一年半待て(松本清張)

946 名前:1/3 :2012/08/14(火) 12:34:06.81
松本清張「一年半待て」
記憶だけで書く。名前は適当。

人妻が夫を殺す事件があった。
夫は長いこと無職で、犯人の花子が生命保険の外交までして家計を支えていた。
夫はたびたび花子に暴力を振るい、花子の友人である稲子(飲食店経営=縄のれんのおかみさん)と浮気していた。
浮気と暴力に耐え兼ねた花子が夫を殺した事件は世間の耳目を集め、
高名な評論家であるA女史も花子に注目し、弁護する文章をあちこちに発表した。
A女史が紹介した辣腕弁護士の活躍により、花子には執行猶予つきの無罪判決が下された。
(A女史自身が弁護士だったかもしれない。記憶が曖昧だが)

ある日、ダム建設の作業員だという青年がA女史に面会を求める。
その青年、太郎は二枚目でこそないが男らしく清潔な風貌を持っていた。
A女史から見て、教養はないが知的な輝きのある、美しい眼差しを持っている。
太郎はA女史に、花子との関わりを話した。

太郎は某県のダム建設現場で働いていて、ある日生命保険の外交が二人訪れた。そのうち一人が花子だった。
作業員たちは保険に加入し、花子たち二人の女は掛金の集金のため定期的に宿舎を訪れた。


947 名前:2/3 :2012/08/14(火) 12:35:56.79
「我々は厳しい自然の真っ只中で労働に励んでおりました」
「休日には山を越えて町に出て行きます」
「我々のような作業員の相手をするのは、中学もろくに出ていないような田舎の無教養な酌婦です」
「知的な都会の女性である花子さん達の訪問を、我々は毎月心待ちにしておりました」

やがて太郎は花子に惚れ込み、求婚した。
花子は、
騙したつもりはないが自分は人妻、これを聞いても自分を嫌いにならなかったらあと一年半待って欲しい、
夫と別れてあなたのもとに駆け付ける。
と言った。

そして事件は起きた。
太郎は独自に調査し、推論をA女史に告げる。

花子の夫がずっと失業中だったのは事実。
花子は夫に金を渡し、友人の稲子の店を紹介した。
「たまに気晴らししていらっしゃいな、私のお友達がお店をやってるの、助けると思って行ってあげて」
夫が稲子の店の常連になった頃、花子は夜を拒むようになった。
やがて夫は稲子と浮気する。
花子は周りに、夫の浮気と暴力と、働かずに金をせびっては飲み歩くことをこぼすようになった。
そして事件は起きた。


948 名前:3/3 :2012/08/14(火) 12:39:35.62
「花子さんが御主人を浮気するように仕向けて、悪者に仕立て上げて計画殺人を犯した、とも解釈できます」
「でもこれは僕の勝手な推理、当て推量です」
「先生のおかげで花子さんは無罪になりました。我が国には一事不再理という法律があるのですね、
 
僕がこの推理を公表しても、花子さんが再び逮捕されることはありません」

「…ただ一つ、花子さんには誤算がありました。僕が花子さんから去ったことです」
太郎青年は寂しげに微笑んだ。

 

張込み (新潮文庫―傑作短篇集)
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遠くからの声―松本清張短編全集〈08〉(光文社文庫)
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〈08〉(光文社文庫)