殺す(J・G・バラード)

7301/3:2013/06/28(金) 23:17:37.16
J・G・バラード「殺す」原題は Running Wild

1988年、ロンドン西部の高級住宅地パングボーン・ビレッジで
住人と警備員と使用人32人が殺害され、子供全員(8歳から17歳の13人)が行方不明になった。
パングボーンの戸数はわずか10戸、フェンスで囲まれゲートは一つだけ、
警備員が常駐し監視カメラがそこら中にある超高級住宅地。
パングボーンが成功したので、近隣にも同じシステムの閉鎖的な住宅地が造成される予定。

軍の秘密兵器の毒ガスが漏れて住人が狂っただの、
軍の特殊部隊が訓練地を間違えて惨殺しただの、ロシアの特殊部隊が攻撃先を間違えただの、
はてはパングボーンの住人は皆外国のスパイで
任務を終えたら証拠隠滅のために互いに殺しあうよう洗脳されていただの、マスコミはやかましい。

当日休みだったため難を逃れた使用人たちは、
住人は皆優しく礼儀正しい人々で不倫もいさかいも全くなかった、と証言した。
不倫しようにも、屋内の一部にまで監視カメラがあるので不可能だが。


7312/3:2013/06/28(金) 23:20:38.43
事件の二ヶ月後、調査を命じられた精神科医はパングボーンをくまなく調べてある仮説を立てた。
(政府の調査チームが成果をあげられないので、はみ出し者の彼を抜擢したのだ)

子供達は皆文武両道で優秀だったが、数ヵ月前からスポーツをやめ、クラスメートと遊ばなくなった。
(「あいつら、パングボーンに閉じこもるようになったんだ」)
ある少年の寝室ではポルノ誌の下から通販クーポンが切り取られた銃火器専門誌が見つかった。
ある少年は大型の立体凧作りに夢中になっていた。
被害者の一人である警備員は、
「立体凧そっくりの、ベトコンがアメリカ兵に使った竹とロープを組み合わせた罠」
で絞殺されたのだ。

精神科医は、行き届きすぎた愛情と監視に耐えられなくなった子供たちが
一斉に大人を殺し、田舎に潜伏している。という仮説を立てた。

ある日、行方不明の子供たちの中で最年少のマリオンが発見された。
口も利けないほど錯乱していて、祖母の面通しでやっと身元がわかった。


732 3/3:2013/06/28(金) 23:22:15.78
マリオンは、窓の二重鍵をかける時のような不思議な動作を繰り返していた。
精神科医は、マリオンの父が
バスタブにドライヤーを投げ込まれて感電した所をキッチンナイフで刺殺された事を思い出した。
バスルームのコンセントは子供がいたずらできない仕組みで、プラグを差すにはコツがいるのだ。
ちょうど窓の二重鍵をかける時のような。

マリオンが収容された病院が襲撃され、マリオンが拐われた。
小柄な犯人グループは手際よく警官や看護師を射殺した。
精神科医は看護師に扮して警護していた婦警のおかげで、手を撃たれただけですんだ。

精神科医は自分の仮説を報告書にまとめたが、黙殺された。
マリオンはまだ8歳。
兄や年上の友人が感じていた、押しつけがましい愛情や期待(よくやった!次も頑張るんだぞ!)
を普通だと思っていて、殺人は兄にそそのかされたのだろう。

五年後、「国民の母」と呼ばれる元首相が暗殺未遂テロにあった。
犯人グループのリーダーは小柄な少女だったという。
成長した子供たちは、様々な「押しつけがましい親」を殺そうとするテロ集団になっていた。完。


736 本当にあった怖い名無し:2013/06/29(土) 10:01:04.24
>>730-732
この話、子供たち視点の行動や心境は全く触れられないから
余計に不気味だしモヤモヤするんだよね
実際には子供たちの間でどんなやりとりがあったんだろう?と

バラードがSF畑の作家と知らず
社会派犯罪小説だと思って読み始めた友人はそこが不満だったらしいが


738 本当にあった怖い名無し:2013/06/29(土) 11:55:23.90
事件当日はBBC放送のドキュメンタリー班が取材に訪れる予定だから、
忙しい親たちがみんな在宅だったんだよね。
パングボーンの成功が全国に放送されたらそれこそ逃げ道がなくなるし、
まわりに同じような住宅地ができると知って決行した、みたいな。

パングボーンの異常性というと、
ペット禁止→犬は芝生を痛めるし子供の愛情を親からそらしてしまう。
親が子供のパソコンにメッセージを残す。
真面目なテレビ番組を家族全員で見てディスカッションする事が、
一日のスケジュールに組み込まれている。
子供に、お前のためだからこの本を読め。感想を教えろ。
この番組はきっとお前の役に立つ。感想を教えろ。

あくまで子供の為なんだよね。

 

殺す (創元SF文庫)
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