らんぷの下(一ノ関圭)

494 名前:1/2 投稿日:2006/02/10(金) 20:44:46
「らんぷの下」一ノ関圭
ショッキングな内容ではないけど、もやっと地味に後味悪い。

明治時代、主人公は売れない洋画家で、すなおという女と暮らしている。
暮らしは貧しかったが、すなおは昼は働いて生活費を稼ぎ、夜はモデルとなって主人公の創作活動を支えていた。
しかしそんなすなおに主人公は冷淡な態度を取り、時には当り散らしさえしていた。
すなおは元は主人公と同じ美術学校に通う画学生で、同じく同期の青木繁と同棲していたが、やがて青木は
他の女に心変わりし、主人公はその隙につけこんですなおを半ば強引に犯して自分のものにしたのだった。
それは愛情というより、青木への対抗心からであった。主人公は初めて青木の絵を見た時その才能に圧倒され、
以来青木を追い越す事だけを考え続けていた。とりわけまだ青木がすなおと同棲していた頃、
彼らの部屋で一度だけ見かけたすなおの肖像画は今も主人公の心を捉えて離さなかった。
すなおはそんな主人公に「青木を越えたければ彼を気にするな、自分の絵を描け」と諭す。
だが、主人公は青木を意識する事を止められない。青木への劣等感から、
すなおにもどこか卑屈な感情が湧き上がり、尚更苛立ちをぶつけるのだった。
そんな中、すなおが自殺を図る。仕事先の男に乱暴されかけ、操を守るために喉を突いたのだ。
それ程に芯の強い女があの日、自分には身を許したのだという事実に主人公は今頃になって気付く。
すなおを介抱し、初めて優しい言葉を掛ける主人公。お互いの心が通じ合い、安らかな日々が続く。


495 名前:2/2 投稿日:2006/02/10(金) 20:46:30
しかしある日、主人公はすなおの留守中に隠すように置かれていたある物を見つけてしまう。それはあの肖像画だった。
やはり青木に心残りがあったのか、と主人公はすなおを罵る。
しかしすなおは「あの絵を隠していたのは、あなたが余りにあれに捉われているからだ。
あんな物は忘れて自分の絵を描いて、青木を越えて欲しかったのだ」
と訴える。
けれど、もうすなおの言葉を信じられない主人公に、すなおもついに本心を語る。
確かに自分はあなたより青木を愛している。だけどあなたが青木の絵の事を忘れて、
彼を越えてくれたら、自分はきっとあなたを愛せただろうと。
すなおは主人公の元を去る。
残された肖像画を一人眺める主人公。紛れもない青木のタッチ、相変わらず見事な出来だった。
しかし、以前見た時のような衝撃は薄れていた。今の自分ならば、あるいは追い抜けるかもしれない・・。
主人公はより一層青木を意識し創作に没頭する。
そんなある日、青木繁が死去する。回顧展が開かれ、その会場で感慨に耽っていた主人公は、
展示物の中にあのすなおの肖像画を見つけて驚愕する。自分があの日見たのはこの絵だ!
その証拠に、その絵は今も全く色褪せることなく輝いていた。
しかし今主人公の手元にある絵は紛れもなく青木の手によるものだ。そこで主人公はある考えに行き着く。
自分を感動させたこの絵を描いたのはすなおだったのだ。青木の習作として回顧展に飾られているが、これは
かつてすなおが描いた自画像で、すなおが持っていたのはその出来栄えに感嘆した青木が模写したものだったのだ。
主人公の脳裏に、別れ際にすなおが呟いた言葉が蘇る。
「しょせん、女の力じゃ一度燃焼するのが精一杯」
天才青木繁を感服させる程の才能を持ちながら、自分の限界を知っていたすなおは、青木を超える存在として、
主人公に賭けていたのだった。
主人公は青木とすなおに二重の敗北をした事を悟り、その日を境に筆を折る。

503 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2006/02/11(土) 00:09:08
>>494-495
上手いな…いや、要約も、話の内容もね。

天才と呼ばれる人の奥さんは、天才が認めるだけあって、大抵当人も天才なんだけど、
それをあえて隠し、バカを装っている…ってな話を思い出した。


516 名前:494 投稿日:2006/02/11(土) 11:58:21
おお、微妙な後味の悪さなので分かってもらえるかどうか不安だったけど、共感してくれる人が
沢山居てくれて嬉しい。ちなみに作者はこれがデビュー作だってんだから才能のある人間ってのは
本当に居るところには居るんだね・・・(ちなみに現在は日本画家らしい)
粗筋は記憶のみに頼って書いてるので細部違ってたらスマソ

 

らんぷの下 (小学館文庫)
らんぷの下 (小学館文庫)