仔羊たちの聖夜(西澤保彦)
-
324 名前:本当にあった怖い名無し :2011/10/23(日) 11:36:36.68
- 推理小説より
とあるマンションでは二件の飛び降り自殺事件があった。
一件目の自殺者は少年だった。それはクリスマスイブの事だった。
有名進学高に受かったばかりで幸せ絶頂だったはずの彼の死体の横には、
クリスマス用に包装された包みがあり、中には何故かエロ本が入っていた。
少年の両親は共働きで、ほとんど祖母に育てられたおばあちゃん子だったという。
家族は嘆き、祖母は一気に痴呆が進み、少年を探しては徘徊するようになった。
少年を探すという事は少年は生きていると認識しているはずだが、
一方で、少年の誕生日やクリスマスになると、
プレゼントと称して様々な品をマンション屋上から投げ込んだりと、
まるでお供えをするような奇妙な行動を取った。
周囲の人々は、狂って矛盾しながらも孫への愛を持ち続ける祖母の事を悲しんだ。二件目の自殺者は成人女性だった。少年の自殺から5年後のクリスマスイブの事だった。
結婚を数日後に控えていた彼女の死体のそばにはクリスマス用に包装された包みがあり、
中には何故かコンドームが入っていた。少年の時と同じ包みで、
どちらもマンション一階にあるコンビニで買ったもののようだった。
女性はボランティア活動などを行う明るく優しく芯の強い人物で周囲はひどく驚いたが、
マリッジブルーの末の行動かと結論づけた。周囲にはこのマンション以上に高い建物がなく、
日付や遺留品の一致は偶然のものと思われていたが、
女性の死から更に数年後のクリスマスイブ、今度は三件目の事件が起こった。
飛び降りたのは結婚を間近に控えた男性で、命は取り留め、今は意識不明だがやがてそれも取り戻せるようだった。
流石に三件目ともなれば、実は一連の自殺事件は何者かが仕組んだ殺人事件ではという見解が生まれた。
警察が捜査に乗り出す中、男性の知人である主人公らも、過去の事件の関係者に接触し真相を探り始めた。結果としてわかったのは、男性は誰かに殺されかけたのではなく正真正銘の自殺未遂だった。
男性は婚約者に裏切られていたことを知り、世を儚んでそのような行為に出た。
過去に二度飛び降り事件が起きていたことを聞いて、同じ条件で自殺をすれば殺人の疑いが出て、
自分を裏切った婚約者を容疑者にできるのではと思ったのだった。
-
325 名前:本当にあった怖い名無し :2011/10/23(日) 11:36:55.64
- そして一件目の少年もやはり自殺だった。
だが少年の自殺の状況は、伝え聞いたものとはかなり違うようだった。
少年は頭の固い祖母にがんじがらめにするように育てられ、
私室の中まで祖母の監視下に置かれて、
少年らしい好奇心で買ったエロ本の類まで暴かれてなじられていたという。
それでも有名進学校に受かり未来は開かれているように思えたが、
周囲が賞賛するのは努力した少年本人ではなく、
少年を育て上げた祖母の方だった。
これからも自分の全てが祖母に管理され、手柄も奪われるだけなのだと絶望した少年は自殺を決行した。
エロ本は少年自身が買ったもので、祖母への最大の当てつけのためだった。
周囲がなんでエロ本が?と不思議がる中、祖母だけはその真意を正しく理解して狂ってしまったのだった。二件目の女性は自殺ではなかった。
彼女はクリスマスイブの夜、頼りない足取りでマンションの階段を上がる老婆を見かけた。
心優しい彼女は、こんな寒い日に痴呆している様子の老婆を一人で歩かせては危ないと思い、老婆の後を追いかけた。
その老婆は少年の祖母で、彼女は少年へのクリスマスプレゼントを投げに屋上に向かっているところだった。
少年の性を否定したために少年を失った老婆は、性的なことにとり憑かれたような状態になっていた。
15歳の少年が死んで5年後、生きていれば少年はその年に成人していたことになる。
老婆はもう少年に性的な事を許してあげようと、コンドームを贈ろうとしていた。
そこに現れた女性は若く美しく、「一緒に贈ってあげる物」にふさわしいように老婆には思えた。
老婆は少年へのプレゼントにするため、駆け寄ってきた女性を階段から突き落とし、コンドームをも投げ込んだ。老婆は別の日の徘徊の中で、寒さで体を壊して亡くなり、
物的証拠ももう残っていないため、公的には女性の事件はもう自殺から覆らないという状態。
三件目の男性は、意識回復した後は婚約者以前に付き合っていた元彼女とよりを取り戻した感じで
ハッピーエンドではあるが、一件目二件目はなんかもう救われない