気楽に殺ろうよ(藤子・F・不二雄)

233 名前:本当にあった怖い名無し :2010/02/28(日) 18:41:46
藤子・F・不二雄の読みきり短編、『気楽に殺ろうよ』。多少うろ覚え。

主人公は、ある朝目覚めた直後に強烈な痛みを感じ、いつの間にか異世界に迷い込んでいた。
一見ふつうの自分の家庭・社会なので最初は気付かなかったが、
どうやら世間の価値観が我々のそれとは大きく異なる世界らしい。

例えば、人間の本能の中では食欲と性欲の道徳観がほぼ逆転しており、
個体維持のみの食欲は独善的欲求で恥ずべき背徳的なものとされ
食事は他人に見られぬようカーテンを閉め物音を気にしながらこっそり行う一方、
性欲は種族維持のための公共的欲求であり全くのオープンとなっていて
幼児の絵本にも王子様とお姫様のベッドシーンが普通に挿絵で載っていたりする。
また、そんな世界なので人口も増え、赤ん坊1人の出産と引き換えに
1人の殺人が正当な市民の権利として公的に容認されている。

駅のホームでは生まれた赤ん坊が気に食わない高校生カップルが
赤ん坊をゴミ箱に放り投げ、新たな子作りをしようとその場で早速セクースをおっ始めるが、
それを見咎める駅員も「コラ! ちゃんとスペアを作ってから保健所で処分するのが順序だろ。
まったく、近頃の若者はマナーというものがなっとらん!」てな具合い。


234 名前:本当にあった怖い名無し :2010/02/28(日) 18:42:38
主人公はこんな世界は狂っていると強弁するが、逆に主人公の気が狂ったと家族から思われ
病院でカウンセリングを受けることになる。
医者は、主人公に理解を示すような口ぶりを見せるが、
「あなたのように、食欲は隠すようなことではなく自然の欲求だという進歩的考えの人々もいる。
見てください、これ。私も趣味で欧米の乱食パーティーの写真を収集してるんです、ウヒヒ…」
などと話がかみ合わない。反対に、上記のような性欲・食欲の公私論で主人公を説得し、
社会を一つの巨大生物・人間をその細胞に喩えた上で
「細胞は常に新しく代謝され適度な量で構成され全身の健康を保っている。
人類はもう成長期を過ぎた成人期で、種全体としてこれ以上の人口膨張は無用。
自然死のみでは不十分で、個々の末端細胞間で自律的に人口調整が行われていくのは、世間として有用」と諭す。

理路整然と説得され、合理的な反論もできずにいるうち
今まで深く考えることもなく常識として受け入れていた主人公の中の価値観も揺らぎ、
しまいにはすっかり「更生」してこの世界になじんでくる。

そしてある日、同僚が殺人権の行使で主人公をターゲットにしているらしいと妻から聞き、
子供が生まれた時に留保していた権利でやられるより先にこっちがやってしまおうという相談でまとまる。

翌朝、目覚めた際に一瞬何か違和感を感じたものの
殺人の意志を固めて心がはやっている主人公は、包丁をたずさえ気にせず出勤。
「殺してやる…。これはみんなが普通にやっている事なんだ」とブツブツ呟きながら
殺気立った形相で歩く主人公の背景で、街には食堂や屋台の看板が溢れていた。

…この後、主人公はやらかしちゃうんだろうね。


235 名前:本当にあった怖い名無し :2010/02/28(日) 21:19:11
普通に怖いなwさすが藤子・F・不二雄

236 名前:本当にあった怖い名無し :2010/02/28(日) 21:57:38
>>233
あー、確か殺人権は譲渡もできるんだよね。
大金積まれて「譲って欲しい」って頼まれたり
知り合いの上品そうな着物の奥さんが道ばたで浮気した旦那殺して
血まみれのまま「あら、○さん。主人が生前はお世話になりました」とか
コメディタッチで話が進むのが一層不気味だった。

 

気楽に殺ろうよ (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
気楽に殺ろうよ
(小学館文庫―藤子・F・不二雄
〈異色短編集〉)
藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編 1 (藤子・F・不二雄大全集 第3期)
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SF・異色短編 1