月が消える時(楠桂)

455 名前:本当にあった怖い名無し :2009/01/24(土) 06:05:13
楠桂の初期の短編漫画「月が消える時」。

AとBは双子の姉妹だったが、Aは掃除の際誤って学校の窓から転落死してしまう。
Aは優秀で性格も明朗だったため、皆から好かれていた。
一方のBは平凡で、Aとは対照的に勉強も苦手で大人しくてトロい。

Aがいなくなった生活の中で、親や、教師や、女子や、男子や、周りの皆が
Aを懐しがったり、Bの行動の鈍さを見咎めたり、些細な出来事のたびにBは
本当は自分の方が死んでAが生きていたほうが良かったと皆思ってるんじゃないか、
当のAもきっとそう望んでるに決まってる、と悩みを積もらせ、ノイローゼ気味になる。
心配したBのボーイフレンドは、もう気にするなとBを励ますが、
Bはかなり錯乱してきていて、鏡に映った自分の顔を「いやっ!Aが見てる!」と脅えたりする。

ある月食の夜、Bは家を抜け出して校舎に行き、Aが落ちた4階の階段で
窓に映った姿に向かって「今夜、あなたと私が交代して、私が消えるのね…」などと話しかけている。
探しに来たボーイフレンドがBを見つけて呼びかけると、Bがこちらへ振り返ったにもかかわらず
窓に映った顔も一緒にこちらを見ている。と、思ったのは一瞬で、すぐに普通の後ろ姿の鏡像になる。
Bは、ボーイフレンドに「今日、月が地球の影に消えてゆくように、私はAの影に消えるのよ」と言い、
「双子だもの、私はAが好…」と言いかけたところで、(双子なのに、Aだけ何でもよく出来て…)
との想いが込み上げてきて、一転「Aなんか大嫌い!!」と絶叫し、自分から窓を突き破って転落する。
ボーイフレンドはすぐさま救急車を呼び、運び込まれるBが
「どうして…? 私はBが好きなのに、どうしてBは私を嫌うの…?」と涙でつぶやくのを聞く。


456 名前:本当にあった怖い名無し :2009/01/24(土) 06:06:29
運良くBは一命をとりとめ、意識を回復する。
「助かってよかった、結局Aの亡霊なんていなかったんだよ」と見舞いで慰めるボーイフレンドに、
「Aって誰? 私は一人っ子よ」とBは答える。ボーイフレンドは一瞬動揺するものの、
精神の均衡を保つために最初からAの存在を無かったことにしてしまうのはよくあるパターンだと、
屈託のない笑顔を取り戻したBを見ながら自分に言い聞かせる。
ただ、あの夜、自分が見た窓ガラスの顔は幻だったのだろうかと、微かに心の片隅に引っ掛かっている…。

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オカルト風味の混ざった心理学モノって感じだが、何が怖かったかって
作者本人も実際に双子の片割れだということ。
まあ、現実には仲がいいからこそ、こうして作品内で毒吐きもできるんだろうけど。

大ゴマの「Aなんか大嫌い!!」は結構ショッキングだった。
普通、こういう姉妹間で優秀なほうと平凡な側とが対比されてわだかまりができる話では、最後に
お互いがそれぞれを羨んでました、みたいな告白をし合う仲直りイベントがありがちだけど、
きっぱり「大嫌い!!」と言い切った挙句、記憶の塗り替えまで起こすって、本当に救いようがない…。
どちらかが性悪というわけでもなく、ただたまたま同じ顔なのに出来の違いが著しかったというだけで、
本来なら仲の良かったはずの姉妹に亀裂が生じてくるのが遣る瀬無い。
しかも、優秀な側は素直に妹想いで、比較される側はコンプレックスに苦しんで心まで壊れていく
っていう片思いぶりも、じゃあどうすればよかったんだという答えが見つからなくて、後味悪い。
(Aは生前、落ち込んでるBへの対処とか、気を遣ってでき得る限りBの気持ちを和らげる方法をとってた。)

 

古祭―楠桂傑作集 (小学館文庫)
古祭―楠桂傑作集 (小学館文庫)