魔羅節(岩井志麻子)

299 名前:1/2 :2012/08/27(月) 10:37:06.83
岩井志麻子「魔羅節」

岡山市の外れの一角、最も貧しい棟割長屋に、その兄妹は住んでいた。
兄は、もう少し日露戦争が長引いていれば兵隊に取られていた年齢、妹はまだ尋常科の童子。

兄・千吉は、男の女郎をして生計を立てている。
髭剃り痕に化粧水をつけ、髪を綺麗に撫で付け、女の腰巻きを身につける。
千吉に一番古い思い出を尋ねられ、妹ハルは父親が鉱山で死んだ時と答えた。
母は頭がおかしくなり、父の所へ行こうとして崖から落ちて死んだ。
本当はもっと昔の思い出もあるが、ハルは知らないふりをした。
兄が支度を済ませた所へ、近所に住む俥屋の熊蔵が甘藷を持ってやって来た。
千吉に惚れている熊蔵は、普段からふたりに優しくしてくれた。
妻子がありながら、他の女にも平気で手を出すような男だが。
会話の最中、兄妹の故郷の村が日照りにあっているらしいと熊蔵が零す。

ハルの本当の一番古い記憶は、物心がつくかつかないかという頃。
村が大日照りにあい、ほとんどの稲が枯れた。老人は飢えと乾きで死に、子供が次々売られていった。
村人たちは、竜神様、水神様に祈祷を捧げた。
男たちが着物の裾を絡げ褌姿になり、「魔羅節」を歌う雨乞い。
しかし幼い千吉だけは、恥ずかしがってやらなかった。
それを誰かがどやしつけ、半泣きで褌姿になった。更にそれも剥ぎ取られ、下半身を曝された。
そして、異様な興奮に陥った数人の男どもに、千吉は犯された。


300 名前:2/2 :2012/08/27(月) 10:39:32.35
千吉の客として、ある商人がやってきた。千吉の故郷にも行ったことがあり、彼の噂も知っていた。
ここにいると聞き、わざわざやってきたらしい。
村を逃げ出し、人買いに攫われ、売られかけた妹の代わりを千吉が引き受けた。
あの魔羅節の日、犯された過去があったから、千吉はあっさりこの仕事を選んだ。
「今年もまた、村が日照りに苦しんでいる。魔羅節を唄いに戻らないのか?」
商人は千吉を犯しながら聞く。
魔羅節の後、本当に雨が降ってきた。千吉は雨の使いとして仕立てあげられ、毎年日照りの度、男たちに嬲られた。
それも男は知っていたからだ。
お客さんとこうして唄ってる方がいい、と千吉は答えた。

数日後、千吉の仕事場である旅館の座敷に、見覚えのある故郷の村の男たちがやってきた。
何を言われたか、他の仲居達は誰一人上がってこない。
村に戻ってくれと、男が言う。別の男が、長襦袢を取り出す。千吉が動く間もなく、彼を包んで押さえつけた。
あの商人に聞いたのか、と千吉が呻くと、そうだ、と返ってきた。
お前が戻って拝んでくれれば、すぐに雨が降る、と。
そうして、路地に停めてある車に運ばれた。それは、熊蔵の車だった。
しかし熊蔵は、中身が千吉だとは気づかない。
男たちは、村で悪さした者を連れ戻すだけだと嘘をつき、口止め料を追加してあった。
熊蔵は言いなりになった。余計にもらえた金でまた、兄妹に菓子でも買ってやろうかなどと考えている。

終わり
原文の会話文はもろ岡山弁


303 名前:本当にあった怖い名無し :2012/08/27(月) 12:29:41.03
>>300
熊蔵がその後気付いてしまった時のことを考えると、なんだかやるせない話だね…

 

魔羅節 (新潮文庫)
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