再会(浅田次郎)

446 名前:1/3 投稿日:2007/07/13(金) 15:10:18
浅田次郎の短編小説

主人公の小説家は、とあるパーティーで会社の社長となった高校の同級生(以下、友人)と再会する。
主人公とあった瞬間、物凄く驚き、やがて切羽詰まった声で今度二人きりでゆっくり話せないかと言う友人。
若干態度が気になったものの懐かしさも手伝って主人公は快く了承する。
数日後、友人の家を訪ねるとそこには上品で穏やかで美しい奥さんがいた。
奥さんが出払い二人っきりになると友人は話しをはじめた。
「まさか君がこんな有名な小説家になるとは思ってもみなかったよ」
「いやー、照れるなーw」
「……なぁ変なことを聞くが「君」は本当に「君」だろうな」
不気味に思い出した主人公は友人に何が言いたいのかと問いただす。
友人は謝り、「でも、こんな不思議な話君にしか言えないから」と自分の体験を語り始めた。

数年前、友人はある美人で性格のよい女子社員と不倫をしていた。
が、やがてその関係を清算しなくてはならなくなり別れ話を切り出した。
女子社員は恨み言一つ言わずに別れてくれたが、
黙って会社も退職し、以降友人の前から完全に姿を消した。
そして1年前、友人は妻と旅行に行った帰りの新幹線の中で偶然彼女と再会する。
彼女は高級そうな服装をしてやはり身なりのよい男性と二人で友人達の前のシートに座っていた。
彼女は友人には気付かず、その男性と仲よさそうに会話をしていた。
話の内容からして二人は夫婦らしく、また彼女の夫はかなり地位の高い人間らしい。
やがて、友人には気が付かないまま、駅に着き二人は降りていった。
贖罪の意味も含め、友人は心の中で彼女が幸福な結婚をしたことを喜ばしく思っていた。
が、入れ違いにスーツ姿の男に取り囲まれ、手錠をしたみすぼらしい格好の女が乗り込んでくる。
何となく嫌な気分になる友人。が、すれ違った瞬間、その女から「××ちゃん」と名前を呼ばれる。
驚く友人。その手錠をした女の顔は間違いなく、さっき降りていった筈の彼女だった。


447 名前:2/3 投稿日:2007/07/13(金) 15:15:33
友人はパニックに陥る。彼女は実は結婚詐欺師か何かで駅で警察に捕まったのだろうか。
いや、服装は全く違っていたし、確かに顔は両方とも彼女だが
二人の顔つきは「良家の奥様」と「醜悪な犯罪者」といった全くの真逆であった。
では、双子の姉妹とかだろうか。いや、彼女からそんな話は一度も聞いたことはないし、
第一最初の方の彼女は夫と思しき男性からちゃんと彼女の名前で呼ばれていたし、
後のほうが偽者なら、なんで自分のことを知っていて、当時の呼び方で呼んだのか。
そして友人は一つの結論に達する。
つまり彼女は自分と別れた瞬間から二人に別れ一方は幸せな人生を、
そしてもう一方は不幸な人生へと転落していったのではないか、と。
「考えすぎだ。なにかの間違いだ」と諭す主人公。だが、友人は主人公にくってかかる。
「実はお前にも会ったことがあるんだ。去年の暮れの中山競馬場でな」
去年の暮れはずっと取材で中国にいた、
確かに競馬場には行ったが、それは香港のシャンティン競馬場だ。
中山になんて行っていない。という主人公を制して、友人は続ける。
競馬好きの社長仲間に誘われて、新しく馬主になった友人。
自分の馬が出走するので、中山競馬場にきていた所、偶然主人公を見つけたという。
風の噂では流行作家になったと聞いていたのに、友人が声をかけ、
振り向いた主人公は柄の悪いチンピラそのものだった。
その「主人公」は馬主バッチを付けた友人にさんざん悪態を付いて、人ごみの中へ消えていったという。

448 名前:3/3 投稿日:2007/07/13(金) 15:17:56
友人の家を出、「早急に良い医者を見つけてやらなければいけない」という事も含め、
奥さんに正直に話すべきか否かを考えながら、一方で主人公は思う。
東京には何千万人という人間が住んでいるらしいが、本当にそれだけの人間しかいないのだろうか?――
そんなことを考えていると、主人公の目の前に異臭を放つホームレスがまろびでてくる。
その顔を見た瞬間、主人公は慄然とする。
垢じみて老婆のように老け込んでいるものの、間違いなくそれは友人の奥さんの顔だった。
「あなた××(友人の奥さんの名前)さんだろ?」「へ、あんた誰だい?」間違いなくそれはもう一人の人間だった。
「俺を知っているか」と問う主人公に「あんたなんか見たこともない」というホームレス。
「じゃあ、××は知っているか」と友人の名前を聞くと、ホームレスは興味なさげに
「知らないよあんな奴、最近はてんで噂を聞かないからどっかでおっ死んでんだろうよ」と吐き捨てる。
恐ろしくなり、主人公はその場から走って逃げる。目の前には無数の窓の明かりが主人公を見下ろしている。

俺が帰らなければいけない、「本当の家」はどれだ――

 

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