験スタッフを狙ったテロ事件が起こったりと、
色々と困難はあったものの、はじめのころこそ無感情な様子だった042は少しずつ情に目覚めていき、
042を気にかけ実験を支援してくれるような人も出始め、
スタッフの広報活動もあって少しずつ周囲の理解を得ることができていった。そうなったのは、042がかなり変わった経緯で死刑囚になったことも理由だった。
042の8歳から14歳までの経歴は空白になっていた。
8歳の時に行方不明になり、14歳の時に泥だらけの姿で電車内で発見されたのだった。
誘拐と思われたが042は何も語らなかった。
そんな042を抱えた家庭は荒れ、父親は借金をつくった末に失踪してしまった。
042は残された母を守るため、ヤクザに言われるまま借金を返すための賭け試合に出て、
同じように借金を抱えている対戦相手を七人殺したのだった。殺さなければ042が殺されていた。
生い立ちの悲惨さや、殺害状況の特異性から、042は非常に同情を買いやすい死刑囚だった。
そのために、椎名は実験を容易に進めるには周囲の理解を得ることが大事だからと、あえて042を選んでいた。
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281 名前:2/3 :2009/02/11(水) 02:48:06
- だが、042は変わったケースであり、死刑囚には私利私欲のみで罪を犯したものがいくらでもいた。
そういう者にも適用できなければ法案が通ることはないと、2人目の実験体には快楽犯の023号が選ばれた。
023は子供の前で母親を犯した後に、親子を殺害して金を奪った上に放火、という事件を三件起こしていた。
023のカウンセラーは、023の犯罪は強烈な女性コンプレックスへの裏返しであり、
その原因となった心傷経験も明確なものであるから更生はできるはずだと楽観的だったが、
023が爆弾埋め込み手術の前に暴れ出し、スタッフを襲ったために023の実験は中止となった。
その事件の際、023は椎名をも襲おうとしたが、それを042がかばい、事なきを得た。
その姿に感動した023号のカウンセラーは自分のカウンセリングのミスを認め、
実験自体に問題があるわけではないと述べたため、042号の実験まで中止になることはなかった。
椎名もまた、自分を助ける042の姿に感動し、042は更生に向かっているのだと、
そんな042に生き続けてほしい、法案が無事に通ってほしいと願うようになった。学校業務を適切にこなせるようになった042号は、点字ボランティアの勉強をはじめたり、
被害者遺族と和解したり、逮捕時に隣の独房で病死した囚人の冤罪を晴らしたりする。
042は感情が豊かになり人間らしくなっていったが、
そのことによって逆に罪の意識に苛まれたり、
実験スタッフらとは別人種であることを自覚して落ち込んだりした。次の実験体に選ばれたのは、年齢一桁の幼女数人を犯し殺した053号。
彼は023のように暴れたりすることはなく、042のいる高校に配属されてきた。
053がある程度作業になじんだら、042はまた別の施設に実験の場を移すことになっていた。053への生徒の拒絶反応は042とは比べものにならず、ロリコン変態と罵倒され放題だった。
042のことを気にかけてくれる生徒たちも、053がいる時は恐れて近寄ってこないようになった。
053は見かけは大人しく、話しかけてもあまり応じないものの、命じられた作業は真面目にこなしていた。
だが、一度言ったことは忠実にこなすのだが、花壇の手入れをする時に、枯れている花以外もちぎったり、
玄関の泥掃除をする時に廊下にまで水をかけたりと、一々説明しないでいると、おかしなことばかりした。
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282 名前:3/3 :2009/02/11(水) 02:50:28
- 053への対応にかなり負荷を感じている042に椎名は言う。
053がずれた感覚の持ち主であるのは生来のものらしく、そのために053はあまり親からも愛されなかった。
そのために、ずれた感覚を矯正することもできなかった。
だから大人になった今でも感覚はそのままで、053は幼児殺しすらやってはいけないことだとわかっていなかった。
本当に子供に接するように1から教えてやれと椎名は言う。
引き継ぎも業務のうちであるから、しっかりこなせなければ実験に支障が出る。
地道に053に仕事を教え続け、042は学校を去り老人ホームの職員として働くようになった。和解した被害者遺族の老人の出版した手記を読んだからと、施設の老人らは042に好意的だった。
053は問題を起こさず学校で業務を続けていると聞くが、相変わらず恐れられ孤立しているという。
その053が突然死亡した。血圧などは平均値だったにも関わらず、爆弾が作動したのだった。
調べた結果、爆弾から欠陥が見つかった。このことにより、実験は中止されることとなった。
椎名は泣き、爆弾の開発を担当した業者を恨み、042がまた死刑囚に戻ることを悲しんだ。
以前冤罪事件を通して知り合った弁護士に頼めばあるいは、と思い立つが042はそれを制した。042は行方不明になっていた時期のことを語る。042はやはり、誘拐されていたのだった。
誘拐犯は屈強な大男で、頭がおかしかった。監禁された山奥の小屋には、他にも子供が何人もいた。
男は子供同士で残酷なことをするよう強制し、何年間もの間それは続いた。
子供が減ればまた男はどこかから次の子供を連れてきた。
小屋のなかの子供が042だけになった時、042は男を殺して逃げだした。
今では小屋の場所も思い出せないというが、042は帰ってきた時には既に人殺しだった。
既にその時心が冷え切っていたから賭け試合でもなにも感じなかったという。
でも今はそうではいられないと042は言う。8歳だった042が傷つけられるのを止められず、
今の042が死んでいくのも止められないことを椎名は嘆いた。
それからしばらくして042の死刑は執行された。