黒の李氷・夜話(白井 恵理子)

132 名前:1/5 :2009/10/07(水) 20:06:11
漫画「黒の李氷」。基本古代中国が舞台の連作短編のシリーズもの。
大きなあらすじは人間じゃない主人公の李氷が、好きな女に憎まれたまま別れるも、
その女が色んな時代で同じ顔と姿(名前が違うだけでほぼ同じ人間として)転成してて、
それを女恋しで追い掛けながら彼女の転成の謎を解く、というもの。

割とどれも面白いけど妖貴妃の巻が後味悪さ的にはオヌヌメ

◆妖貴妃の巻・収録エピソード1「蠱(まじもの)」
迷子になっていた皇太子の息子、阿古を宮殿に届けた事で礼をといわれる主人公。
だが主人公はその時代の宮廷に腐れ縁の知り合いがいるのを見てそれを固辞する。
というのも、その知り合いは主人公と同じく人間ではなく天界の住人で、
邪気と呼ばれる、天帝に逆らい天帝の決めた君主を殺して歴史に混乱をもたらす
存在を探して殺すのがその使命。君主に害がおよぶ前にとめようと、
この国の軍大将になりすましているのだが、主人公はそれを知ってるため
面倒に巻き込まれたくない、と逃げようとする。

だが、阿古の側仕えの護衛に引き止められてびっくり。
それは主人公が惚れてる女の転成した姿だった。
主人公は一転、宮廷にとどまることにするが案の定、この国はひどいことになっていた。

まずジジイな皇帝が呪われてて、しかも最初に呪ったのは実の娘。
娘である公主(姫)は時の大臣と密通したことで共々罰せられ、それを恨みに思って…ということであった。


133 名前:2/5 :2009/10/07(水) 20:08:12
それを暴いたのが警察長官にあたる役人。
罪によって娘と恋人の大臣は斬首の刑に処された。
皇帝は長官を盲信して「まだ誰か呪っている者がいる」という
彼の言葉のままに、次々と処罰者を増やしていく。
皇太子はモウロクしはじめた父帝に反発、対立の様相を深めていた。

だが実際呪いはあり、国中に顔が落ちて死に至るという呪いが満ちていた。
彼らは一様に木の人形をもって(呪いの媒体)「これを皇帝に渡して」と
言い残して事切れるのだ。皇帝は恐怖で今にも死にそうだ。

そんな中で宮廷に残った主人公は、阿古にすごく懐かれていた。
主人公が惚れてる傍仕えの女も、あんなに楽しそうな阿古様は久しぶりに見る、と嬉しそうだ。

阿古は無邪気で元気そうだが悪夢に悩まされており、遊び疲れて眠ったその日も悪夢を見ていた。
夢の内容は、泣いている女が化け物に変わり、阿古に木の人形を渡して
「これをお父様に渡すのよ!」と迫るというもの。
阿古は自分がなぜこんな夢を見るのかさっぱり分からない。

そうこうするうち、呪い騒ぎはどんどんエスカレートしていった。
遂に例の長官が皇太子こそその呪者だと名指しする。
それにより皇帝と皇太子の間の亀裂は決定的になり、二人の間に戦が起きてしまう。


134 名前:3/5 :2009/10/07(水) 20:10:12
不安がって泣く阿古を寝かし付ける側仕え女。
阿古を思い涙を流した女を見て主人公は彼女のため戦うと誓う。

そして彼は戦いの途中で呪いの木人形をみつけた。
人間には脅威の呪いも、人間でない主人公には解呪可能であった。
人形を調べた主人公は、それによって呪者の正体を知ることとなった。

一方、天界人は皇太子が呪者でないことは分かっており、邪気を探すが見つからない。
狂気を遂行する長官を邪気と疑うが、その気配はなく証拠もなかった。
だが、戦いの中で傍仕え女と剣を交えた際、
長官がうっかり、彼が天界人をである事を知っている発言をした。
それを聞いて天界人はやはり奴だったのか、と長官を倒した。

だが死んだと思った長官はただの人形へと姿を変えた。
彼は邪気が用意したミスリード用の犯人であったのだ。
まんまと裏をかかれた天界人だが、側仕え女と共に人形を暴き
術者の名を調べるが、そこにあった名はこのようなものだった。

「陽石公主(処刑された皇帝の娘)。だが当人死亡するゆえ代理人・阿古」

それを見て動揺する側仕え女。しかもこれが書かれたこの日付では阿古はまだ生まれてもいない。


135 名前:4/5 :2009/10/07(水) 20:11:30
その頃、阿古は泣き付かれて眠った夢の中でまた「お父様」に呪いの人形を渡せと言われていた。
ずっと「お父様」を探していた阿古だがその日、夢の中で遂に探しあてる。

ずっと父だと言われていた皇太子は阿古の「お父様」ではない。
彼は獄中で生まれた阿古を引き取っただけなのだ
阿古は皇太子を呪いで殺して操り人形にすると、彼に精神だけ移して
「お父様」のもとへ駆け寄った。そこは皇帝の寝所。
「お父様」とは皇帝であったのだ。

「おじいさま! お母様がこれをおじいさまに渡すまではくやしくて
死ねないって! 受け取ってくださいお父様!」
呪いの人形を手に、無邪気に笑う阿古。
阿古の母親は、実の父である皇帝に犯されて阿古を身籠った。
そしてその秘密を知った恋人と共に口封じのため処刑されたのだ。

獄中の母の胎内で阿古は、母の恨みや無念を知ってこの計画をたてたという。
罪の報いを受けて呪いを受け取れ、という阿古に皇帝は涙を浮かべながら
受け取ろうとするも、なぜ、まだ胎児だった阿古にそんなことができたのだ、と
つぶやいた。「それはね…」と言い掛けた阿古だが、急に夢の世界から覚醒させられる。

「お前が邪気だからだろ」
「にーさま……?」
兄のように懐いていた主人公がすぐ側にいるのをみて阿古は少し驚いていた。
起きたばかりでぼんやりしており、さっきまでのは夢?なんだったの?
と困惑している。邪気に憑かれて君主を殺そうとしていたが、
阿古自身は何もわかっておらず、ただの無邪気な子どもであった。
今さっきの事も現実とは理解してはいない。


136 名前:5/5 :2009/10/07(水) 20:12:57
主人公はそれを分かっていながらも、紐を阿古の首にかけ締めあげた。
全てを終わらせるには阿古を殺す他、方法はないのだ。
苦しむ阿古。そこに側仕え女が飛んできた。
主人公を見て、やめてくれと懇願する。
この子は自分たちが弟のように可愛がった子じゃないか、と。
だが主人公は惚れた女を突き放し冷淡を装って阿古の命を奪った。
女は主人公を鬼と罵ると、その場から走り去った。

主人公は死んだ阿古に優しくおやすみを言う。
お前の生涯は悪い夢だったんだ、もう何も怖くないからと。

やって来た天界人に、邪気は殺した。もう下界に用もない
だろうと主人公は言い放つ。そして、色ボケの爺や不幸話に便乗して利用した
天の派閥争いがよってたかって阿古を不幸にした事を怒り、涙した。

次までの貸しにしとくぜ、という天界人の言葉に主人公は激昂する。
「次? 冗談じゃねぇや! 次なんかあってたまるかよ!」

そう言い放って宮殿を去る主人公。
そして心に傷を負いながらも、彼はこれからも時をこえて
さまよいながら、転生する恋人を追い続けるのだ。
(終わり)


137 名前:まじもの :2009/10/07(水) 20:17:59
長くて申し訳ない。
本当はこの後、皇帝が「思子宮」という宮殿を建てて子を偲んだ・・・という後日談があります。
今更遅ぇよ!て感じで後味悪いんだけど、どうにも収まりが悪くなるのでこっちに書きました。

あと本当はこの巻の次エピソード「妖貴妃」も入れたかったけど
上のの長さから自重した。また改めて投下しようと思います。
ではノシ


139 名前:本当にあった怖い名無し :2009/10/07(水) 23:18:49
>>132-137
面白かった。乙です。
探して読んでみたくなったよ。

ところで主人公は何で天界人に借りを作ったの?
天界人が殺す筈の阿古を勝手に殺したから?
そこがちょっと良く分からなかったんだけど。


140 名前:本当にあった怖い名無し :2009/10/08(木) 00:23:49
>>139
そこは「天界人に借りを作った」ではなく「天界人に貸しを作った」の間違いだと思う。

天界人「この借りは、次のときに返すぜ」
主人公「次なんてあってたまるかよ!」
みたいな流れだったはず。


232 名前:妖貴妃1/5 :2009/10/11(日) 16:37:35
漫画「黒の李氷」妖貴妃投下します。
漫画自体の大きなあらすじは>>132参照

>>139は>>140が説明してくれた通りです。
本当は天界人が阿古を邪気として殺さなくてはいけなかったのに
主人公がやってくれたから&今回は省いたけど、天界人も
主人公が転生を追ってる女に惚れてる。
だから本来ならば、小さく可愛い阿古を殺して女の恨みを買うのは
天界人だったから、ていう含みもある。

◆「妖貴妃」
主人公には「畢方(ひっぽう)」という名の使い魔がいる。
一つ目、一つ足のカラス(みたいなの)で、色んなものに化けることができる。

このエピソードの主要人物である彫刻家の青年が見かけた時、畢方は
木に化けていた。青年はその“木”に惹かれて切り倒し、一部を持ち帰る。
その青年の家に主人公がやってきた。彼が持ち帰った畢方の一部(ちなみに足)を返してもらうためだ。
だが青年の才能のすごさをみて(魂が宿っちゃう作品もある)
一度作らせてから返してもらい、しばらくそれを見せ物にして小金を稼ごうと思い立つ。

彫りたいものがあったが、あの木が主人公のものだったというなら返すという青年だが
「いやいやその熱意に負けた! 返却は彫りあがってからでいいから!」などと言って
青年の元に留まる主人公。

次の日も様々な彫刻を作り上げている青年。
その作業場で主人公はウロウロしていたが、そこで彼はある少女を見つける。
名は玉環。青年の実家の本家にあたる楊家の養女で、
しょっちゅう彼に会いにきていた。青年が彫りたいのはこの少女なのだという。

少女は類い稀な美貌の持ち主で、無意識的な妖艶さを身につけているのだが
それについてまったく自覚していないようで、川で魚を掴んで遊んだりと子供っぽい性格をしていた。


233 名前:妖貴妃2/5 :2009/10/11(日) 16:39:35
少女が青年に気があるのは明白だったが、青年は意に介さぬようで
絶世の美少女に始終まとわりつかれても何とも思わないようだった。
むしろ彫刻を作っている時には邪険にしていた。

青年は言う。自分にとって彫刻とは物の本質(のようなもの)を掴み、それを木の中に封じ込めることだと。
そして自分はまだ玉環のことを掴まえられない、とも。

惚れてるのか、と聞く主人公に青年はただ彫りたい、という以外興味ないと言い切る。
そうこうするうち二年も経ってしまうが、まだ青年は畢方を彫りはしない。
その間に玉環は素晴らしい美女に成長していた。そして二年前とはうって変わって着飾り、
目もくらむような美しい姿で青年のもとへとやって来る。

「あたしと逃げて……。夜が明けたら宮中に連れてかれて皇太子のお嫁さんにされちゃう。……だから、お願い……」
玉環は涙ながらに青年へと手を伸ばす。
だが、青年は「おめでとう、幸せに」としか言ってはくれなかった。
玉環は号泣する。さよならすら言ってくれなかったと。

そして宮中入りした玉環は、皇太子の寵愛を受けていた。
野育ちの彼女は奔放にふるまうが、男たちは次々彼女の魅力の虜になっていく。
時の皇帝も例外ではなく、息子から妃を奪い取ると貴妃の称号を与えてしまった。

最高権力者の想い人となった玉環はもうやりたい放題であった、
その望みのまま、どんどん宮廷を華美に変えていく皇帝。
遠征から戻った一人の将軍は久しぶりに戻った宮中の、そのあまりの
変わりように驚いていた。そして皇帝のそばに侍る貴妃の姿を見て合点する。
―― あの女のせいか、と。


234 名前:妖貴妃3/5 :2009/10/11(日) 16:42:15
玉環は、地位や力のある男達が自分の前ではたじろいだり、
一生懸命機嫌をとろうと振舞うのがおかしくて仕方ない。
それらを心の中だけで青年へと語りかける。退屈な場所だけど、ここはここなりに愉快ね……と。

だが青年は全てを知っていた。彼が玉環をモチーフにした作品のために作った習作が、
半端に魂を得て彼女の所業を逐一語っていたからだ。
そして都でも女一人に皇帝も高官も骨抜きにされてしまい、政治を省みなくなったことが噂されていた。
そして不満が高まっていく。

そんなある時、皇帝は青年の彫刻家としての腕を見込んで宮廷へと招いた。
玉環は何年ぶりかに会えた想い人の姿にウキウキとしている。
妃を彫れ、という皇帝に命に青年は逆らう。そこで貴妃の美しさは
彫ることもできないか、と言う皇帝に青年は言う。
「あまりにも醜いからです」
それを聞いて、青年にくっついてきた主人公は仰天した。
玉環もまたそれを聞いて驚きつつ、衝撃を受けていた。
皇帝は怒り、青年を供の主人公と一緒に投獄してしまった。

それからまもなく、大軍の指揮権を握った将軍が国からの脱出を図っていた。
彼は玉環を恐れていた。振り向けばあの女につかまる、と振り向きもせず
馬を走らせている。そして逃げのびたその場所で、彼は皇帝に反旗を翻した。

ここに来て役人たちは国の大事を思い知った。そして動揺し、いつしかいい始めた。
「貴妃様のせいだ……」
あの女が来てから何もかもおかしくなった、と。その流れは民衆にまで広がり
身分の貴賎を問わず「楊貴妃が悪い!」と口々に言い、止まらなくなって行く。


235 名前:妖貴妃4/5 :2009/10/11(日) 16:43:11
恐ろしくなった玉環は皇帝に助けを求めるが、皇帝は玉環の手を振り払い
彼女を見捨てた。不満の矛先をすべて向けられ、軍から追われることになった玉環。
だが都を出る前に、玉環は顔を隠して何とか青年のもとへとやって来た。
「あたし、遠くに行くの……。もう会えないの。だから…お願い。
 ずっとあなただけが好きだったの……」
そう言って玉環は青年に口付けた。一連の事を見ていた主人公は思う。
(彼女が何をした? 何かしでかしたのはいつも男ではなかったか?)と。

残された青年はしばらく思いつめたように震えていたが、
突如叫ぶと彼は憑かれたように畢方を彫りはじめた。十日間、不眠不休で作り上げたそれは、
この世のものとは思えぬ恐ろしいものの像だった。

彼は、これを玉環だという。
「……俺には、玉環がこう見える。初めて会ったときからずっと。
 とっくに知っていた。あの娘が男を狂わせ、破滅させる魔性のものだと。
 でも魅かれずにはいられない。……ずっと玉環を愛していた!
 玉環が醜いわけではない。こんな風に見えるのは男のエゴなんだ……。
 でも、こんな玉環だからこそ愛しているんだ、愛して……」
ひとしきり慟哭すると、青年は息たえた。男達を魅了したのはこの魔性であった。
そして今度は逆にそれに怯えて彼女を殺そうとしている。

主人公は玉環討伐の混乱に乗じて牢をでると、彼女の姿を探し始めた。


236 名前:妖貴妃5/5 :2009/10/11(日) 16:43:51
彼女はいた。松明をもった人々に追い回され、泣きながら崖へと追い詰められている。
主人公は玉環像のままの畢方の足に乗り、玉環の元へと降りてきた。
「やぁ間に合った。彼の遺作だ。あんたの姿だそうだよ、渡しにきた」
玉環は放心したように眼を見開いている。
「わたし、これがわたし……?」
つぶやく玉環。彼女の中でなにかが切れてしまったようだった。
「いや、あのね……」
説明をしようとする主人公だがもはや彼女には聞こえていない。

「彼には私がこう見えていたの?」
涙を流しながら凄絶な笑みを浮かべると、止める主人公を一顧だにせず玉環は
自身の像の上へとあがっていく。そして狂ったように喉をのけぞらせて笑った。
「あなたには私がこう見えていたのね!!」
兵達は怯え、一斉に玉環に火矢をかけた。
燃え上がる炎の中で玉環はなおも声高く笑い続けている。

主人公は思った。火の中で矢を受けた彼女の姿はいっそう美しい。
それはあたかも彼女が、青年が作った像の意味を知り、青年をも含めた
全ての男達をあざわらうかのような美しさだ、と。
彼女は男達に勝ったのだ――と。

玉環の死後、反乱を起こした将軍も息子に討たれて死に、皇帝や高官たちも
次々死んでいった。主人公は打ち捨てられたような玉環の像を拾うと
それを元の足へと戻して畢方に返し、その翼で次の場所へと去っていった。

(終わり)


237 名前:妖貴妃 :2009/10/11(日) 16:46:50
これでおしまい。他エピソードは暗い・重いなりに後味は
悪くなかったりするけどそれも面白いし、他にも後味悪いのあるんでお勧め。
今文庫でも出てるし。

246 名前:本当にあった怖い名無し :2009/10/11(日) 18:58:34
>>232
乙、おもしろかった
主人公のマイペースぶりがなんだか笑える

 

黒の李氷・夜話 1 (ホーム社漫画文庫)
黒の李氷・夜話 1
(ホーム社漫画文庫)
黒の李氷・夜話 2 (ホーム社漫画文庫)
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(ホーム社漫画文庫)
黒の李氷・夜話 3 (ホーム社漫画文庫)
黒の李氷・夜話 3
(ホーム社漫画文庫)