すえ子の正月(津村節子)

493本当にあった怖い名無し:2014/01/08(水) 18:41:11.21
津村節子の短編「すえ子の正月」

主人公の女性、すえ子は
幼稚園児の娘、美智と夫の三人で暮らしている。

すえ子という名前は、女ばかり生まれたことに辟易した両親が
「これで女は終わりにしたい」という意味でつけた名前だった。
しかもすぐ下に跡取りの弟が生まれ、家族全員はただ一人の息子を溺愛した。
その名のとおり、すえ子は家族から空気のように扱われて育つ。

弟の誕生日は家族全員が祝ったが、すえ子の誕生日は誰も覚えていなかった。
家が火事になった時も、家族は我先にと逃げ出し、一人遊んでいたすえ子は、
やっと気づいた父親が助けに来てくれるまで燃え盛る家の中で泣いていた。
家族は誰一人、すえ子に愛情を注がず、両親すら彼女を可愛がる事はしない。
服も道具もすべて姉のお下がりで、家族ではすえ子だけが見窄らしいお下がりを着ていた。


494本当にあった怖い名無し:2014/01/08(水) 18:42:04.42
そんな孤独な少女期から、すえ子は人付き合いが苦手で、後ろ向きな性格に育った。

しかし年頃になったすえ子に、東京から今の夫との縁談が舞い込む。
一杯一杯になりながらも縁談に臨んだすえ子だったが、相手の反応は芳しくなく、
婚約はしたものの、何週間経っても結婚が具体的に決まらない。

やきもきするすえ子の実家に、ある日突然婚約者(今の夫)からデートの誘いが来る。
すえ子は、これを期に変わろうと決意し、
地味なスーツではなく、洋品店でオレンジ色の花柄のワンピースを購入。
さらに美容室で髪を整え、美しく化粧をした。
それを見た姉たちは「へー、あんたもそこそこね」と嫌味を言ったが、
初めてのデートで浮足立つすえ子にはそんな言葉も意味はない。

すえ子は軽やかな足取りで東京へ向かった。
聞いていた住所に行くと、そこは婚約者のアパート。
いきなり押しかけるのは失礼かと思い、
インターフォンを鳴らすのをためらったすえ子だったが、
ふと扉が開いた。

影に立つ彼女に気づかなかったのか、中から出てきた女性。
派手な化粧も、露出の多い服装も、すえ子とは正反対だった。
婚約者であるすえ子は合鍵すら持たないのに、
彼女は全く気を使うそぶりもなく、彼のアパートから出て行った。

それが何を意味するのか、すえ子にはなんとなく分かってしまっていたが、
何故か見合いはトントン拍子に進み、すえ子は現在の夫と結婚することになった。


495 本当にあった怖い名無し:2014/01/08(水) 18:42:54.41
あのアパートで見た女性のことを問いただすことは出来ぬまま、
娘の美智が生まれたのだった。
美智は可愛らしく明るい性格で、すえ子とは正反対の活発な少女。
内向的でつい卑屈になりがちな母をも明るい気持ちにさせてくれる優しい子だった。
しかし、二人の結婚生活を支えているのも、同時に美智だった。

大晦日。
美智は夫に連れられ夫の実家へ行く。
一緒に行きたがった美智だったが、すえ子は気を使うのが疲れるので断る。
実家の料理を食べられると喜ぶ夫に、口には出さないものの、
「自分の田舎くさいおせちが嫌なのだろう」と卑屈な思いを抱くすえ子。

一人分の御膳を片付けたすえ子に、夫の実家から電話がかかってきた。
美智は弾んだ声で美味しいごちそうを食べたことを報告し、
「お母さんも来ればよかったのに」と笑う。
後ろから聞こえてきた賑やかな声に、すえ子はまた切なさを覚えた。
いまさらながら、夫が自分との結婚に乗り気でなかったことを思い出し、
今の結婚生活も、美智をかすがいとした冷めたものであることに気づく。

美智との電話が切れた後、すえ子はのろのろと布団を敷いた。
ガムテープで扉や窓に目張りをすると、ガスのホースを一杯に開いた。
布団に仰臥したすえ子の耳の奥に、楽しそうな団欒の声がいつまでも響いていた。


497 本当にあった怖い名無し:2014/01/08(水) 18:45:16.86
うろ覚えだから間違ってたかも、すまん。

しかし、年配の人には
「子供はもう沢山だ」「女はもういらない」という理由で
未子、留吉とつけられた子供が結構いたのを知ってるせいか、
「末」や「留」を名前につけるのを嫌がる人も多い。

最近ご近所で「末夏」ちゃんを見て、
ふと思い出したので書いてみた。