蛇比礼(山岸凉子)
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977:1/4:2013/06/01(土) 08:54:46.06
- 山岸凉子「辺見之比礼(へみのひれ)」
ブティックオーナーA子の妹はとある新興宗教の信者だった。
信者同士で結婚して北海道に入植したが、産婆もいない僻地で赤ん坊を生んでまもなく死んだ。
A子が東京から駆けつけた時には、妹の夫は赤ん坊を抱いて消えていた。
葬儀の席で、妹夫婦と一緒に入植した信者が言った。
「生まれた子には鱗があった」得体の知れない新興宗教を信じている半分狂った父親と二人きりでは、
可哀想だが赤ん坊は生きてはいまい…と諦めていたA子だが、
10年近く経った今、父親が死んで孤児になったその姪を養育するよう役場から通知があった。A子はシングルマザー。
(死別か離別か私生児かは不明)
一人息子のA男は底辺私立高の落ちこぼれ。
同じクラスの恋人をラブホに誘ってフラれた直後で(「何よ、バカにしないで!」)
性欲をもて余している。A子は雇われ店長のB男と交際しているが、それをA男に隠しおおせていると信じている。
姪の虹子(にじこ)を引き取る事になって楽しげに色々と準備するA子を、A男は
「娘を持つってのは、そんなに嬉しいのかなぁ…」と斜に構えている。
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978:2/4:2013/06/01(土) 08:56:10.93
- A男が学校をサボってゴロゴロしていたある日、虹子が一人で訪れた。
「あなたA男さんでしょ?あたし虹子、あなたのイトコよ。A子おばさまから何か聞いてない?」
「ねぇ早く入れてよ、駅からずっと歩いて来たのよ…」貧血を起こした虹子を、A男はリビングのソファに寝かせた。
とりあえずオレンジジュースを飲ませようとしたが、
ぐったりしていて飲まないので、思い切って口移しで飲ませてやった。中年家政婦の連絡で駆けつけたA子は手放しで喜び、あれこれ世話を焼いた。
汗をかいているので一緒にシャワーを浴びたが、虹子はお湯を熱がって裸で飛び出した。
「ママ、まだガキなんだぜ?ぬるくしてやれよ」
「ぬるくしたつもりだけど…○○○はなかったわ」
「ママ、何がないって?」
「別に、何でもないわ」(あれはキスじゃない、ジュースを飲ませてやっただけ)
(僕は変態じゃない、あの子はまだ小学生じゃないか)
(モヤモヤするのは、○子が僕を振ったせいだ。お高くとまりやがって!)虹子は食が細い。
父親と暮らしていた頃から朝食はとらなかったそうだ。
夕食も少ししか食べないが、A子は、
家政婦さんの料理はあまり美味しくないものね、と暢気である。
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979 :3/4:2013/06/01(土) 08:57:17.63
- 虹子はかわりに、生卵を落としたオレンジジュースをこっそり飲んでいる。
A男に見つかっても、あたし生卵大好きよ、だって美味しいもの。と屈託なく笑う。
気が利かない家政婦は、最近卵の減りが早いですねえ、と暢気である。虹子は色白の美少女で、切れ長な目のせいか時々驚くほど大人びて見える。
(あの子は従妹でまだ小学生で、可哀想な孤児じゃないか)
(小学生の裸でモヤモヤするなんて、僕はどうかしてる)
(くそっ!○子がお高くとまってるからだ)ある日、B男が虹子を車で送り届けてきた。
A子の命令で見立てた服や靴の包みを山ほど抱えて。
「じゃあね、虹ちゃん」
という馴れ馴れしい挨拶を聞いたA男は内心面白くない。
新しいスニーカーの靴紐をリボンに替えて「虹子オリジナル」にしてやったA男は、
靴を履かせてくれるよう言われて跪いた。
ベッドにちょこんと座った虹子は、細い脚を突き出している。
すべすべした脚を撫でまわし、ショートパンツの裾から手を忍ばせた所で
正気に戻ったA男だった。
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980 :4/4:2013/06/01(土) 08:58:44.29
- 学校で恋人が気まずそうに声をかけたが、A男はそっけない。
(なんでこんなのを抱きたいと思ったんだろ)帰宅すると虹子はシャワーを浴びる所だった。
湯温に気をつけろよ、と言ってやったが、悲鳴が聞こえたのでバスルームに飛び込むと、
虹子はぐったりと倒れていた。
シャワーが熱いのかと思ったが、ぬるいどころかむしろ水である。
A男に抱き起こされた虹子はニヤリと笑った。「A男さん大好きよ、パパより好き」
…お前父親とこんな事したのか!?
「うふふ、あたしパパの子じゃないのよ」
…じゃあ誰の…?
「ねぇ知ってる?昔の人は虹を大きな蛇だと思ってたのよ」
…お前の体、冷たくてすべすべして気持ちいいな…A子の独白。
…B男が浮気しているようです…
…息子は部屋に引きこもっています…
…部屋にガラスの破片のようなものが落ちています、鱗のようなものが。
家政婦を変えた方がいいのかもしれません…妹夫婦は蛇神を信仰していて、虹子は蛇神の子。
または父親にお前は魔性の蛇神の子、と洗脳されている。
A男は家政婦の目を盗んで、B男はA子の目を盗んで
虹子を抱いていて、いずれ破滅するだろう、という後味の悪さ。