キャラクター・コレクション―ファンタジーRPGの職業・役割/海賊(安田均・グループSNE)
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607 名前:キャラクターコレクション<海賊>1-2 :2009/06/26(金) 09:12:32
- 吟遊詩人である主人公は旅の途中、ある街で有名な歌姫の歌を聞いた。
歌姫は、もうかなり高齢なのだが今だ舞台に立っており、人々の心を動かす歌を歌い続けていた。
その内容はこうだ。まだ彼女が若かった頃の話だ。
歌姫は結婚したばかりの恋人と船に乗っていたのだが、
不運にも二人を乗せた船が海賊ビラーダの襲撃を受けた。船の乗客は、ただ一人の女性であった彼女以外皆殺しにされ、恋人も目の前で斬り殺された。
そして彼女は海賊船に連れ去られ、死ぬより辛い日々を送ることになったのだ。ある時、海賊の親玉ビラーダは戯れに彼女に歌を請う。
もはや涙も枯れ、身も心もボロボロになった歌姫はいった。
「歌は心でうたうもの。私の心はもう閉じてしまったから、歌うことはできません」
歌わなければ殺す、と脅されても歌姫はひるまない。
もう自分の中には何もない。恐怖も、生きる希望も、喜びも。
あるのはただ悲しみと憎しみだけだ。するとビラーダは歌姫に、ならばそれを歌にしてみろと迫った。
歌姫は言われるがまま憎しみを歌詞に変え、絶望をメロディに変えて歌った。
それはあまりに禍々しく、さしもの海賊たちをもたじろがせた。
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608 名前:キャラクターコレクション<海賊>2-2 :2009/06/26(金) 09:13:36
- だが、ビラーダだけは違った。
突然彼女を解放するといい、その上彼女が一番近くの街まで
たどり着けるよう、小舟と食料まで与えてやったのだ。その理由はこうだった。
「お前はその歌を多くの奴らに聞かせてやれ。そして大賊ビラーダの名を
その恐ろしさを世間に広めるんだ!」その日から歌姫はずっと歌い続けてきた。ビラーダへの呪いをこめて。
いつの日か自分の歌が刃となって仇の心臓を突き刺し、
嵐をおこし奴らの船を沈める日がくる事だけを願いながら……。歌姫の舞台を見た人々は皆、魂を引き絞るような歌を前に言葉もない様子であった。
涙を流している者すらいる。
主人公もまた歌姫の歌に感銘を覚えながらも一方で
歌の力の限界を感じ、むなしさを感じていた。彼女の仇であるビラーダはもう三十年も前に死んでいた。
もちろん彼女の歌が原因ではない。つまらない内輪揉めで仲間たちからマストに吊されたのだ。結局、彼女の歌は多くの人の心を動かしたが、当の海賊たちには
かすり傷一つ負わせることはできなかったのだ。むしろ皮肉にも彼女の歌は海賊ビラーダの名を不動のものにした。
彼女が死に、その存在を忘れ去られたあともビラーダの名は語り継がれていくであろうと思われた。それでも歌姫は、また明日もこの舞台で歌い続けるのだ。
美しく、哀しいこの歌を