高熱隧道(吉村昭)
吉村昭の『高熱隧道』の終わり方が後味悪かった。
この作品は、
日本電力黒部川第三発電所(現・仙人谷ダム)での工事を題材にした作品。
登場人物こそ架空の人間であるものの、
技師やら人夫(作業員)の描写がかなり生々しい。
工事現場が山奥にある秘境であったため、 ...
棄人(高港基資)
頃は明治、日露戦争直前くらい。
主人公の青年は山村出身というだけで
一人雪山に対ロシアの模擬訓練のための偵察に行かされていた。
道に迷ってしまった主人公は遠方に地元民とおぼしき中年男性を双眼鏡にとらえる。
追い掛けて道を尋ねようとする主人公 ...
琥珀貴公子/「香汗」(塚本邦雄)
夏井は趣味で食物の文化史を研究している。。
友人の軽野がくれた南国銘菓を随筆で褒めたせいで、
そこの大学の学園祭で講演するはめになった。
南の町は五月だというのに真夏の暑さだった。
講演の数日後、その町に住む翔子という女から手紙が届き、今では百通を越えた。
以 ...
靴が鳴る(阿刀田高)
侑子は時々、シュッシュッという細い管から空気が抜けるような、
老人の息づかいのような幻聴を聞く。
近道だからと人通りの少ない裏道を選んだ今も聞こえた。
ストーカーかと恐れたが、振り向いても誰もいない。
最初に聞いたのは中学生の時だったかしら、と思う。
遺伝で ...
子どもたち(フェルディナント・フォン・シーラッハ)
主人公のホールブレヒトは、
年9万ユーロ(約1260万円)稼ぐちょっとした小金持ちである。
9歳年下の妻ミリアムは小学校の教師をしていて、
もう少し2人きりの時間を過ごしたいので子作りはまだ早いと思っている。
鴨狩り(阿刀田高)
遠縁の春代はたぶん90を過ぎているだろう。
若い頃はさぞ…と思わせる凛とした顔立ちの老婆だ。
敏行が老人ホームに訪ねてゆくと、問わず語りに昔の事を話してくれる。
春代は未婚だ。
敏行はあの時代に女が独りで生活するのは大変だったろうな、と思っている。
天子様が ...
凍った時間(星新一)
ある男Aが事故かなにかで醜いサイボーグとなってしまった。
人々に気味悪がられ、陰口を叩かれるのが嫌になって
地下に引きこもり、TVを見るだけの生活をするようになった
ある日、TVが突然映らなくなってしまい、
修理業者などにも電話がつながらない ...
帰ってきたソフィ・メイスン(E・M・デラフィールド)
とあるワイン商人の夫婦が片田舎の古い屋敷を別荘として買い取った。
夫婦は子供が3人おり、乳母としてイギリス人の若い娘を雇っていた。
その乳母の名前はソフィ・メイソンといった。
ソフィは私生児で幼い頃に母も死んでいた。
母の死後は、宿屋を ...
可哀相な姉(渡辺温)
「僕」は唖の姉と二人暮らし。
姉は結核(一説では性病)だが病院に行かず、
花売り娘のふりをした私娼で「僕」を養っている。
「僕」は子供とは言えない年齢だが働いていない。
「僕」と姉は近親相姦で生まれた姉弟で、
親はどういうわけか、姉に「はい ...
歓迎ぜめ(星新一)
とある惑星の住人には尻尾があり、尻尾の動かし方で意思や敬意を表していた。
ある日地球の宇宙船が着陸したので、王は、神が舞い降りた!歓待せねば!と
部下に命じて急拵えの神殿を作らせ地球人を案内させる。
でも地球人には尻尾がないので、意思の疎通ができないしこちらの敬意も表せない。 ...