天才柳沢教授の生活/第75話「また出会った二人」(山下和美)

887 名前:1/2 投稿日:04/11/21 16:46:55
某青年誌で連載してた「天才柳沢教授の生活」のとある話。

某大学で経済学の教授を務める柳沢は、非常に堅物で融通の効かない性格である。
反面、不条理なものや論理で説明の出来ないものに対して強い興味を示す。
そんな彼が、日常で起こる様々な出来事や出会いと触れ合う様を描いた漫画である。

ある日、柳沢が勤める大学に高級な外車が何台も入ってくる。
そこから降り立った黒服たちと、彼らに守られるように立つ太った外国人。
学生達は「マフィアだギャングだ」と遠巻きに噂する。
そこへ柳沢が現れると、外国人は親しげに彼に近づき、「久しぶりだなぁ」などと言う。
柳沢は少しだけ考えて、その外国人がかつての学友であると気付く。

構内のカフェで二人は思い出話をする。
かつて二人は親友で、よくキャッチボールや経済学の話で盛り上がったのだ。
男はイタリアンマフィアのボスの息子で、日本には留学で来ていた。
しかし男のそんな背景は関係なく、確かに二人は親友だった。

ある日、男が「国に帰らなくちゃいけなくなった」と打ち明ける。
マフィアを継ぐのかと問う柳沢に男は頷き、
「これからは麻薬なんかも扱わないと、他の組織に乗っ取られる」
と自分の考えを話す。
柳沢が「そんなことをすれば、私はあなたを軽蔑します」と答えると、
男は苛立ちもあらわに席を立ち、去っていく。
二人の仲はそれっきりになっていたのだ。


888 名前:2/2 投稿日:04/11/21 16:49:52
何十年もの時を経て、二人はようやく再会したのだった。
かつては陽気な若者だった男は、貫禄みなぎる立派なボスになっていた。
今までどうしていたのかと聞く柳沢に男は不敵に笑い、答える。
「麻薬を扱うようになってから、俺の組織は国でも有数の力を持った。
他の組織なんて目じゃない。俺は上り詰めたんだ……」
話すうちに興奮して、机に拳を叩きつけて柳沢を見据える男。
「――もう、誰も俺に逆らえんのだ!」
柳沢は目を逸らさず、静かに一言、
「やはり、軽蔑します」
ふう……と、どこか吹っ切れたように微笑み、ゆっくり座りなおす男。
「やっと……足を洗う決心が付いた。
あんたにそう言ってほしくて、こうして日本までやってきたんだ……」
マフィアのボスなどとは思えない弱気な顔で、柳沢の顔を覗き込む男。
「まだ、あんたの友達に戻れるかな……?」
「私達は、今でも友達です」
かつてのように微笑みあい、男は帰っていった。

889 名前:3/3 投稿日:04/11/21 16:51:19
場面がイタリアに移る。
公園に車が止まり、男と護衛の黒服が降りてくる。
男の背中に向かって護衛が話しかける。
「ボス、本当に引退してしまうんですか?」
「ああ。後のことはトトに任せてある」
晴れやかな顔で空を見上げ、両手を天に差し伸ばす男。
「やっと自由になるんだ……あの鳥みたいに……」
その後頭部に銃口を向ける部下。
「トトだけはごめんです」

日本。柳沢が学生とキャッチボールをしている。
その姿にかつての自分達が重なる。
ボールを受けた若い柳沢に、金髪の青年が笑いかける。
「早く投げろよ!計算はしなくていいから!」
楽しそうに、柳沢の堅物ぶりをからかう青年。
苦笑して、「うむ」とだけ答える若い柳沢。

その頬に、一筋の涙が伝った。

 

天才 柳沢教授の生活(8) (モーニングKC)
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