「同窓会」
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914 名前:本当にあった怖い名無し :2008/12/21(日) 00:59:30
- 「同窓会」
優のクラスには、ちょっと変わった崇という男子がいた。
いつも「宇宙人は存在する!」だとか「僕は空を飛べるんだ!」とか、
妙なことを口走っては、ある意味でクラスの注目を集めていた。
クラスの人気者であった優は、崇が気に食わなかった。
崇が変なことを言うたびに、クラスの皆が崇に注目する。
「あいつ、本当はクラスの注目を浴びたいだけなんだ…!」
優はそう思い込んで、崇にひどく嫉妬していた。あるとき、また例の如く崇が「僕は空を飛べる」と皆の前で喚き始めた。
それを半分パフォーマンスと認識していたクラスメイトは、
「嘘付け!」だの「すげぇな!」だの、しきりに崇を持て囃す。
最初は無視していた優だったが、次第に苛立ちを隠せないようになり、
「本当なら今すぐここから飛び降りてみろよ!!」と声を荒らげながら窓を指差した。
途端に静まり返る教室。
「おいおい本気かよ…」と、クラスメイトの大半は優に冷ややかな視線を送っていた。「いいよ」。崇はそう呆気なく答えると、2階の窓から勢いよく飛び降りた。
「おい!…ちょ!」
一瞬間、寂莫に支配された教室は、すぐに女子たちの悲鳴で満たされた。
まさか本気で飛び降りるとは思っていなかった優は青ざめながらその場に立ち尽くし、
男子は先生を呼びに廊下へ走り出した。
優が恐る恐る窓から階下を覗き込むと、ぐったりと横たわる崇が確認できた。
そして、崇の頭を中心にツーと半円を描くように広がる真っ赤な液体。
「俺のせいで…」。優はその場に崩れ落ちた。
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915 名前:本当にあった怖い名無し :2008/12/21(日) 01:00:01
- 優を責める者は誰もいなかった。
何故なら優は、事件の3日後に遠くの学校へ転校することが決まっていたからだ。
そして、それから3日間、誰一人として崇の話題を出す者もいないまま、
優はひっそりと転校していった。それから30年の月日が流れた。
40歳になった優のもとに、同窓会の便りが届いた。会場は母校だ。
優は、あれからかつてのクラスメイトと一切会っていなかった。
仕事やら何やらで忙しくてわざわざかつての故郷に赴く暇がなかったのだが、
もしかしたら意識的に帰ることを避けていたのかもしれない。
せっかくの機会だし、久しぶりに顔を出すか、優は葉書の「出席」に○をつけた。同窓会当日、優は懐かしみながらかつての故郷を歩いていた。
到着するまでは色々と心配していた優だったが、
いざ故郷の匂いを感じるや、それは杞憂だったと気づく。
母校に着くと、懐かしの面々が優を出迎えてくれた。
「来てよかった」。皮肉なことに、このときやっと優は過去と決別できたのかもしれない。緊張から解放されて体が緩んだのか、優は急に尿意を催した。
まだ予定の時刻まで余裕がある。優はその場から去り、トイレへ向かうことにした。
昔を思い出しながら校内を歩いていると、ふと廊下の向こう側に、人影があることに気づいた。
背丈から少年であることが分かった。
「今日は学校、休みのはずなのに…」。優は少年へと近づいていく。
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916 名前:本当にあった怖い名無し :2008/12/21(日) 01:00:26
- 次の瞬間、優は心臓を抉られるような感覚に陥った。
何と人影の正体は、あの日、あのときの、「崇」だったのだ。
不適な笑みを浮かべる崇に、優は腰を抜かし、取り乱した。
崇は笑みを絶やさぬまま、ゆっくり優のもとへと歩み寄ってくる。
「す、すまなかった!まさか本当に飛び降りるとは思ってなかったんだ!俺のせいじゃない!俺の…!」
優は動転しながらやっとの思いで立ち上がると、そのままどこかへ走り去って行ってしまった。同窓会が始まり、ありがちな昔話で談笑するクラスメイトたち。
そこへ、1人の男が息を切らしながら走ってきた。
「ごめんごめん!遅くなっちゃって!」
クラスメイトがいっせいに男の方を振り向く。
「おお!崇!お前遅いぞ!自分の子どもほったらかして!」
「もうパパ遅いよ!」
崇の息子が、料理を箸で弄びながら言った。
「ほらほら、お前の子どもの頃にそっくりな坊主が、ふて腐れてるぞ!」
「いやぁ、急に野暮用ができちゃってさ、すまなかったよ」
「それにしてもお前、あの傷は大丈夫なのか?」
「いつの話だよ(笑)。もう跡形もなくなっちゃってるよ」
「まさか本気で飛び降りるとはな。皆びっくりしたよな」
「そうよそうよ、3日間こん睡状態で、あたし本当に死んじゃったと思ったんだから!」
「ごめんごめん…もう忘れたい過去だよ、あれは(笑)」
「あ、そういえば今日、珍しく優来てるんだよ」
「本当に!? そりゃあのときのお返ししなくちゃ!」
場内がどっと笑いに包まれる。
「それにしてもアイツ、ションベン遅いな…」屋上から飛び降りた優の死体が発見されたのは、それからしばらく後のことだった。(終 わ り)