抱茗荷の説(山本禾太郎)

61 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2005/06/24(金) 01:18:26
読んだ後に、あまりの後味悪さに「ありゃー…」とマジで顔をしかめた小説。
ちょいと長めです、スマソ。
「抱茗荷(だきみょうが)の説」。作者は山本禾太郎。

君子は幼い頃に、奇怪な状況で両親を亡くしていた。
まず父が死んだのは、君子の生まれた翌年。
家に、2人のお遍路さんが泊まった。老婆と若い女性だった。
君子の家は、いつも巡礼たちに、タダで宿を提供していたのだ。
その時、母は熱を出してふせっており、
お遍路さんたちは母のためにと、金のお札を置いていった。
これを飲むと、どんな病気も治るという。信心深い父は喜んだ。
だが二人の風体を聞いて、何故か母は飲むことを強く拒否。
勿体ないので、代わりに父がお札を飲んだ。
だが、父は、間もなく黒い血を吐いて死んでしまったのだ。
その時に居合わせた祖母の話では、若い女の方はすっぽり頭巾をかぶっていたが、
目元や姿形が、君子の母にうりふたつであったという。

大黒柱を失って一家は次第に立ちゆかなくなって行った。
ある日、母は幼い君子の手を引いて、実家に金を借りると行って出発した。
その旅の事を、君子は良く覚えていない。ただ最後に、
大きな池のほとりにある、白い壁の巨大なお屋敷についた。
母は黒い頭巾をかぶり、君子を残して屋敷の中に入っていき…
そして、それきり戻らなかったのだ。
泣きながら屋敷にもぐり込み、母を捜し始めた君子は、
使用人らしき男に、池に浮いた女の死体を見せられる。
母はあやまって池に落ちて死んだのか……。
君子は男に連れられ、祖母の元に帰ったそうだが、何も説明できず、
ただ大きな古い高価な人形を持たされていたという。


62 名前:つづき 投稿日:2005/06/24(金) 01:22:24
祖母が死ぬと、君子は子守りをしたり旅芸人になったりと苦労を重ねた。
だが、もう一度母の死んだ土地に行ってみたい君子は、
旅で訪ねる先々で、大きな池のある場所はないかと聞くことにしていた。
やっと芸人から足をあらった後、君子は初めて、人形に不思議な印を発見する。
人形の左の胸に小さな梅の花のような模様。
そして背中には、「抱茗荷の説」の文字。

君子は、旅の途中、ある土地で聞いた伝説を思い出した。
むかしその町の庄屋に仲の悪い双子があって、争いから家に放火。
火は燃え広がり、町は全滅してしまった。
それから町の人々は双子を忌み嫌ったが、しばらくして、また
庄屋の家に双子が生まれた。
双子を産んだ嫁は苦悩のあまり、双子を抱いて池に身をなげた。
それからその池はふたご池と呼ばれているという。
また、その池の周囲にできる茗荷はふたつずつ、抱き合ったような形で
できるという……。これが、「抱茗荷の説」だった。

君子は偽名をつかい、その伝説のある屋敷に女中として住み込んだ。
だいぶ古くなってはいるものの、そこはまさしく、幼い時にやってきた屋敷だった。
また、屋敷で見つけた抱茗荷の紋。
君子は、母が最後にかぶっていた頭巾に同じ紋があった事をはっきり思い出した。
母が浮いていた池のほとりにも行ってみた。
だが、強い疑惑が君子を襲う。今見る池のその場所は…浅かったのだ。
こんな所で事故でおぼれるだろうか。自殺? 扉の前に幼い娘がいるのに?
…母は、殺されたのだ。君子の疑惑は、確信へと変わっていく。


63 名前:つづき 投稿日:2005/06/24(金) 01:23:33
父の飲んだ毒札は、母を狙ったものだったはず。
死んだはずの母が金を借りに現れたので、あわてて殺したのだ!
やがて君子は、人形の中に母の残した手紙を発見した。
そこには、うり二つに生まれた双子の姉妹が、この家の宿命のとおり、
男や財産をめぐって、醜く争ったいきさつが書いてあった。
母を失うあなたに、この人形だけでも与えましょう、とそこには書かれていた。

姉妹は見分けがつかないほど似ていたが、ただひとつ、
母の左胸には梅の形のアザがあった。
人形は、姉妹にひとつずつ与えられたもの。ただし見分けをつけるため、
母のものには花の印がつけられていたのだ。
君子は、確かに、母には左の乳房の上に、同じ形のアザがあった事を思い出す。
母は死を予感していたのだ…。
君子の心に、憎悪が生まれ始めた。
今、この屋敷には、未亡人と白髪の老婆が住んでいる。
それがお遍路の二人に違いなかった。
奪われた父母。そして君子の幼い日々…。
君子は、二人への復讐を決意する。

その頃、未亡人がときどき君子の部屋をうかがうようになった。
気づかれたろうか。君子は、身の危険を感じ始める。
だが、君子には心強い味方も現れた。下男の青年、芳夫である。
芳夫は、君子を送ってくれた使用人の息子だった。
芳夫の父は、かつて命じられて、争っている双子の女性のひとりを手に掛けた。
ひとりぼっちになった君子の事を、ずっと気に病んでいたというのだ。
芳夫は、君子に協力することを誓う。


64 名前:つづき 投稿日:2005/06/24(金) 01:28:31
そして、君子は最後の確認をする事にした。
まず、未亡人の部屋に、自分の人形を置いた。隠れて見ていると、
未亡人はあわてて人形を抱き上げ、恐ろしいものを手にしたように、
-やっぱり……知っているのか-とつぶやいた。
また、中風で寝ている白髪の老婆に、金色の札を見せると、
老婆は泣いて許しを乞うような仕草をした。もう、間違いはなかった。

その日のふた子池は風もないのに波立ち、暴風雨となった。
研ぎ澄ました斧を手に持った芳夫が、未亡人の部屋の前に立つ。
未亡人は良く眠っていた。静かに近づいた芳夫は、枕元で斧を振り上げた……。
全てが終わったあと、隣りの部屋から出てきた君子は、
激しい、絹を裂くような悲鳴をあげた。
そして未亡人のそばに駆け寄るとぐったりと膝をついた。
未亡人は、開いた目にいっぱいの涙をためていた。
そしてあらわになった左の胸。
そこには、梅の形のアザがあった…。
 
                            終わり

君子の苦労がコマかに書かれてるので、最後には
憎いカタキへの復讐を応援する気持ちで読んでたのに……
ひでえー…と言う感じでした。

 

怪奇探偵小説集〈3〉 (ハルキ文庫)
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