義眼物語(高橋葉介)
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758 名前:本当にあった怖い名無し :2009/06/05(金) 17:04:01
- 昔ホラー系の雑誌で読んだ話
男は義眼売りだった。
細工を凝らした美しい義眼をいつも大量に持ち歩いていた。
ふと知り合った少女の瞳に男は魅せられる。少女は盲目だが、とても美しい瞳の持ち主だった。
どれだけ工夫していても、やはり造り物は本物には敵わない。
男は少女の瞳がどうしても欲しくなった。
本物の美しい瞳を加工してつくった義眼は造り物とは桁違いに美しくなり、いい売り物になるからと。少女には兄がいた。兄は売れない画家で、少女をモデルにした絵を描いていた。
生まれた時からなにも見えない少女は、何故だか兄の絵だけはいつもハッキリと見ることができた。
瞳を売ってほしいと言う男を、兄は即座に突っぱねる。
しかし、男が代金として提示した額は惜しく感じられていた。
少女は障害のある自分のせいで兄は苦労しているのだから恩返しがしたいと、瞳を売りたいという。
売りたいと言い続ける少女に根負けして、兄は同意した。
少女が目の手術を受けている間、やはり間違っていたと苦しみながら外をうろついていた兄は、
絡んできたチンピラ相手にカッとしてケンカを受け、もみ合いの末に殺されてしまった。
手術が終わり目覚めた少女は兄の訃報に絶望した。
売買の契約は兄相手にしたものだからと、男は瞳を得ると金を残さず去っていった。
少女はわずかに兄が残したお金で男の子を雇い、その子に案内をしてもらった。
行き先は崖だった。少女はそこから飛び降りて亡くなった。男は瞳を加工すると法外な価格で売りに出したが、殺されて他の商品ごと瞳を奪い取られてしまった。
少女の瞳は様々な人の手をわたり、目をわたり、長い時の末にある老婦人の両眼となった。
老婦人のもとにやってきた親戚の青年は、老婦人の新しい義眼を美しいと誉めながら土産を取り出した。
土産は絵画で、描き手は無名だが秀逸な品であるという。
老婦人には残念ながら鑑賞することはできないが、他の家族に向けたものだった。
しかし、老婦人はその絵が何故か見えるという。
絵の中に描かれている少女がどんな表情を浮かべているかさえもハッキリとわかるという。
書き手に向かって微笑んでいるような少女の絵を見た瞬間に老婦人は泣きだした。
悲しいわけじゃないのに、何故か瞳が勝手に泣くのだと老婦人は言った。