いっぺんさん(朱川湊人)

904 名前:本当にあった怖い名無し :2008/12/20(土) 22:56:12
いっぺんさん

小学生の主人公と友人は「いっぺんさん」という神様にお祈りするため、
近所の老人に教えられた通りの場所に向かっていた。
いっぺんさんとは、名前の通りどんな願いごとも
「いっぺんだけ」なら、「一度だけ」なら叶えてくれるのだという。
主人公は正直なところ、眉つばものだと思っていたが、
無邪気にそれを信じている友人のために付き合った。

友人は前歯が一本途中でポッキリと折れている。しかも永久歯だ。
見ていて痛々しいが、友人の家は貧乏で治療するお金もないらしい。
前歯を折ったのは友人の父だった。父はニートで酒を飲んでは暴れるので、殴られて折れたのだった。
出先でもすぐに周囲の人間にいちゃもんをつけて騒ぎ立てるDQNなので、町では有名だった。
でも友人は、多少頭が弱いところはあるが明るい子なので、親を理由にいじめられたりはしていなかった。
友人は、一人で家族を支えている母親のことを心配しており、昔は優しかったという父親のことも嫌ってはいなかった。
将来は白バイクに乗った警察官になって、家族を支えたいという夢を持っていた。
その夢こそが、いっぺんさんに叶えてほしい願いだった。
努力していればそのうちなれるかもしれなかったが、友人は頭が悪いことを気にしていた。
また、父親が前科を持っているために、そのことも不利になるのではと悩んでいた。
そんなわけで神頼みをするため、いっぺんさんがいるという場所にやっとたどり着いた二人。

小さな祠のそばを掘り返し、特別に白い石を見つけ、
その石に願いをこめながら肌身離さず持ち歩いていれば願いが叶えられるという。
石を自分以外の者に見られてもいけないというため、背を向けて穴をほりまくる二人。
やがて、友人は石を見つけた。背を向けたまま具体的にどういう願いをすればいいのかを相談する。
「白バイの警察官になりたい」「早く大人になって家族を支えたい」
というのが友人の願いだが、叶えられるのは一つなのだった。
「早く大人になって白バイの警察官になりたいって願えばいいじゃん これなら一つの願いになる」
言われるままにそう願う友人。一方、主人公がいくら掘ってもそれらしき石は見つからなかった。
強い願いを持っていないと石は見つからないのだという。


905 名前:本当にあった怖い名無し :2008/12/20(土) 22:56:37
数日後、友人は授業中に急に倒れてしまった。それから何日間も登校してこなかった。
見舞いに行くと、友人は明らかにやつれていた。
だいぶ前から体調不良を意識していたらしいが、治療費もないため我慢していたという。
将来のことはキャンセルして、病気が治るようにいっぺんさんに願えと主人公は言った。
友人は頷いたが、その日のうちに亡くなった。友人が肌身離さず持っていた石は消えていた。
葬式の時に友人の父親は号泣していた。出席した人たちは皆、父親の友人への暴力を知っていた。
大切にしてあげなかったくせに今更悔やむなんて、と皆は影で父親を批難した。

いっぺんさんは友人の願いを一つも叶えてはくれなかった。
それでも主人公は、はじめて確固たる願いを「また友人と会うこと」を抱いていっぺんさんのもとに行った。
石はすぐに見つかった。

願いをこめながら石を持ち歩く日々。
落ち込んでいる主人公を心配した両親は家族旅行を企画した。
久しぶりに笑顔を取り戻した主人公。
だが、弟が遊具から転倒して頭を強打するという事故が起きる。
血を流し意識を失う弟。山の中のキャンプ場にいたため、救急車を待つよりも自家用車で病院へ向かう方が早い。
一家は車に乗って病院に向かうが、ひどい渋滞にひっかかってしまう。
主人公の父親は窓を開けて「子供が死ぬかもしれないから道を譲ってくれ」と叫ぶが効果はない。
切迫した状況の中、主人公は友人に謝り、いっぺんさんへの願いを「弟を助けてください」というものに変えた。
そこに白バイクに乗った警察官がやってきた。彼は交通整理を行い、一家の車はやっと前に進むことができた。
泣いて感謝を述べる両親。青年警察官は主人公に微笑みを向けた。彼の前歯は欠けていた。


906 名前:本当にあった怖い名無し :2008/12/20(土) 22:57:55
十数年後。
白バイ警官のおかげで助かったと聞かせ続けられた弟は、自身も白バイ警官になった。
主人公は他の職も経験し、紆余曲折を経たのちに小児科の医者になった。
友人の病気や、弟の事故などを目前にしたことが影響していた。

過去を思い返しながら「いっぺんさん」は本当は、
願いを「いっぺん」に、「一度にまとめて」叶える神様なのだったろうと主人公は思う。
病院に向かったあの日、いっぺんさんは「早く大人になりたい」「白バイの警察官になりたい」という友人の願い、
主人公の「弟を助けて」という願いをいっぺんに叶えてくれた。
あの後、そのことを悟った主人公は一方で疑問も感じた。
「だったら、いっぺんさんはなぜ友人の命は助けてくれなかったのか」
それは、友人の家族のその後を見ているうちになんとなくわかってきた。
友人の父親はすっかり心を入れ替え、家族に暴力を奮わずに勤勉に働くようになった。
近所のスーパーで、友人の弟妹を連れて買い物に出ている姿も何度か見かけた。

友人はいっぺんさんに自分の延命を願わなかったのだ。
死を間近に意識していた友人が一番気にかけていたのは家族のことだった。
友人は父親の暴力からいつも家族を守っていた。
その友人が死んでしまったら、もう母親や弟妹を守る人がいなくなってしまう。
死に際の友人が必死で祈ったのはただ「父がまた家族に優しくしてくれること」だったのだ。

神様パワーで改変されただけなら本来の父親がDQNなことには変わりないし、
友人が死んだのにDQN父がのうのうと生きてるというのが気に食わない。
死んだ後に改心しても遅すぎる。以前からちゃんと働いてたら、
友人は気がねせず病院に行けて助かってたかもしれないのに。


907 名前:本当にあった怖い名無し :2008/12/20(土) 23:02:17
普通にいい話だと思った

友人  「早く大人になりたい」「白バイの警察官になりたい」「父がまた家族に優しくしてくれる」
主人公 「友人にまた会いたい」「弟を助けてほしい」

しかしこれが全部叶ったって解釈でいいのか
友人はこう…死んで大人になったってことなのか…?

 

いっぺんさん (文春文庫)
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