ホーム » 小説 » 小説/か行 » 愚者のエンドロール(米澤穂信)

285 名前:1/4 :2010/07/06(火) 02:13:01
米澤穂新の古典部シリーズ第二作「愚者のエンドロール」

とある、そこそこの進学校にある、部員は一年生のみ、活動内容は不明の部活「古典部」。
そこに諸事情から入部した折木奉太郎は、推理能力や洞察力に優れたものがあるものの、
「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」
をモットーとする省エネ主義者。
しかし、同部部長の無邪気で好奇心旺盛なお嬢様、千反田えるの
「わたし、気になります」の一声で、日常に潜む大小入り混じる謎を
次々に解決させられる羽目になる、というのがシリーズの基本プロット。

で、今回の謎は、2年生の文化祭出し物のミステリー映画。
ただ、脚本担当の女子生徒は真面目過ぎた。
ミステリーは全くの素人だったのにも関わらず、ホームズ全集を資料に必死に脚本を書き上げていくも、
解決編の脚本を書く前に心労からダウン、故あって連絡もとれない。
肝心の解決編の撮影が暗礁に乗り上げてしまった。

そこに2年の「女帝」入須冬実が、その名のとおりのリーダーシップと人身掌握力を発揮し
事態の収拾を図ろうと、古典部部員達、まあ事実上奉太郎に、
解決編の内容の「推理」に協力してくれるよう依頼してくる。
具体的には、製作に携わったスタッフ達の意見をオブザーバーの立場で聴取、
状況や内容的に無理や矛盾がないか、意見を述べて欲しいというもの。
ここで肝心なのは、「解決編」はオリジナルではいけない。
あくまで、脚本の本来の「解決編」を、状況から推理するのが趣旨ということ。

で、聴取を始めるが、どうもどの意見もそれぞれの独断や思い込みから
本編との食い違い、或いは撮影状況との矛盾が生じてしまい、
誰の意見も採用できそうにない。
彼ら彼女らの「解決」を、一刀両断、次々に却下していく奉太郎。


286 名前:2/4 :2010/07/06(火) 02:13:49
しかし、その結果、使える意見は皆無、撮影はいよいよ暗雲。
そこで「女帝入須冬実の提案
「君には真相を見抜く才能がある。探偵役に相応しい。
 その才能で、どうか君が真実の解決編を推理してくれないか」

その言葉に、省エネ主義者奉太郎も流石に自尊心にくるものがあり、
珍しくやる気を出して撮影完了分の本編や状況証拠を分析、
とうとう見事な「解決編」を見つけ出す。
だらだらした素人ミステリーは一転、撮影というシチュエーションそのものの
盲点を突く見事な叙述トリックを駆使した本格ミステリーだった…という
「真相」にたどり着く。
「女帝」もその結果にご満悦。
「よくやってくれた。君は見事に真相にたどり着いた」

で、無事文化祭前に映画は完成。
古典部にも完成したビデオが配られる。
しかし、それを観た奉太郎以外の古典部員は、ストーリーの出来のよさこそ
褒め称えるもの、どこか奥歯にものの挟まったような、微妙なリアクション。
鑑賞後、部員それぞれが、こっそり奉太郎を呼び出し、素朴な疑問をぶつけてくる。
それらは、映画のストーリーそのものではなく、あの小道具は…とか
あの資料によると…とか、どちらかと言えば、脚本家の「意図」周辺に関わる疑問だった。
それらに何一つ合理的な回答を出せない奉太郎。
そして、親友でホームズマニアでもある福部里志の一言に止めを刺される。
「作品としての出来はいいと思う。しかし、これは本来の脚本じゃない
 彼女は、ホームズの時代のレベルの知識しかなんだよ。
 ホームズの時代には叙述トリックを用いた作品はほぼ皆無だった。
 クイーンまで待たなければいけなかったんだよ。僕は、彼女がクイーン並とは思えない」


287 名前:3/4 :2010/07/06(火) 02:14:36
事の真相はこうだった。
脚本家の女子生徒は、とにかく人が死ぬのが嫌だった。
だから、誰も死なないミステリーの脚本を書き上げた。
しかし、現場の暴走で、脚本はどんどん書き換えられていく。
彼女の意図とは違うストーリー。しかし、彼女はみんなと最後まで映画を完成させたかった。
ジレンマ。
入須冬実も悩んでいた。
純粋に、映画として面白くない脚本。
しかし。ここでダメだしをすると、彼女を深く傷つける。
そこで、彼女の心労を口実に、脚本家を途中までで事実上降板させ、
彼女以外の誰かにそっくり脚本を途中から作りかえてもらう。
そこで白羽の矢が立ったのが、奉太郎だった。
冬実は、奉太郎の姉と知り合いであり、彼女から弟を推薦されたのだった。
(ここの部分は、冒頭部で該当するやりとりが固有名詞抜きで語られている)

得意満面から一転、どん底な気分に突き落とされた奉太郎は、冬実を呼び出す。
「探偵小説にありがちな台詞がありますよね。『お前は探偵よりも、探偵小説を
書いた方がいい』って。あなたは、僕に探偵の才能があると言った。
あの言葉は、本音ではなかったのですか」
「本音ではない。嘘かどうかは、君がそう思うのなら、そうなのかもしれない」


288 名前:4/4 :2010/07/06(火) 02:15:28
「そうですか」
冬実の答えに、微笑む奉太郎。

まあ、いわゆる「後味の悪さ」とはちょっと違うかもしれん。
前に出てた「ボトルネック」とあわせて、
なんというか、誰しもが心当たりのある、青春ってやつの残酷な側面っていうか
そういうのを生々しく描ける作家だと思う。
マジおすすめ。

 

愚者のエンドロール (角川文庫)
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