殺戮にいたる病(我孫子武丸)

391 名前:1/3 :2010/09/20(月) 21:22:31
ミステリ小説『殺戮にいたる病』

注:
この小説はただ一つのトリックが全てというタイプのミステリなので、
そのネタを知ってしまうと人によっては面白さが激減します。
(ネタバレスレなので当然といえば当然なのですが、念のため記載しました)

東京で連続猟奇殺人事件が起きる。
被害者は乳房や性器を切り取られ、持ち去られていた。
この事件について、以下3人の視点で内実が語られる。

・犯人である蒲生稔(冒頭で犯人は蒲生稔だと明記されている)
 自覚なく母性を求めており、その象徴である乳房や性器を持ち帰って自慰の道具としていた。
 同時に、相手を殺害することで歪んだ征服欲を満たしていた。

・退役刑事である樋口。事件の被害者の関係者だったことから、
 被害者の妹と協力して犯人を追跡する。この妹が姉と似ていたこと
 (=蒲生稔の好みに合っていた)ことが事件解決のきっかけとなる。

・蒲生家の主婦である蒲生雅子。平穏な家庭をひたすらに望む主婦。
 だがその思いのあまりに息子へ過干渉するきらいがあり、
 ある日掃除と称して息子の部屋のごみ箱を漁った結果、
 血まみれのビニール袋を発見したことで彼女の苦悩が始まる。


392 名前:2/3 :2010/09/20(月) 21:24:44
後味が悪いのは、雅子のパート。
血まみれの袋を発見した雅子だったが、驚きのあまり、袋の中身を改める前に部屋から逃げ出してしまった。
そのため当初は事件と息子を結びつけて考えてはいなかった(正確には、嫌な予感はあったが考えないようにしていた)
しかし事件発生時は息子が必ず外出していたことなどから疑わざるを得なくなり、とうとう尾行を始める。
もうこの時点で彼女は家庭崩壊のストレスで狂いかけていて、尾行する場面も、
おかしな格好(本人的には息子に自分とばれないための格好)をした中年女性が、
おろおろと戸惑いながらも必死に息子を追う感じ。ひたすら哀れっぽい。
で、以前息子が被害者女性をナンパしていたらしきバーの前まで行くんだけど、
そこには既にパトカーが溢れ返っていて、また息子が殺人を犯してしまった、
そしてとうとう捕まってしまったと絶望した彼女は、前後不覚のまま帰途につく。

で、実はここまでが全て叙述トリック。
雅子は息子が犯人だと思っていた。読者には犯人は蒲生稔だと告げられている。
しかし蒲生稔とは実は息子のことではなかった。息子の名前は信介。
蒲生稔は雅子の夫。信介の父親だった。


393 名前:3/3 :2010/09/20(月) 21:25:56
話は雅子がバーにたどり着く少し前に遡る。
父・蒲生稔はバーから女性を連れ出し、ホテルで殺害に及ぼうとしていた。
そこに息子・信介が現れる。彼はずっと父親を疑い、追跡していた。
(それを雅子は、息子が犯行のために外出していたと誤解した)
しかし自首を促す息子を、激昂した稔は殺害し、逃走。
時をほぼ同じくして自身が求めていたものが母性であったことを悟った彼は、
帰宅し、自身の母親を殺害、屍姦を始める。
そこに、前述の経緯でふらふらの雅子が帰宅してくると──
目の前ではなぜか自分の夫が義母の死体に腰を振っている。雅子、発狂。
で、そのあとにようやく刑事がやってきて、エンド。

というわけで、父親と息子を混同させることがこの話のトリックであり、
ミステリである所以なんだけど、同じ誤解を作内人物である雅子もしていたわけです。
そこが上手い点なのは理解出来るんだけど、読者は「ああ、そういうことか」で済む一方、
雅子の視点に立ってみると(全部を理解してないとはいえ)あまりに悲惨。
叙述トリックのために二重に突き落とされた雅子が本当に哀れ。後味悪すぎな話でした。


397 名前:本当にあった怖い名無し :2010/09/20(月) 21:46:16
マジでやられたスレでも評価高いですよね

398 名前:本当にあった怖い名無し :2010/09/20(月) 21:59:57
これ何度か書き込もうとしたけど上手くまとまんなくて挫折した。
叙述トリックは分かりやすくまとめるの難しいよね。

399 名前:391 :2010/09/20(月) 22:17:43
申し訳ない、わかりにくかったかもしれません…。
事件部分だけを抜き出すと、
・妻子持ちである蒲生稔がレイプ殺人を繰り返す。
・でもその殺人の動機は自分でもわかっていなかった。
・しかしある時、自分は「母性を求めていた」のだと気づく。
・で、実際に自身の母親を殺して犯す。
という流れです。
で、この蒲生稔の犯行を止めようと息子が密かに尾行していたのだけれど、
尾行ってのは傍から見れば怪しい行動だから、妻が「息子が犯人では」と誤解してしまったのです。
つまり「夫が殺人←息子が尾行←妻が尾行」と尾行が連鎖した構図になっていたのです。

402 名前:本当にあった怖い名無し :2010/09/20(月) 22:35:16
これ読みました。難しいのにまとめ乙
最後の雅子の「あなた、お義母さんになんてことを!」で
全部氷解するんだよね

403 名前:本当にあった怖い名無し :2010/09/20(月) 23:41:55
被害者妹を殺そうとした稔を息子が止め、逆襲を受けて刺される。
被害者妹と組んでいた樋口は妹が連れ去られた事に気付き、老体に鞭打って駆ける。
行き先であるホテル前にパトカーが群れているのを見、『また遅れた(姉と同じで救えなかった)』
と思うが、それが息子が殺害された事件と知る(この時、雅子に「何があったんですか?」と問われる)。
被害者妹は無事で、安堵しながら樋口は関係者であろう雅子と共にパトカーに乗る。
様子がおかしいと家の様子に踏み込んだ樋口(&後輩刑事)の目の前で屍姦行為が・・・。
そこに背後から雅子の「あなた、お義母さんになんてことを!」という台詞がかぶる。

お願い、ひぐっつぁんをディスらないであげて。

 

殺戮にいたる病 (講談社文庫)
殺戮にいたる病 (講談社文庫)