Ωの聖餐(平山夢明)

768 名前:1 :2010/10/04(月) 13:16:57
タイトル失念小説。ややウロ。ややグロ。

主人公は数学者崩れのチンピラ。
自身の起こした交通事故がきっかけで身を持ち崩し、今では覚醒剤の運び屋となっていた。
しかしそこでもヘマをやらかし、命を助ける代わりにある仕事を担当させられてしまう。
その仕事とはオメガと呼ばれる男の身の回りの世話だった。

オメガは象のような外見の巨大な男だった。厳重に管理された地下室に住んでいる。
彼は以前はサーカス団で大食いを芸とする男であったが、主人公の所属する暴力団のボスに
娘を人質に取られ、この地下室に監禁されているのである。
そこでの彼の仕事とは、暴力団から送られてくる人間の死体を食うこと。
それには証拠隠滅の目的もあったが、単にボスが悪趣味なだけというのが実情のようだった。

オメガは人を食う。1体食らい尽くすのに3日とかからない。
それゆえ極度の肥満である。糖尿病に罹患しており視力もほぼなく歩くことも出来ない。
頻繁に吐瀉物を撒き散らし、座ったまま小大便を垂れ流す。吐く息は腐臭がする。
主人公はそんなオメガの世話をする。主な仕事は死体の解体と調理だ。
オメガがレアでと望んだ一部の部位を取り分け、内臓をシチューなどにして煮込む。
眼球や脳はプディングにし、四肢はスペアリブとする。
慣れれば大して時間のかからない作業であったが、嫌悪感は拭い切れない。

さてオメガだが、彼は風貌に似合わずインテリである。
衒学的表現を好み、普段は10万ページを越えるという露語辞典を読みふけっている。
「それでは、私のオムレツを始末してくれるだろうか」
これは彼が主人公へ指示した最初の依頼である。オムレツとは彼の吐瀉物のことだ。
指を1本立てて彼は言ったものである。「あまり汚らしい表現は使うものではないだろう?」


769 名前:2 :2010/10/04(月) 13:18:24
しかし彼は始めから明晰な頭脳を持っていたわけではない。
オメガ自身が言うには、人を食うようになって知能の閃きを感じるようになったのだという。
他人の脳を食うことで、その知恵を我が物とする。なんとも荒唐無稽な話だった。

ある日、主人公は暴力団配下の闇医師と共に、オメガの足を切断する作業を行った。
糖尿病により併発した膿が足を覆い、全身に広がろうとしていたのだ。
その前に、足を落とす。麻酔が効くような相手ではない。押さえつけて強引に鋸で切る。
オメガが獣のような咆哮を上げる。血飛沫が舞う。露出した骨が嫌に白い。それを掴んで固定。
オメガが失神したのを契機に、主人公は一気に作業を完了させる。

目覚めたオメガは、汗まみれの顔で主人公にある依頼を持ちかけてきた。
1.養蜂家(特定の誰、というわけではない)の死体を自分に食わせること。
2.娘の現在の安否を調べること。
この条件を満たしてくれたら、何か一つ、数学の大命題を、自分が代わりに証明してみせる。
君がその証明内容を自分の功績として発表すれば、こんな生活からは縁を切れるはずだ。

数学界に返り咲きたい主人公は、この提案を呑んだ。
まず、娘はとうに解放されて海外で暮らしていることが判明。
それを伝えてから、主人公のライバルだった数学者の脳をオメガに食わせる。
(ライバルはある大命題の研究家。彼の知識を得ることでオメガの証明の助けとするため)
その後オメガは、メモに命題の証明式を書きつけた。
そしてメモと引き換えに養蜂家の死体を差し出すよう主人公に求める。それに従う主人公。
だが養蜂家の死体を食したオメガは、その直後に苦しみだした。焦る主人公に彼は語る。


770 名前:3 :2010/10/04(月) 13:20:09
自分の脳は、数多くの他人の知能を取り込んだことで平衡を失いかけている。
そこに母親との記憶を注ぎ込んだら、極度の刺激でバランスが崩れ、死に至るだろう。
そして私の母親の記憶とは、ハチミツの匂いと共にあったのだ。
母の作ってくれた紅茶やパイ、あの金色に輝くサフラン畑──。
この養蜂家の記憶は私の記憶とリンクするものではないが、起爆剤にはなったようだ。
今、私の眼前には幼い頃の光景が見えている。今、私は幼い頃の自分となっているのだ。

娘の安全を確かめたオメガは、そうして自殺を遂げた。
主人公は呆然としながらもメモに視線を落とす。
愕然とした。これは望んでいた命題に対する証明ではない!
オメガが解いたのも、数学の大命題の一つではあった。
しかしそれは、主人公が望んでいた命題が証明された上で成り立つ内容だったのだ。
極めて画期的な内容ではあるが、この証明単体では意味をなさないのである。

頭を抱える主人公。そこにオメガ死亡の報を聞き怒り狂ったボスの配下がやってくる。
このままでは殺される。追い詰められた主人公は、ある提案をした。

そしてラストシーン。
主人公はオメガの後を継いでいた。
正しくはオメガの脳を食い、彼の知恵を得た上で、死体を食う役目を負ったのだ。
彼の脳内にはいまや望んでいた大命題の証明式も確立されていた。
それを伝え聞かせる相手もいない地下室で、彼は酷い腐臭のする息をゆっくりと吐き出した。

以上。書いてから思ったけど、これは後味が悪いというより単に悪趣味というべきか…?
突っ込みどころも多いしなあ。


772 名前:本当にあった怖い名無し :2010/10/04(月) 13:40:54
乙。後味はともかく普通に面白かったよ。
本を読む程度の視力は残ってたってことかな。

773 名前:本当にあった怖い名無し :2010/10/04(月) 13:46:37
平山夢明の「独白するユニバーサル横メルカトル」
Ωの聖餐だな

 

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)
独白するユニバーサル横メルカトル
(光文社文庫)